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愚神たちのマニアチュア  作者: ヌルハチ
8/9

八話

避難所はすぐさま叫び声に満たされた。

「いやああああぁぁ」

「奥だ!!奥につめろ!」

「これ以上奥なんてねぇよ!」

牛歩ではあるが、両腕を引き摺りながら廊下を進むゲノ。

天に許しを乞うもの。抱き合いお互いを確かめあうもの。ひたすらに逃げ道を探すもの。そして味方を糾弾し始める者もいる。

「キオウカズヤ!そして水無月カホ、お前たちがゲノをおびき寄せたんだ!」

先ほどの女学生である。

「そ、そうだお前らのせいだ!」

「あいつらを追って、ゲノがやってきたんだ」

「奴らを囮にしてその隙に横から逃げよう!」

「そうだそれでいい!」


「おい!やめないか君たち!!」

「そうだよ!恥ずかしくないのかい!?」

ガルハットとデインが声を荒げる。

「皆で力を合わせればきっと勝てる!お願い、魔法が使える人は集まって」

何人かの魔術師がデインの呼び掛けに応じる。

「あの、わたし回復魔法を少しだけつかえます」

「俺は煙をちょっと出すだけだけど、ゲノの視界を塞げるかも」

「戦闘能力はないけど、僕の泥人形なら、時間稼ぎくらいはできる」

「みんな、ありがとう・・・・」

そう、闘う意思を捨てぬものもいる。

そしてこの男も。

「デインさん、ガルハットさん。すみませんが皆さんをお願いします」

「カズヤよ、何をするつもりであるのかね」

ガルハットはカズヤの殺意に満ちた瞳に身を震わせる。

「あんたまさか・・・・」


「俺が、あいつを倒します」


「気でも狂ったのかね!?一体のゲノを倒すのに、何人の魔術師が必要か・・・!」

「ならどちらにしろ俺は必要ないはずです。大丈夫です、死ににいく訳じゃありません」

カズヤの目は据わっている。倒せると本気で信じて疑わない様子に彼は舌を巻く。

「気に入ったよ・・・君のそういうところ。倒せるんだね?」

「はい、倒します。倒してみせます」

カズヤは、躊躇うことなく言い切る。

「カズヤ」

デインは正面に立ちカズヤの目を見る。

「何か作戦があるんだろう?・・・死んだら容赦しないからね」

「もし俺が失敗したら、皆さんを頼みます」

「はぁ~・・・行くなって言っても聞かないだろうしねぇ・・・」


「カズヤくん・・・・」

水無月がカズヤの裾を掴む。

「さっきゲノと接触したときに感じたんだ。俺、あいつを倒せると思う」

「本当にやれるんだね・・・?」

「当たり前だよ。俺を誰だと思ってるの?」

「分かってるだろうけど、コアは多分心臓部分。頑張ってね」

二人は目線を合わせ、微笑みを交わす。

それだけで、十分であった。


挿絵(By みてみん)


「無茶をするんではあるまいよ」

「助けが必要な時は、いつでも言いな!」

「カズヤくん・・・・!」


「おい、一人飛び出したぞ!」

「馬鹿か・・・気が狂ったんじゃないか?」

「魔法使えない雑魚が何するつもりだよ・・・」


市民や学生の一部は既に達観したのか、その姿を傍観していた。

カズヤは短剣を抜き、150mは先のゲノに向かって駆けて行った。

「はっ死ぬぞ。あいつ」

「時間稼ぎにもならなそうだな」


ゲノはその醜悪な右腕を変化させていく。ゴムを擦るような不快な音が廊下に響く。

そして鋭利な刃物と化したゲノの腕は、音速でカズヤに向けて放たれた。

鋼の盾ですら貫くその一閃はカズヤを肉塊へと変え・・・


「っ当たってない!?」

「馬鹿なっ!避けただと?」

「どんな反射神経してやがる・・・・」


カズヤはゲノから放たれた一撃を上体を反らし回避する。

ゲノは淡々と左腕も形を変化させ、巨大な刃を作る。空中でくるりと一回転させ勢いを付けたその刃はカズヤの腹から上を広範囲で薙ぎ払う。

しかしカズヤは地面を滑り、これも回避。

対象を失った刃は虚しく宙を裂く。

当たらない、当たらない、当たらない。

剣ではたき、宙を飛び、体を回し、身のこなしだけでゲノの攻撃を回避していく。

ゲノまであと20m。

(やはり思った通り、魔法をぶつけられない限り、動きは鈍いままだ!この速度ならやれる・・・!)

ゲノの背中から千手観音のように触手が伸びる。

それらに神々しさを感じるということはないであろう。

むしろ巨大なハリガネムシのようにおぞましくうねっていた。

不快さを極める触手はすぐさまカズヤをとらえ、一斉に飛び付く。

だが、カズヤは速度を一気に加速することで、触手を掻い潜る。

触手どうしはお互いに絡み合い、無力と化す。

「なああいつ・・・魔法使えないんだよな・・・?」

「人間の動きじゃねぇよ・・・」


「っ!?」

しかしカズヤの歩みは止まる。彼の足首には細長い触手が一本絡まっていた。

「カズヤくん!」

(馬鹿な、早くなった!?魔術師が近づくと加速するのか・・・?)

一瞬でも立ち止まればそれまで。横から、後ろから黒く変形した壁が迫り、彼を押し潰そうとする。

「だめだったか・・・・」

「助けなきゃ!行くぞみんな!」


だが一転して混乱状態に陥る一同とは違い、カズヤは冷静であった。


ゲノは両腕を伸ばしたまま、目の前のカズヤにすぐ対処する事はできない。

ならば残った攻撃部位は・・・


「こいよ・・・・とっととアレを見せろ」

彼は、あの攻撃を待っていた。


ゲノの胸が開き、形が変化する。

そこから三本の槍と、コアが頭を見せ、カズヤに照準を合わせる。

残り5m。いくらカズヤとはいえこの距離で射出されれば避けることは至難の技だろう。


「―――そこだッ!!」


カズヤが短剣を投げる。そして同時にゲノの槍も射出された。

短剣は勢いを殺すことなく、露になったコアを捉え・・・

「行けっ!カズヤくん!!」




避難所中に響き渡る、狂喜と驚愕が入り交じった歓声が、闘いの終結を物語っていた。

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