三話
「魔力・・・研究所・・・?」
「はい、人類の叡知の結晶と言っていいと思います!」
目の前で赤縁の眼鏡をいつも以上に輝かせながら喋っているのはつい先ほど知り合った同学園生、水無月カホである。どうやら学校紹介が好きらしく、先ほどからやたらとテンションが高い。
「もしかして常連さんとか・・・?」
「うーん・・・とにかく入りましょう!」
背中を押されるようにしてゲートをくぐる。
センサーが『学生ID検索中』と言ったところで少しドキッとしたが問題なく通過することができた。どうやらゲンブの手続きというのは上手くいったらしい。
重い扉が自動で開くと・・・そこにはまさに未知の世界が広がっていた。見たことのない、知るはずもない機械、機材、機器が所狭しと並べられており、その中にちらほらと数人の研究員らしき人達がいる。しかしその施設自体はどこか老朽化を感じる佇まいをしていた。
「おっ水無月ちゃん、また来たね~」
研究員のうちの一人が話しかけてくる。年老いたようには見えないが、とても若くは見えない。30代といった所だろうか?
「はい!何か新しいのできてますか!?」
「うーん今週はないかなぁ、水無月ちゃんにハグしてもらえたら頑張れるけど」
「ははは~冗談はやめてくださいよ~」
流れるように飛び出したセクハラ発言も水無月はのらりとかわす。
というより多分気づいてない。天然なのか。
「というか君は・・・水無月ちゃんの何なのかな?」
研究員はこちら鋭くを睨む。なんだかここに来て敵意ばかり向けられている気がする。
「ああっ、紹介しますね、編入生のカズヤくんです!今学内を紹介してて・・・」
「なーんだ、そうなんだね~よかったよかった。ふぅ~」
何がよかったのか全く分からないが、彼は額を拭い、安心したように息を吐く。
こちらもよろしくお願いしますと握手を求めるが、それは見てみぬふりをされた。
すると奥の方から研究員たちの会話が聞こえてきた。
「おい、来月からまた費用削られるらしいぜ」
「マジかよ。まだ新型魔力弾の調整も終わってねぇのに」
「ゲノに使う機会がないからな~しょうがねぇよ」
「あまり・・・・芳しくない状況みたいですね」
「ゲノが現れないからなぁ・・・・お国の方針には逆らえねぇ」
どこか哀愁を感じる声で、彼は近くの機械を撫でていた。
「じゃあ私はカズヤくんにいろいろ教えて回ってきますね!」
カズヤもありがとうございました、と腰を曲げる。
すると研究員はカズヤの腕をつかみ、耳打ちする。
「水無月ちゃんに触るな 喋るな 同じ空気を吸うな 半径100kmに近づくな」
「いや無理がありますよ!最後に至っては消滅するしかないです!」
研究員はそれ以上なにも言わず、カズヤを手放すと、地面にペッと唾を吐く動作をする。背かには最後まで彼の視線が痛く突き刺さっていた。
ゲンブ先生、俺はここで上手くやっていく自信がなくなってきました・・・
展示室のような所は、研究室に比べると幾分か綺麗に見える。
「すごいな・・・この機械は何て言うの?」
「はい!それは長距離魔道弾射出装置三型ですよ。魔道弾は術者から離れるとどうしても威力が軽減してしまうデメリットがあるんですけど、最新の研究で弾丸を超高速でライフリングすることでジャイロ効果とともに魔力の減少を最小に抑えることができるっていう事が判明して・・・ハッ私ごめんなさい!ついつい喋りすぎちゃって・・・」
「いや、大丈夫、気にしないで。ところでこれは・・・」
「ああっこれはですね!!対ゲンジード防護装甲の試作品です!ここ200年程ゲノジードは出現していないのでいつまでたっても試作品のままなんですけどね、ともかく昔の戦闘データをもとに身体防護魔法の魔力効率を高めることで彼らの攻撃によるダメージを最小限に抑えることができるとされている新素材でコーティングされた最新兵器なんですよ!」
本当に彼女は日本語を話しているのか怪しくなってきた。
カズヤは彼女の話を半分も理解できていないかったが、聞くたびに「よくぞ聞いてくれました」と言わんばかりにハイテンションで喋りだす彼女の様子を見るのが楽しかったので、特に興味がないものでもどんどん聞いてみることにした。
「あの、これは?」
「はいっ!それはですね!!―――」
「こっちもすごいな」
「くぅーさすがお目が高い!―――」
「うわおっきいな。これは?」
「おお、!それはそれは―――」
「はぁ・・・はぁ・・・というわけでですね、ゲノジードに対抗するために様々な兵器の開発を行う、ここはそんな施設なんですよ」
「あ、ありがとう。ほんとに好きなんだね、ここ・・・」
息を弾ませ呼吸を必死に整えているのを見てカズヤはすこし苦笑いをする。
「はい、とっても。もしもっと研究が進めばいつか私みたいな魔術師でも、人類の役に立てる日がくるかもしれないので・・・。ここに来ることは私にとって夢物語に浸れる、最高の現実逃避なんです」
最後の方の言葉はぼそりとしていて聞き取れなかったが、あえて聞き返すのはやめておいた。
「・・・すみません、ちょっと横道に逸れてしまいました。こっちが本命です。ついてきてください」
水無月についていくと少し広い空間に出た。所々に机と椅子が置いてあり、それがほとんど埋まる程度の人数の学生がくつろいでいるのがわかる。それに売店やカフェまである様で、どうやらここは休憩所らしい。
「じゃあ、こっちです」水無月に促されるままに進んでいく。
そして一つ階段を降りた先も同じような空間が広がっており・・・
いや違う。そこには見たことのない機械が三つほど並んでいた。
どれも同じ形をしているが、大きな特徴として地面と垂直に立った液晶の真ん中に一つ、人の手形のくぼみがあるという事だ。まるで、ここに手をかざせと言わんばかりに。
「やっぱりここに来たか、boy and girl。やっぱり俺の見立てに間違いはなかったな」
その声には聞き覚えがあった。そうつい先ほど、反抗し攻撃を仕掛けてきた御雷という名の不良生徒と闘っていたはずの
「「ゲンブ先生!!?」」
「まあそう驚くことでもないだろ?俺はこれでも500年間魔術師やってるんだからな。生まれて20年も経ってないガキンチョに負けるわけねぇっての」
色黒の肌には先ほどよりも脂が乗り、派手なサングラスもさらにぎらついてる様に見える。
「よかった・・・すこしどんな闘いだったか気になりますけど、とにかくお怪我がないようでよかったです」
予想もしてない早さと邂逅にカズヤは驚きを禁じ得ない。
「はやすぎる・・・まだ30分くらいしか経ってませんよ・・・?」
「それにしても水無月、お前には感謝しておかないとな。いつもここに入り浸っているのは知ってたからmaybeと思ったが・・・ともかくありがとな、手間が省けて助かったぜ」
真っ白の歯を見せニッと笑う。
水無月は謙遜の言葉を口にし、それをゲンブが否定しまた水無月が謙遜するという押し問答がしばらく続いたが、それが終わるころにようやくゲンブが本題を切り出す。
「っでだ。ここの学園の生徒は最低限やらなきゃいけんことが3つある。一つ 授業の出席、二つ ゲノジードとの戦闘。そして三つ目が・・・」
「ここの魔力計測器での定期魔道検診です」
息を合わせたように、水無月が割って入る。
「定期・・・魔道検診・・・」
「大体やり方は分かるだろう?そこの溝に手を重ねて、魔力を込めるだけさ」
「先に、私がやりますねっ」
水無月は機械の前に立ち、瞳を閉じ深呼吸をした後、機械に視線を投げつける。
一歩進みすっと手を機械にかざすと、五秒ほどで機械音とともに結果が表示された。
《 ミナヅキ カホ 1172点 》
(っ!前より30上がってる!やった!)
「傍から見れば魔力を込めてるなんてよくわかんねえだろ?そんなもんなんだよ。だから肩の力を抜いて、体をエネルギーで捉えるんだ。後はそのエネルギーが手を通して機械に流れ込んでいくのをイメージするだけ。簡単だろ?」
「ちょっと難しいですけど・・・やってみます!」
機械の前に立つと、周りがざわめきだすのが分かる。ギャラリーが先ほどより明らかに増えている。
「期待の新人の注目度ってやつか・・・まあ無理もないわな。学園長の推薦なんてウワサが立っちまったら」
「ち、ちなみに水無月さんのスコアって高い方なの?」
「・・・ううん、私は学年どころか歴代最下位ですよ・・・」
水無月の声に憂いを感じ、とても申し訳なくなる。
「ご、ごめんね!ちなみに平均はどれくらい?」
「大体3000くらい?頑張ってくださいね、カズヤくん」
「よっしゃあいったれー」
「機械ぶっ壊せ編入生!」
「超えろ学園長!!」
(とりあえず、平均にいけば・・・・)
野次の声がだんだん大きくなる。ゲンブは何もいわず、ただ見守っていた。
(落ち着け、俺。集中すればきっとできるはず。まずは体をエネルギーで捉えて・・・)
不思議と心は静寂に保つことができた。イメージトレーニングもバッチリだ。
(流し込め・・・いける!!)
機械に勢い良く手をかざす。
「「「いけ! いけ! いけ! いけ!」」」
「頑張って!カズヤくん!」
「いったれBooooY!!!」
「うおおおおおおおぉぉ!!!」
その日キオウ カズヤが叩き出したスコア、978点は歴代最下位であった水無月を押し上げ、晴れて最下位の座はカズヤに明け渡された。そしてその事は学園内新聞にトップで掲載されるビッグニュースとなる。