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恋する乙女と藤見くん。

【恋する乙女と藤見くん】


 短編①「桜の妖精さん」



「……好きな人が目の前にいるって言ったら、先輩はどうしますか?」


 そう言うと、私の目の前にいる新入生、藤見悠太(ふじみ ゆうた)は真っ直ぐ私を見つめてきた………。







 ………春と言えば、何を思い浮かべるだろうか。出会いや別れ、旅立ちなど、一年間の中で人生の機転となる時期だ。それは、社会人だろうが、学生だろうが関係ない。


 ……新しい生活に期待で胸が膨らんでいるようだ。新品の制服を翻し、談笑しながら校門をくぐる新入生たちの笑顔は何よりも眩しく感じた。

 校庭に植えられた桜の木から落ちる花びらが、お祝いしているかのように降り注ぐ。フラワーシャワーと言っても過言ではない。

 天気も快晴。まさに入学式日和だった。やはり、晴れ舞台というものは快晴に限るのだ。


「晴れて良かったね~!ほんと!」

「ホントだね!入学式が今からドキドキでたまらないよ!」

「ねー!あと、一緒のクラスだったらいいね!」

「うん!もし違うクラスでも遊びに行くからね!」

「わー!嬉しい!待ってるー!」


 なんて、女子生徒の会話が聞こえた。入学式特有というかなんというか、初々しい感じが見て取れる。

 生徒会として、校門前に立つ私、『雀宮紫(すずめのみや ゆかり)』はそんな光景を見ながら、微笑ましいような、懐かしいような気持ちになる。

 ああ、私も一年前はこんな感じにだったなぁと、思わず頬が緩んでしまう。だって、


 一年前のあの日は……。


 なんて思い出に浸っていると、隣にいた女子生徒に腕を小突かれた。


「……なににやけてるの?気味悪ーい」

「いや~、一年前は私たちもあんな感じだったんだな~って」

「ははーん……。アンタ、もしかして、会長と初めて出会ったことを思い出してたな~?」


 ふーん、とニヤニヤと笑みを浮かべながら女子生徒、もとい、親友の鹿目楓(かなめ かえで)は私の腕を何回も小突いた。あまりにも、不意打ちな言葉に変な声が出てしまった。


「ひえっ?!そ、そんなわけ……!」

「おっ?これは確定ですなぁ~?」

「ち、違うし!いい、言いがかりだ~!」

「いやいや、顔に書いてあるわよ?か・い・ちょ・う、って~」

「はあ?!か、かか、書いてないから!」

「……なにが書いてないのかな?」

「だから、会長の……って、え?!」


 思わず横を振り向くと、そこには黒髪に黒縁メガネの男子がいた。腕につけている腕章には、生徒会長と書かれていた。

 首を横に傾げて、不思議そうにこちらを見つめてくる。背が高い彼は私のことを見下ろしながら、長い睫毛を上下させている。

 その仕草に、胸がいっぱいいっぱいになり顔が自然と赤くなった。


「あ、ああ、いえ!会長、これは……!!」

「お喋りも良いけど、ちゃんと新入生を迎えるのも、僕らの仕事だからね?忘れちゃダメだよ?」

「あ、は、はい……」

「やーい、言われてやんのー」

「鹿目さん、貴方もですからね?」

「うっ、はーい……」

「はい、お説教はここまで。雀宮さん、君は笑顔が素敵なんだから、ほら、笑って笑って」


 そう言うと、会長は両方の人差し指を使って口角をニーッと上にあげる仕草をした。その姿に胸がきゅーんっとなる。か、可愛い……っ!耳まで真っ赤になってしまい、完全に嬉し恥ずかしの茹でだこ状態になった。

 横で、楓が何か言ってるが気にしない。朝から会長と話せた上に、こんなにも可愛い姿を見られたのだから、今日一日平和になるに決まってる!


 むしろ、あと一年間は生きられる!


 なんて、裏でガッツポーズをした。楓はやれやれと呆れていたようだが、誰に何を思われていようがどうでも良かった。神様、本当にありがとう……!と私は天を仰ぐ気持ちを抑えながら、新入生に笑顔を振り撒いた……。


 この可愛すぎるお方は、会長の東屋優(あずまや すぐる)さん!私よりも一つ年上の高校三年生。学年一番の秀才、背が高く、子犬みたいに人懐っこい顔をしている。性格は紳士的でお茶目。見た目に反して料理部の部長も務めているという、なんだこの可愛い生き物は!状態。

 その為、裏ではファンクラブすら結成されてるほどの人気者で、毎月のように告白する人が絶えないのだとか。


 ……そして、会長は私の初恋の人。


 初恋……まあ現在進行形ではあるんだけども、私の一方的な片思い。絶対に会長にはこの想いは気づかれてない。というか、会長は、告白を告白と受け取れない程の鈍感なので、絶対に気づいていない。

 でも、それで構わない。

 私はこの距離感が一番いいのだ。もちろん、あわよくば付き合えたらいいなーなんて思うが、この関係を壊したくないってのもある。


 せっかく苦労して生徒会に入ったんだもの……!着実に距離を詰めないと……!


 ……私が会長に恋したのは、ちょうど去年の入学式だった。


 生徒会は毎年、入学式の日にメンバー全員で新入生を迎えるというのが恒例行事になっている。笑顔で話しかけることによって、新入生の緊張をほぐしてあげるのが目的だ。


 ……そう、去年の入学式も快晴だった。

 桜の花びらがひらひらと舞い降りて、新品の制服にちょっとドキドキしてた。校門をくぐったとき、ちょうど大きな風が吹いて、桜の花びらが一気に落ちてきた。

 それはもう、映画やコンサートのクライマックス如く紙吹雪が舞って私にかかった。

 最悪~って思いながら振り払っていると、「大丈夫ですか?」と誰かが話しかけてきた。

「ありがとうございます」って言ったら、それは花びらを手に持って微笑んでいた会長だった。


「……頭についてましたよ。桜の妖精さんみたいで、可愛いですね」


 そう言った時は、今と変わらず可愛い笑顔で……完全に私は会長に落ちた。子供のような無邪気な笑顔が、私の心を掴んだのだった。


 それから、なんやかんや努力の甲斐あって、生徒会の書記になる事が出来た。親友の楓は会計。私が無理言って一緒に入ってもらったのだ。楓自身は進学に有利になるなら~と案外乗り気で助かった。


 そして、初めて会長と出会ってから一年後の今日……こうやって会長の近くで新入生を迎える。こんなにも嬉しいことがあるのだろうか。

 と、チラリと会長の方を見る。会長は分け隔てなく新入生と話していて楽しそうだ。見てるこっちまで温かい気持ちになる。


 今年こそは、私の恋に進展がありますように……。


 校庭の桜の木の妖精さん(?)にそんな願い事をかけながら、新入生を迎えていると、突然、突風が吹いた。桜の木の枝が大きく揺れ、花びらが雨のように校庭に吹き荒れる。バサバサッと擦れる音がしたあと、ピタリと風がやんだ。


 すると、地面いっぱいが桜の花びらが、絨毯かのように敷き詰められていた。周りを見れば、新入生在校生が変わらず制服や体に花びらを付けていた。


「うわー……最悪。クリーニング出したばっかなのにー!」

「あはは、でも雨よりはマシだよ」

「まぁ、確かにそうなんだけど~。この~、風のいたずらっ子さんめ~」


 なんて楓の不満を聞きながら、自分も体や制服についた花びらを取っていると、一際桜の花びらを浴びた男子生徒が目に入った。

 どうやら新入生のようだった。花びらを落とすのに悪戦苦闘していたのだろうか、ポケットの中を裏返したり、髪を掻き回したりしながら落としていた。

 どこからでも、マジシャンのように花びらが出てくるから、ふふっと笑ってしまった。


「これで大丈夫かな……」と、その男子生徒が腕や肩を確認しているところを見て、私はあることに気づき、彼に駆け寄った。


「あのっ」

「えっ?」


 突然知らない先輩に話しかけられたからか、驚いたように後ろに後ずさった。そんな姿も初々しい。


「少し、屈んでくれるかな?」

「えっ、え?」

「大丈夫!すぐに終わるから」


 そう言って笑うと、その男子生徒は不思議そうな顔をしながら頭を下げるように屈んだ。それなりに背が高いのだろう、猫のように腰が丸まった。

 あった、と私が声をあげてそれを取る。それは、頭の上に乗っかっていた桜の花びらだった。

 まるで去年の私みたい。と思わず笑ってしまった。


「あのー……もういいですか?」

「ああ!ごめんごめん、もう大丈夫だよ!」


 男子生徒は背筋を伸ばして、何があったんですか?とでも言いたそうに首を傾げたので、私は指に挟んだ花びらを見せた。


「ふふっ、頭についてたよ。まるで、桜の妖精さんみたいだね」


 そう言ってもう一度笑った。これは私が去年、会長にしてもらった事の受け売りだ。全く同じシチュエーションだったから、思わずやってしまった。

 我ながら似合わないことをしたなあと思っていると、男子生徒は少し硬直してから、嬉しそうに微笑んだ。


「……ありがとうございます。助かりました、先輩」


 思ったよりも、礼儀正しい。というか、顔立ちが整っていて驚いた。幼いながらにも鼻筋が綺麗で、だけど少年の愛らしさが残っている可愛らしい笑みだった。


「いえいえ。さっきの風、大変だったね~」

「ええ、桜まみれになるとは思わなかったです」

「ふふっ、私も実は去年、君と同じ目に遭ったから、その気持ち分かるよ~」

「え、そうなんですか?」

「そうそう。だからお互い様だよ~」


 そう話していると、周りの生徒達が足早にどこかに向かっていた。玄関の横にクラス割りの掲示板があるのだ。時計を見るともうすぐで予鈴が鳴ろうとしている所だった。


「うわあっ、呼び止めちゃってごめんね!クラス割りの掲示板、玄関に張り出されてるから、早く行った方がいいよ!」

「あ、はい!ありがとうございます。」


 そう言うと、なにかに気づいたように「あ、でもその前に……」と言って、その男子生徒は、私の頭に手をかけた。すると、桜の花びらを掴んだのか、彼はニコりと微笑んだ。


「……先輩の方が、桜の妖精さん、みたいですね」


 ……その言葉に、何故だか、胸がドキッと跳ねた。会長に言われた言葉と重なったから、じゃない。

 微笑む彼の姿が眩しくて、私の胸はドクドクと煩く鳴り響いていた。


 あ、あれ……なんで、なんで、こんなにも心臓がうるさいの?!あ、あれか!正統派イケメンの効果って奴か!そうか!フェロモン(?)ってやつか!


 と、脳内がぐるぐるしているそんな私を他所に、彼は私の手のひらに桜の花びらを置き「では、失礼します」と軽く一礼してそのまま足早に玄関に向かって行った……。


「紫~、どうしたの~?もう戻るよ~?」


 ……気がつけばもう予鈴が鳴り終わっていたようだったが、耳には届いてなかったらしい。楓が不思議そうに私の肩を叩いた。そして、私が振り返ると楓は驚いたように目を丸くした。


「あ、あ、紫どうしたのその顔!?真っ赤だよ?」

「え、ええっ?そんなに真っ赤かなあ……?」


 確かにちょっと体が熱いけれども~えへへ~、と笑うとなにかに気づいたのか、妖艶な笑みを浮かべて楓はポンッと手を叩いた。


「……ははーん。さては恋だな!さっきの男の子だろう、そうだろう?」

「え、ええそ、そんなわけ!!」

「かいちょー!!!この子、かいちょー以外に浮気しましたよー!?」

「?!ちょ、ちょちょ!やめて楓っ!!」

「えー?僕がなんだってー?」

「わわっ!聞かないでくださーい!!」

「???」


 私は楓の口を抑えながら、あははと誤魔化した。……夏でもないのに体が熱い。妙に脳内はいろんな思考で目まぐるしくなっている。いや、そんな訳ない、私は会長一筋である。


 他の人を好きになるなんて……有り得ない!!


 そう叫びたい気持ちを堪えながら、青く澄み渡る空に誓ったのだった……。


 ……しかし、あの男の子が、私の恋を揺るがす、運命の人になるとは思わなかったのである。





ちなみに、某worksさんの曲を6時間聴きながら書きました。


恋愛小説ってこんなにも難しいんですね。

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