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第五十九匹:世界秩序教会。


 急啓


 このたびの御地での騒動、知らせを受け驚き、お見舞いと謝罪の意をお伝え致したくこれをしたためております。

 本来なら直接お伝えすべきところですが、遠方のためままならずまことに申し訳ございません。


 言い訳になってしまいますが、このたびのことは、当協会の計画や思惑があって行われた訳でなく、一部会員の独断にて行われたものであり、代表として、管理教育の至らなさを猛省し、深謝する次第です。

 ニ度とこのようなことを繰り返さぬよう、教育方針を見直して参る所存でございます。

 このような謝罪文でお許し頂けるかは分かりませんが、決して当協会しいては私に皆様への悪意があった訳ではないことだけご理解頂ければと存じます。


 つきましては、心ばかりの品ではありますが、お詫びのしるしを別送いたしましたので、お納めください。

 後日改めてお伺いしお詫び申し上げたく存じますが、取り急ぎ書中にてお詫び申し上げると共に、皆様の安全と街の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。

 

                                                           草々

 世界秩序協会代表(魔物の王)


 


 読み上げたフィーユが小首を傾げる。


「最後なんですかこれ。ごちゃごちゃした妙な字が……」

「内藤勘九朗、漢字だ」


 「かんじ?」と聞き返してくるフィーユに応えず、幼女店長神の話を思い出す。


 想定はしていた。

 なにせ、なんやかんやという怪しい省略の仕方をしていた時点で疑わしくはあったのだ。

 そして一人の人間を使わせたという言葉。

 それなのに、なぜ聖槍が四本もあるのかという疑問。

 吸血鬼化の上書きに、俺による吸血鬼化が一時的なものにしかならないという、あいつにしては妙に用意周到過ぎる細工。

 さらには手紙を寄越して来るという、この世界にあるわけのない魔王の律儀さ。

 そして決定打の名前。

 つまり。


「魔王は俺と同じ、この世界に送り込まれた人間だ」


「……蚊じゃん」

 

 フィーユの冷たい一言を受けつつ、俺のシリアスっぽい空気は粉々に砕けた。

 もうほんと、嫌。こんな世界。







 しばらくして帰宅して来たミーナに教えられ庭に確認に行くと、食料を満載した荷車が置いてあった。

 さらには街の門番曰く、筋骨隆々の見知らぬ男女が門の外に大量の建築資材を運び込んでいったらしい。


「お詫びの品ってか」

「魔王から、ということですか」


 それ以外考えられない。

 だってこの世界に寄付とかボランティアとかそんな優しい心なさそうだもん。


「私の妹が大変な時に……どこか他所でやってほしいものです」

「ソウデスネ」

「そうですよ! なんで私に手紙なんて送ってくるんでしょう」

「ユーシャだからとかじゃない?」


 もう突っ込む気にもならず適当にフィーユの愚痴に返しつつ、しかしこれからどうしたものかと考える。

 手紙には直接伺うとあった。

 勇者が集まっている街に来るのだから、詫びだけということはないだろう。

 罠である可能性はあるが、もしそうでないなら向こうは話し合う気があるということだ。


 戦うというならヘルシスがいる。きっと喜び勇んで戦ってくれるだろう。

 だが戦っていいのか?

 こっちで下着の樹の下の集い(パンツリー・パーティ)なんてカルト教団ができたのに対し、向こうは世界秩序協会。

 こっちで解脱(ノーパン)した妹を悲しむ姉が泣いている間に、向こうはお詫びの手紙と品の発送。

 本当に戦うべき相手なのか……?


「姉様、入ります」


 振り返れば、集いに参加すると言っていたユーコがおり、傍らには忘れもしない俺のオアシス、メイアちゃんの姿が。


「ユーコ! 目が覚めて戻って来てくれたんですか!」

「いえ、目覚めたから集いに参加しているんですよ、姉様」


 もはや相容れぬ姉と妹。

 そんなことはどうでもいいけど。


「戻ったのは、妙なことがあったからなんです。メイア姉様、どうぞ」

「フィーユ様、教会からもう出た身ではありますが、なぜかまた天啓を受けまして、それをお伝えしに参りました」

「天啓? また神様からのお言葉ですか。どのようなものですか?」

「それが……てへぺろ、と」


 あぁ、どこからか見てやがんな、あの野郎。


「出てこいやあああッ!! こそこそ隠れてないで出てきて説明して謝れやあああ!! ロリ経営本部!!」


 もはやミーナにもユーコにも、メイアちゃんにも届かない俺の声。

 フィーユだけがビクリと反応し、うるさかったのかギロリと俺を睨む。


「あぁ、また、またお言葉が降りて来ました。うるさいクソ虫けら、と」

「やめてえ? 折角元に戻ったのに、メイアちゃんにそんなこと言われると傷つくからやめてえ!!」

「蚊ーさん、ほんとにうるさいです。クソ虫けら」

「……ア、ハイ。ソウデスネ」

「その反応の違いはおかしくないですか!? なんか私が傷つくんですけど!!」

「また来ました! そんなことしている場合か、と」

「お前なんぞに言われたくねえんだよ! さっさと出てきて全部説明して血を吸われろや!!」

「ベーッ、だそうです」


 クソッ、あのロリ経営本部神がやっていると思うとムカつくが、メイアちゃんが舌を出してやっているのを見ると、和んじゃう!


「もういい! とにかく、もうだいたいのことはわかってるんだ。魔王は俺と同じ、お前にこの世界に放り込まれた被害者だってことなんだな」

「その言い方は語弊があるけど、おおむね正解。と」

「なんでそんなことになった。話していた勇者の他にもまだ送り込んだやつがいたってことか?」

「前回惜しくも時間がなくて省略したけど、その話した最初の勇者が、よりにもよって魔王になったんだ。と」

「……魔王を倒して魔王になったと?」

「そう。と。……なんか天啓大安売り過ぎませんか、これ」


 メイアちゃんの言葉はごもっともだ。もう天啓というか電話だ、これ。


「それはおかしい。魔王を倒して魔王になる勇者なんて、この世界的過ぎる。あの手紙を送って来るヤツのすることじゃない。まだ何か隠しているんじゃないか?」

「そう言われてもそうなんだから仕方がないわ。力を持ちすぎた人間は、その力に溺れ、神すらも裏切るのよ。と」

「だから、お前、俺を蚊にしやがったんだな……。一緒に死んで混ざったとか言いやがったけど、万が一裏切っても脅威にならないようにわざとやったな!」

「てへぺろ、と」


 よし、死んでも、いや死んだら今度こそ全血液を吸いに行ってやろう。絶対だ。例え何があろうともだ。カラッカラにしてやる。

 そして、おそらく想定外だったんだろうけど、無限に増殖する吸血蚊は既に脅威となっている。

 姿を現さずわざわざメイアちゃんを通じて会話をしてくるんだから、それが奴もそう感じている証拠だ。

 さすがこの世界の神。

 とんでもなく、ろくでもない。


「もう気づいているんでしょうけど、魔王こそが元国王を吸血鬼化させた張本人。つまり……。と」

「いちいち間を置くんじゃねえよ。つまり魔王も吸血鬼ってことだな。よりにもよって、俺が蚊にされたのに、なんで敵がまともな吸血鬼なんだよ……」

「鈍いわね。魔王が吸血鬼だからこそあなたを送ったんじゃない。そう、吸血鬼には吸血鬼をぶつけるのよ! と」

「なにその馬鹿の発想」


 なぜかフィーユが真顔で俺を見つめる。

 責め立てるような視線でふと同じようなことを言ったことがあった気がしたが、すぐさま忘却の海に投げ入れた。


「なにその馬鹿の発想」

「何で二回言うのよ。それよりさっさと全部気づきなさいよ。四人の勇者はどんな人間が選ばれた? と。……私いつまでこんな会話を続けなきゃいけないんでしょうか。 え? もうちょっと? はあ……」

「もったいぶりやがって……、メイアちゃんに迷惑かけずにさっさと言えよ。たくっ、どんなって……おいまさか。魔物の血が入ってるってのは」

「そうよ! 吸血鬼を退治するといえば、混血の者(ヴァンパイア・ハーフ)が定番でしょ! がんばって揃えてみたわ! 完璧でしょ! ……と。ああ、もう帰りたいです」

「メイア姉様、がんばってください。ネイイー様も見て下さっているでしょう」

「お前――」


 誰一人正確にはハーフではないし、一人既に裏切って吹き飛ばされてるし、一人は王城以降まったく登場してないし、一番強いのアロサウルスの混血だし。

 揃えてみたって、本当にみただけで意味ねえし。

 あれ、もうこの神様がポンコツ過ぎて憎しみが哀れみに変わりそう。


「――がんばった、ね」

「なんでそこで急に素直になったの……? まあいいわ、そう、がんばっのよ。と。ありがとうございます。もう少しがんばれそうです」


 もう混線しているみたいになっちゃってて訳がわからない。俺の哀れみをメイアちゃんが受け取ってるみたいになってるし。

 しかしとりあえずはわかった。

 ロリ経営本部神が、かわいそうなヤツなんだってことは。


「もう、話し合いで解決できるなら、それでいいんじゃないかなあ」

「良いわけがないでしょう!? 裏切って魔王になり、お姫様を攫って吸血鬼に変えるような男よ、あいつは。このままじゃ世界が支配されるのよ? それにここまでお膳立てしたのに、倒さない理由なんてないでしょ! ちゃんと説明したんだから、あなたもちゃんと仕事をしなさい! その槍であいつの心臓を貫けば倒せるようにしてあるから!! よろしくね!! ……だそうです」


 お告げが終わり、思案する。

 ……までもない。


「フィーユ、どっちにしてもあっちから来るんだ。話しをしてみよう」


 こうして、たまに勇者と呼ばれるだけのフィーユと、世界秩序教会代表の内藤との和平会議が決まったのだった。





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