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第五十五匹:店長神様。


 万が一にも暴れて迷惑をかけないようにと、メイア自らの提案で彼女を軟禁することとなった。

 空き部屋の一つに彼女を連れて行き、外から鍵をかけて閉じ込める。


「もし耐えられなければ、これを履くといいべ」

「こ、これは……天上の衣(ザ・ヴェルテックス)! よろしいんですか、こんな貴重なものを……」

「メイア姉の魂はそのパンツよりもっと上、腹巻ぐらいの位置にあんべ」

「……ッ! ありがとうございます。ユーコ様、ご武運を。リメンバーパンツ」

 

 というメイアとユーコのよくわからない会話があったが、もう手一杯で気にする余裕はなかった。

 夜まではまだ時間があるとはいえ、ひとまず門を閉ざし、屋敷の内にいる者には詳細を伏せながらも警戒を呼びかけて回る。

 ひとまずそれが終わってなんだかんだしたところで、ほったらかしにしていた店長の話を聞くことにした。


「あの流れで放っておかれるのはおかしくないだろうか。しかも、途中でゆったりティータイムを挟んでいなかったか?」

「そんなことはないですよ、ねぇユーコ」

「スコーンうまかったべや」


 ちなみに実際には実に悠長に女子会を挟んでおりました。


「ごめんなさい店長、久しぶりにお話するとなると少し緊張してしまいまして……」


 テヘッとはにかんで見せると、


「なら……仕方ない」


 まんざらでもなさそうな顔で店長は水に流す。

 相変わらずフィーユに甘い、そしてチョロい。


「ほんとこんなやつばっかりだ。この世界」

「お前に言われたくないわい」

「こんな世界よりは俺のほうがまともだよ! 一緒にすんじゃねぇ……おい!」


 咄嗟にフィーユがユーコを連れて距離を取る。

 店長にまで俺の声が聞こえている。

 考えてみれば、通常門番を通しさらに執事を通して来客が知らされるというのに、店長はどこから入って来たのか。

 一緒にするなとか言っておいて、俺も随分警戒心が抜けていたようだ。


「安心しなさい。魔物になったというわけではない。正確にはあれらは魔物とは少し異なるが……」


 店長の体が白い光りに包まれる。

 いよいよ本物のカーネル・サンダースっぽくなっちゃったよ。


「色々と予定は違ったけど、ついにこの時がきたみたいね」


 全身を白い光りが覆う頃、初老男性ががんばって出せるものではない声がその内から聞こえ始める。

 この声は……。

 この幼く高く、そのくせどこか大人ぶった喋り方は……。


「お前は……」


 光りが消失すると共に店長の姿が消え、代わりに幼女の姿が現れる。

 俺をこんな世界に送り込んだ、俺をこんな姿にした張本人。


「貴様あぁぁぁぁぁッ!!」

「……うるさい」

「だからその間をやめろって言ってんだよおぉぉぉ!! 今さら出てきやがって、俺がどれだけの屈辱を受けてきたことか! こんなわけのわからない世界に送りやがって!!」

「……黙って」

「そういえばお前、最初見た時に聖槍で攻撃してきてたなあ! くそっ! なんであの時気付かなかったんだ! 技使えてるし、俺の位置までわかってたのか!! ……いやちょっと待て、フィーユに微妙にいかがわしい注文したりもしてたな。寂しい老人のやることだと思ってあんまり言わないでいたけど、なんだお前、幼女のくせにそういう趣味なのか。あれだろ、聖槍が変な形してるのもお前の趣味なんだろ!! 大人ぶった幼女で変態でカーネルサンダースって、どんだけ設定盛ってんだよ!! 店先に突っ立ってないで、もっと役に立つことしろよ!!」

「……うるさいって言ってんでしょおおおッ!! 誰が好きで突っ立ってるもんか! あたしの店だったのに、何か色々と物も人も増えてわけわかんなくなったのよ! 挙句の果てにはお荷物みたいに見られていじめらるし、他にやることなかったんだから仕方ないじゃない!! あと趣味は良いでしょ!? 可愛い子が好きで何が悪いのよ!!」

「開き直ってんじゃねぇよッ! もういい、表に出ろや! その凹凸のない身体、血を吸いまくって腫らせて少しはグラマラスな体型に見えるようにしてやるよ!!」

「こっちは一日中出たくもないのに店先に出てんのよ! 誰が他の時間まで出てやるもんですか!! あんた役目も果たしてないくせに、何を偉そうにしてんのよ! 神罰下すわよ!!」

「もう喰らってるわああああああッ!! 何にもしてないのに、蚊にされた挙句にわけのわからないエブリデイだよおおおッ!!!!!」


 ひたすらに罵りあい、両者息も絶え絶えになった頃、


「あの、緊急事態なので、真面目にやりませんか」


 フィーユに、フィーユなんかに言われた一言で、俺たちはひどく意気消沈し言い合う気をなくした。

 ダメージがすごい。


「それで、一体どういうことなんですか。店長が……可愛い女の子になるなんて、さすがにどうしていいやら」

「……そうね。ごめんなさい。そこの虫けらに合わせてしまって、恥ずかしいところを見せてしまったわ」

「おいフィーユ、お前さっきあの幼女に可愛い子とか言われたからお返しに可愛い女の子とか言ってんだろ。よく見てみろよ、あのひねくれてそうなクソガキの顔を」

「ちょっと、そこの蚊。いいかげんにして。あなたの声、フィーユとあたしにしか聞こえていないんだから、今のところ他の三人には突然老人から美少女に変わって一人で絶叫してるようにしか映ってないじゃない」


 美少女という言葉を反射的に否定しそうになりつつ見回してみれば、ユーコは不思議そうな顔をし、ミーナは眉間に皺を寄せ、ヘルシスは……飽きたのか寝ている。

 

「よくわからないけど、私様全部吹き飛ばしたくなってきたからそろそろ説明していただけるかしら。今の魔法じゃないみたいだし、あなたは一体何者なの? 派手に燃やしていいパターンなの?」


 既に導火線に火がついていそうな剣幕だった。


「燃やすだなんて、あなた後悔するわよ? なにせあたしは、この世界を司る神なんだから……!」


 誰も彼もが、無言になった。


「ああもう、仕方ない。おいフィーユ、三人に……いやヘルシスは寝てるし気にしないだろうから二人に伝えてくれ。こいつは怪談話でいう物知りな老人だ。先に教えておいてくれればいいのに、大事になってから色々と語り出したりやってくれたりする役だ。それ以上でも以下でもない」

「ねぇ、その説明あんまりじゃない……? せっかく神が下界に降臨してるっていうのに」


 フィーユが二人に俺の言った通りの説明をする。


「そういうことね。だったらいいわ」


 どうやら理解してもらえたようだ。


「話ができる状況にしてやったんだ、感謝してくれていいぞクソ幼女。……おい、ぐずってないでさっさと喋れ!」

「ぐずってないわよ! ちょっと目にごみが入っただけよ!!」


 声震えてんじゃねぇか。

 その震えを深呼吸で整えつつ、やっとこさ一つ咳払い。


「この話をするためには、まず数百年前に何が起こったかを話す必要があるの」

「うるさい、簡潔に話せ幼女」

「あんた神に向かってその口……。ま、まぁいいわ。じゃあまずあなた達姉妹の秘密について話すと――」

「吸血鬼なんだろ? いや、正確には先祖が吸血鬼なんだろ」


 キッと幼神が俺を睨む。


「あんたうるさいのよ!! 何か恨みでもあるわけ!?」

「あるよおおぉぉッ!? なんでないと思った、ありまくりだよ!! でもそうじゃねぇよ! さっき俺が言おうとしてたことをお前がもったいぶって言おうとしてるからだろうがよおぉぉッ!!」


 話が遅々として進まない。

 また涙ぐむ幼神の代わりに俺が話したほうが早いらしい。


「フィーユ、ユーコ、お前たちには吸血鬼の血が混じってるんだ。いやたぶん、カナイ村の住人の何人か、もしくは全員がそうなんじゃないか」

「ですが、私達は人の血なんて飲みませんよ!? そんな未開の地の怪しげな部族じゃあるまいし」

「いや十分怪しげな……。じゃなくて、伝承の怪物に変えられたお姫様っていうのがカナイ村を作ったんだろ? しかも村人が血を吸われてたんだろ?」

「でもそれはあくまで伝承ですし」

「いやすっかり忘れてたけど、新月の夜に情緒不安定になったりパワーアップしたりとか、完全に吸血鬼設定だし、それに……」


 霧となり宙でバツ印を作る。

 きょとんとした様子のフィーユに比べて、それを見上げたユーコは。


「んみゃああああああッ! やめてくんれぇ!」


 バッタンバッタンもんどり打って倒れる。


「ほら」

「いや、ほらって、人の妹に何をしてくれてるんですか。ほらユーコ、落ち着いてください。なんてことないですから」

「あれ……? そういえばお前はなんともないんだな」

「当たり前ですよ。白いバツ印を忌み嫌うのは村でも僅かな人だけ……半分ぐらいです。

そもそも迷信なんてですよ。ほら不吉な数字とか、地域によって違ったりするじゃないですか。あんなものなんです」

「その程度……?」


 吸血鬼の血が薄くなっているからだろうか。

 にしても、白いバツ印ってそもそもなんだ。

 視線を感じて見てみれば、ニヤニヤした顔で何かを待っている幼女神がそこにいた。

 ほんと、ミーナに燃やされれば良かったのに。


「どういうことだ」

「ほらあ、結局そこまでしか説明できないんじゃない! だから最初から話の話を聞いていればよかったのよ」

「おい、後ろを見てみろ。一回は納得したものの、俺の声が聞こえないままのミーナが爆発しそうな顔をしているぞ」

「……あ、ごめんなさい。すぐに簡潔に話すから、ね」


 しかめっ面のミーナにおどおどと謝罪する。

 この世界の神だ、みたいなことを言っていた自信満々の幼女神はもういない。


 やっとまともに説明しだした幼女神曰く、昔この世界に魔王と呼ばれる者がいた。

 魔王の勢力の力は凄まじく、なす術のない人類を哀れに思った神は一人の人間を遣わせる。

 その人間の持つ神から授けられた聖なる力と、一致団結した人々の協力で見事勝利を収める。

 人々はその者、勇者と神に感謝し魔物に脅かされることない平和な世界を作り上げた。

 しかし、なんだかんだで攫われた王国の姫は吸血鬼に変えられてしまい、なんだかんだで王国にいた騎士に救われたものの怪物の力を宿したままでは帰ることができず、魔王に賛同しなかった魔物達を連れてほうほうを旅し、旅先で心を共にした人々と共にカナイ村のあった場所に落ち着いた。


「その子孫があなた達ということよ」

「……なんだかんだってなんだよ」

「……」


 明らかに視線を逸らしやがる。


「おい、なんだかんだってなんだ」

「……いいでしょっ! 簡潔に話してるんだから、多少省略するのは認めなさいよ!」

「まぁ長話されるのも御免だが……。でもそれなら何でユーコはバツ印に反応するのにフィーユは反応しないんだ?」

「ほら、外国人の血が入ってても、その子孫は彫りが深かったり、色々でしょ」

「そうだけど、吸血鬼の話をそれと同じにされるのはなんというか心外だ」

「あと、そもそもの話、お姫様はバツ印――正確には十字架が苦手だなんて特性持ってなかったわ」

「……はっ?」

「そりゃそうよ。だってこの世界にはそんな聖なる十字なんてないもの。それにあなただって十字架が弱点なんて設定いらないって言って、十字架の効かない吸血蚊になったんじゃない」

「まぁ確かに。そんな気軽に持ち出されそうな弱点いらないしなぁ……。っておい、吸血蚊ってなんだ、結局ただの蚊じゃねぇか!! なりたくてなったんじゃねぇよ!!」


 というか、じゃあ本当に不吉な印程度の思い込みってことかよ。

 ほんと、この幼女神がろくでもないから、この世界もこんなことになったんじゃないだろうか。

 人も、魔物も。


「……そういえば、アラクネが復活した魔王の支配から魔郷へ逃げようとしたんだって言ってたっけ。なんでそんな魔物の避難所に人間が住んでんのかと思ったら、それを作ったのが村民の先祖だったわけだ。あぁ……というか、村民もほとんど魔物だよね」

「蚊ーさん何かやさぐれてらっしゃいますけど、さらっと私達を魔物呼ばわりしないでくれませんか」


 そう言うけど、そうだよね? 自分達で魔の者とか言ってたし。

 吸血鬼だけど血は吸いません、とかこの世界の魔物なら余裕で言いそうだし。

 ……ん? ちょっと待て。


「なんで俺の声はフィーユにしか聞こえないんだ?」

「言われてみれば……。今の話が本当だとすれば、村の人はみんな聞こえていてもおかしくないはずですね。まぁ失礼ですけど、本当ならですけど」

「フィーユ、信じてくれれば店の権利書をあげるわ」

「イエス、店長(マスター)ッ!」

「なぁ神様、俺を元の世界に返してくれないでしょうか……」


 もうやだ、こんなとこ。


「やめてよ神様だなんて、あなたから今さら言われると気味が悪いわ」

「どうしろってんだよ……。もういい、話を戻してくれ。なんでフィーユだけ俺の声が聞こえるんだ? 最初はこう、選ばれた特別な存在だからとかそんな風に思ったけど、魔物全般俺の声届いてるし、それなのに村人には聞こえていないし、わけがわからん」

「それはさっきも話した通り遺伝の問題なんだけど、そもそもの話をすると四人の勇者全員、魔物の血を色濃く引いてる者なのよ」

「全員!? そういえばあの変態はゴキの末裔どうこう言ってたけど、じゃあヘルシスもあの……噛ませ犬君もか」

「そう、あの……なんとかっていう噛ませ犬君は狼男(ウェアウルフ)の血を持ち、そしてあなた、ヘルシスは……寝てる!?」

「最初からずっとな。今さら気付いたのかよ。それで? 何の末裔?」

「せっかく話してるのに寝てるだなんて……。え、あぁ、なんかテンション下がっちゃったけど、アレよ。アロサウルスよ」

「……それ恐竜ですよね?」


 なんで一人だけ方向性がぶっ飛んでんだよ。

 もう突っ込みきれねぇよ。

 もう聞いても聞いてもずっとわけがわからない。

 がっくりと首を落とし、フィーユの肩で静観することにした。

 それに気付いたのか、ユーコを介抱していたフィーユが俺に代わり尋ねる。


「あの、私からお聞きしてもよろしいでしょうか。店長神様」


 なにそれ。

 フランチャイズをまとめる経営本部か何かかよ。


「えぇ、何でも聞いてくれて構わないわ」

「ではまず、お店を頂くのに必要な物は何かあるでしょうか」

「大丈夫よ。細かいところはもう神様的な力でなんとかしてあげるから」

「やった! ではそれと、私が蚊ーさんの声が聞こえるのは、人一倍に魔物の血が濃いからということなんでしょうか」


 何かよけいな話が混じった気がしないでもないが、聞かなかったことにしよう。


「その通りよ。それも他の三人が遥か昔に魔物との混血があったのに対し、あなたはそれが数百年前の話。でもそれだけじゃない。あなた達はね、あのお姫様の直系の子孫なの。しかも隔世遺伝というものかしら。フィーユは姿形までよく似ているわ」

「そういうことだったんですか……」


 自身がより強く魔物の血を引いている。

 それがショックだったのか、少し動揺している様子でフィーユは視線を下げる。

 幼女神への敵対心と突っ込みで気にかけてやれていなかったが、ずっと魔の者とかいう村の風習を嫌がっていたのに、本当に魔物の血が流れていると知ればさすがにショックか。


「じゃあ、私には高貴な血が……。後継者争いもワンチャン」

「ねぇよ。いつの話だよ」


 うん、わかってた。こいつは妹と利益しか頭にないんだって。

 もう、疲れたよ。

 いっそ一緒に世界を滅ぼそうか。ねぇパトラッシュ。



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