第四十八匹:髪が個性的なだけの美少女だったら。
「つまり、あいつを倒したあなたが私様を助けに来てくれたってことなの?」
枯れた湖から戻ってみると、営業スマイルを浮かべたフィーユがミーナの言葉に頷いていた。
それを見ればおおよそのことは察せられる。
大嘘ついてやがんだ。あることないこと織り交ぜて、自分に都合の良いストーリーをでっち上げているのだ、あいつは。
「はい、そう思っていただいて問題ありません。何の間違いかあのヒゲが勇者に選ばれてまして、同じく勇者として選ばれた私は思うところあって決闘でヒゲを打ちのめしました。その後なんだかんだで彼からあなたのことを聞きまして、ここまで来たというわけですね」
イヤらしいことに間違いではない。
実際にあったことを都合よく組み合わせているのだ。
もうそのことにも、あのヒゲをどう言おうとも俺は何も言わないけど、ただ一つ声を大にして言いたい。
お前が勇者に選ばれたのも、そもそも間違いだよ。と。
フィーユはヒゲを差し出すという条件でミーナを無事に懐柔。
いくらなんでも、あいつもこうなることを予想していないわけではないだろう。おそらく逃げているだろうが、何としてでも捕まえるとフィーユは安請け合い。
そして町が心配なのとミーナの小屋は既に粉砕しているので、早々に帰路に着くということとなった。
「なぁ、フィーユ。その前に一つだけミーナにお願いしてくれないか」
万が一の為に俺の存在はまだミーナに伝えられていない。
ひとまず落ち着いてくれたように見えるミーナに対し、フィーユは警戒を解いていない。
つい今しがた敵同士で戦ったのだから当然、と言いたいところだが、この子が元よりそういう性格だというだけだ。
そんな腹黒娘にお願いを伝えてみると、一瞬不満そうな顔でジロリと俺を見たものの、渋々ながら俺の依頼をミーナに伝えてくれた。
そして……。
「あぁ……生き返るね、セレお姉ちゃん!」
「なんであんたそんなに回復早いのよ。こっちは全身痛いんですけど……」
後頭部を向けたゴーゴンと人魚姉妹が広い湖の中で悠々と泳ぐ。
ミーナが魔法で亀裂を埋め、さらに水脈を掘り当て湖に水を戻してくれたからだ。
僅かな時間でそれだけのことをやれるのだから、世界有数の魔女と言うのも頷けるし、戦闘時は本当にウォーミングアップだった程度なのだと少し戦慄した。
どうやってあのヒゲはミーナに勝ったというのだろうか。
「ありがたくはあるけど、どういうつもりよ」
「どうもこうもないですよ。人魚のミイラで契約しましたし、もう仲間みたいなものじゃないですか」
またまた営業スマイル。
渋々承諾したくせに。
「ありがとう。私ちゃんとミイラ作るからね!」
「そうして下さい。近い内に材料を届けると共に、今後のスケジュールを決めるための使いを出しますからそのおつもりで」
金の亡者がそんな話を人魚としている間に、俺は岸から離れた場所で後頭部を向けているゴーゴンの側へと飛んでいく。
「ゴーゴン」
彼女の触手がビクリと震えた。
「実は話しておかなきゃいけないことがあるんだ。お前はたぶん俺のことを想ってくれているんだろうけど、でもそれは……お前にかけた薬のせいなんだ」
ゆらゆら揺れる触手がピタリと動きを止めて、静かに水中へと沈んで行く。
「本当にすまない……」
後ろを向いたままゴーゴンは振り向かない。
いや振り向かれても困るんだけど。
「それだけ伝えたかったんだ。どうか、俺のことは忘れてくれ」
そう言って離れようとしたその時。
「……わ……っ、てた……」
俺の背中にかすれ震えた声が投げかけられる。
「……わか、ってた……。で、も……いつだ、って……こいに、りゆ……うはない、から」
「ゴーゴン、お前……」
「いつ、だって……恋は、きづけば……おち、てる、ものだから……」
「……」
恐る恐る手を伸ばすかのように、一本の触手が水中から現れ、俺の前へと向けられる。
しっかりと俺はその手を掴む。ぬるぬるしていた。
「ありがとうゴーゴン。お前、最高に良い女だぜ」
そして俺はゴーゴンから離れ、フィーユの肩へと戻る。
「なにやってるんですか」
俺を迎えたのは冷たい目と声。少しはゴーゴンを見習って欲しいものだ。
「セレお姉ちゃん、ゴーゴン喋れたんだね」
「……それもびっくりだけど、蚊とラブロマンスしていることの方がびっくりよ。なんなのよこれ」
常識人ポジションにつきやがった人魚姉の血を吸ってやりつつ、俺はフィーユ等と共に町へと戻ることにした。
もしゴーゴンが怖い顔の生首じゃなくて、髪が個性的なだけの美少女だったら、俺はあの湖で人魚姉妹を食料にゴーゴンと幸せに暮らすことを選んだだろう。
馬車に揺られながら、ゴーゴンを美少女に変える魔法があるか聞けばよかったな、と気付いて後悔しつつ、俺達はついに西の魔女を連れて町へと戻ったのだった。




