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第二十七匹:仲良し姉妹。


 翌日、残していた最後の家屋を解体し、村の大移動が始まった。

 少し進むと途中で町民も手伝いに入って来てくれたが、もちろん善意ではなく、それはフィーユが事前に手回ししていたことによるものだった。


 町民は反発するだろうとの考えから、フィーユは町長へ直談判を行い最終的に金貨で殴りつけた。

 札束で叩くという表現はあるが、金貨じゃただ痛いだけだろう。

 と思ったら、喜んでいたのでこの世界ではOKなようだ。個人的趣味なのかもしれないが。

 しかし金の力で世界は変わり始めた。

 町長の命により、カナイ村との交流を担当する役割が作られると共に、その担当者を通して魔境の奥地でしか取れない食物や、村特産の工芸品などを卸すことになったのだ。

 それを快く思わない者はたくさんいるだろうが、しかし町の人々の評価もほんの少しだが変わり始めている。

 なにせドラゴンを村の者が退治したのだ、それだけで評価は上がる。


 それに加えてもう一つ、それにはフィーユから興味を失って一足先に山を下りていたヘルシスが関与している。

 ドラゴンの売却手配をしているところで話を聞きつけた彼女が現れ、またもや関心を取り戻してフィーユに決闘を申し入れてきた。

 もちろんすぐにそれを断っていたのだが、何を思ったのかフィーユは決闘を受ける約束を交わす代わりにと、ヘルシスに村の良い噂を町で流して欲しいと頼んだ。

 勇者として歓待を受けていたヘルシスは言われるままに町でカナイ村の良い評価を口にし、一気にそれが町中に広まったようだ。

 そんなメッキ、たぶんすぐに剥がれるだろう。

 きっとそう遠くない内に、今まで思ってたよりももっと酷い村だったのだと事実が発覚するだろう。

 その時、町との関係はどうなるんだろうかという不安もあったが、「落ち着いたら勝負するということで」というヘルシスに言ったフィーユの言葉にも不安を覚えた。

 まともに決闘なんて受けるはずもない。きっといつまでも落ち着かないつもりだし、最悪の場合は「勝負とは言いましたが何で勝負するかは言ってません」とか言って逃げるつもりなのだろう。

 そんな屁理屈が、フィーユの両親と同じストリートでファイトしだすようなヘルシスに通用するだろうか。

 

「結局後先考えてないんだからなあ……」


 ずる賢いようでポンコツなのだ。あの子は。

 企み目論み計算ずくで行動して、肝心なところで抜けてていて、金と妹を愛して止まないその少女が走り回っているのを見守りながら、俺はぼんやりとこの先を憂いていた。

 勇者を助けろと言われたのだから、それも俺がサポートすればいい……のだろうか。

 明らかに趣旨は違うけれどそれも悪くないと、営業スマイルの合間で自然な笑みをこぼすフィーユを見て、そう思えたのだった。




「次に戻ってきた時、村が発展して町になっているのを楽しみにしていますね」


 移住場所に到着し、村の者と町からの手伝いによって再度簡素な住居が並べられていく。

 満足げにそれを眺めながら、フィーユは村の人々に別れを告げた。

 急ぐ必要はないだろうと言ってみると、ここからは外に出た自分ではなく村の人々がやっていくべきなのだとフィーユは語る。

 そしてアーコにも別れを告げて、姉妹二人で手配しておいた馬車に乗り込み、帰路に着いた。


 あっさりし過ぎなぐらいに、揺れる馬車はこれから大変なことになるであろう町から離れていく。

 小さくなっていくその町を眺めながら、


「おいっ! フィーユ!! やめさせ――ッ!?」


 パチンッ!

 

 俺は潰されていた。


「やったべ」

「なかなかやりますね。お姉ちゃんも負けませんよっ」

「おい、人の生き死にで仲良し姉妹の会話してんじゃねぇよ」

「なんか白い煙になってんべ」

「あぁ、蚊ーさんそれは卑怯ですよ」


 卑怯も何も、そうしなければユーコに本当に叩き潰されていた。

 暇つぶしに不死身かどうか姉妹で試してみるとかマジでやめて頂きたい。

 実は知らないだけで回数制限とかあったらどうしてくれるんだよ。


「まったく……姉妹揃って軽々しく潰そうとしやがって」


 荷車の中、姉妹は仲良く座りフィーユの住む町を目指す。

 昨晩、ユーコに長いひとり言を聞かれてしまったフィーユは、俺のことを全て妹に話した。

 何せフィーユのひとり言を聞いたユーコは、「お姉が、男が出来て自分の全てを曝け出す甘じょっぱいシーンの練習してんべや!!」と、どうやってそうなったのかわからない勘違いをし村人に言いに行こうとしたものだから、俺の話をしたのは苦肉の策と言える。

 無論声は聞こえずただの蚊にしか見えないわけで、ユーコは疑義の目を姉に向けていたが、不意にフィーユが潰しやがった俺の身体が再生するのを見て、ユーコは姉の話を受け入れることにしたようだ。


「蚊、うちの血を吸ってみんべ。お姉みたいに強くなりたいべや」

「……いいの?」

「ダメです。良いですか、ユーコ。蚊はどんな病気を媒介するかわかったもんじゃありませんから、たかが蚊されど蚊なんです。安易に血を吸わせてはいけませんよ」

「んだべか。安い女じゃないと見せつけんべな」


 ユーコは昨晩の姉の独白、というか村を出てからの悪行を聞き、強さの勘違いをアップデートさせた。

 強き者は男を(たぶら)かし、弱き者は誑かされるというような概念を手に入れたようだ。

 

「フィーユ、蚊についての正しい知識ではあるけど、お前ずっと俺に対してそんなこと思ってたのか……」

「はい」


 素直かよ。

 嘘をつくなとは言ったけど、オブラートに包むなとは言ってないのに。


「蚊ーさんがわかってないことなんて、いっぱいあるんですよ」


 そう言って、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 まったくもって怖い奴だ。

 願わくば、ユーコにはそうならないで頂きたい。

 既になりかけているというか、既にそれを超えているようにも見えるけれど。


 こうしてフィーユの帰郷は終わり、同時に、姉妹の生活が始まったのだった。



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