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第十九匹:んなわけねぇべやぁ!!!!


 斜面を下りたと思えば、また山を登り始め、とうとう空が赤く染まり始めた頃。


「もう村だべや」


 またも串刺しの人形オブジェが増え、それらが血にまみれたように赤く夕日に染まる中、ユーコが告げる。


「……そうですね。行きましょう」


 フィーユが緊張した面持ちでそう応えると、再びユーコは歩き出す。

 そういえば村を出た際の詳しい経緯を聞いてはいなかった。

 ユーコと一緒に街で暮らすために出稼ぎに出た、という話は聞いたけど、村を出る際にはやはり一悶着あったりしたのかもしれない。

 そんな不安を抱えつつ、串刺しの人形が並ぶ坂道を上っていると、その先に人影が見えた。

 同時に、どこからともなくリズミカルな太鼓の音が響く。


「きぃぃえぇぇぇぇあぁぁッ!!」


 ユーコの着ていたものと同じ柄の入った腰巻を身につけた、上半身裸の男が奇声を上げる。

 顔には大きな牙のついた面をして、小さな二つの穴からは鋭い眼光が覗いていた。


「これよりは我らの村、外のもんがおいそれと入ることは許さされねぇ。おまえ、何用で来たんべや!!」


 ドンドコドコドコ、ドンドコドコドコ。

 よく見れば両サイドの茂みの中で、小さな人影が太鼓を叩いているのがわかる。

 そして、さらにその周囲に粗末な槍のような武器を持った者達が潜んでいる。


「うちユーコだべや。こっちお姉だべや」

「なに? 確かにユーコは昨日酒を貰いに行ったけんども、お前泥ついてねぇべや」

「それが当たり前なんだべや」

「二人ともスカートが短いべや。そんなもんパンツ見えんべや」

「都会では見せてなんぼだべや」

「……なん、だべ」


 フィーユに言われたことを真似て言っているのだろうか、致命的な誤解が生じているらしい。

 しかしなぜそんなにスカート丈の短さを気にするのだろうか……。あ、田舎だからか。

 そして見せてなんぼと言われた男は、なぜか警戒心を強めた様子だ。


「ユーコはまだえぇ。だけどもユーコのお姉ということは、フィーコでねぇか! お前ほんとにフィーコだべか!? パンツ見せてなんぼだとか、痴女でねぇか! あの村一番の泥芋好きのフィーコがそんなんなるわけねぇ!!」

「間違いなくお姉だべや! でっかくなってけども、おっぱい変わってねぇべや!!」


 警戒心剥き出しでアーコと同じ爪を立てるような妙な構えを見せた男は、面の向こうから疑いの眼差しをフィーユに向ける。

 つま先から頭の天辺まで見回し、最後にジッと胸部を見つめた後に、構えを解いた。


「……ほんとだべや。お前、その胸、フィーコでねぇか!」

聖的一閃(ルサイド・スラッシュ)ッ!!」

「ふぎああぁぁぁッ!?」


 相手が構えを解いた瞬間フィーユは即座に斬り付け、男は衝撃に吹き飛ばされる。


「なんであんたがそれで納得すんべや!! あとさすがに少しはおっきくなってんべや!!」


 フィーユは憤りを顕にするが、倒れた面の男と周囲の者達が固まっているのとは対照的に、ズカズカとフィーユの元に歩み寄ったユーコに言われる。


「なってねぇべやぁぁぁ!!」


 しかもなぜか激オコだった。

 最愛の妹にそうまで言われては反論することもできず、フィーユは静かに槍と共に肩を落とし、さらに一滴の雫が頬を伝いこぼれ落ちる。

 ……超どんまいっ。







 俺の不安はどこへやら。

 フィーユは歓迎され、ドンドコ太鼓を鳴らされながら村への道を進む。

 その理由はおそらく、ユーコの言うものそのものだろう。


「お姉は強いんだべな。村一番のジョニーよりも強いんだから、でんどー入りだべや。あたいも鼻を高くして、眠れない日々を過ごすべや」


 強ければ生き、弱ければ死す。

 村一番に勝てば、それだけで確執があったとしても、帳消しになるのだろう。

 

「いやユーコ、そういうのいいんで。ちゃんと寝てください」

「お姉に言われたら、そうするしかねぇべや。所詮、この世は弱肉強食だべな」

「はあ」


 やはり、この先にはユーコのようなことを言う者ばかりがいるんだろうか。

 そう思うと、直接喋るわけではないのに俺まで胃が痛くなってくる。

 蚊に胃があるのか知らないけど。



 山の頂上まで来る頃には、すっかり辺りは暗くなっていた。

 そんな中、木々の向こうで明々と燃えるかがり火が見える。

 ついに到着したようだ。


「そういえばユーコ、おめぇ客人の酒はどうしたんべや」


 不意に面をつけた男――ジョニーが振り向きユーコに問う。


「あ、私が持っています。これでいいんですよね」

「あるならえぇ。村の酒が口に合わんみたいでなぁ、これでちゃんと宴ができんべ」

「……ジョニー、お姉に負けたんだからその証はお姉のもんだべや」

「あぁ、んだべなぁ。勇者に負けちまって、フィーコにも負けちまって、おらがつけてっどナイト・クロウ様に怒られんべやなぁ」


 ジョニーは面を外し、なんとも素朴な素顔を晒したかと思うと、腰巻に手を突っ込んで動物の角のようなものを取り出した。

 そしてその、中がくり抜かれた角をフィーユに差し出す。

 それ、どこに装着してたのかな?


「受け取るべや。強者の証、夜闇の爪だべや」

「いえ、結構です」


 フィーユは引きつった顔でそれから目を背ける。


「そうはいかねぇべや。強ければ奪い、弱ければ奪われるのが村の掟だべや」

「いえ、そういうのいいんで。いらないんで」

「だったら、うちが預かっとくべや。お姉がいつでも着けられるように、うちが持っとくべや」


 ジョニーに躊躇いなく伸ばされた小さな手を、フィーユはあわてて止める。


「来ませんから! 永遠に装着できる日なんて来ませんし、する気もありませんから!!」

「わかんねぇべや! お姉なら立派な爪が生えてくるかもしんねぇべや!」

「どういう意味ですか!? 胸ですか? 胸が成長しないならもしかしてってことですか!? んなわけねぇべやぁ!!!!」


 どうでもいいことで姉妹が喧嘩を始めた。

 そこに、かがり火の灯りを背にして気安い感じで誰かが駆け寄って来る。


「あれぇ、君って王城で会った勇者の子だよねえ? 奇遇だね、こんなところで会うなんて」


 それは予想通りの黒髪ツインテールの勇者――ヘルシス・ヴァニングだった。

 

「お久しぶりです。もしやと思いましたけど、やはりあなただったんですね」


 フィーユがヘルシスと話す中、なぜかユーコがわなわなと震えている。

 見回せば他の者も同じく動揺しているようだ。


「お姉……じゃなくて、勇者……?」

「え、何を言ってるんですかユーコ」

「スカートが短か過ぎると思ったんべや、あんたぁ勇者だったんか!?」

「……ユーコ、ちょっとお姉ちゃん疲れてきました。勘弁してもらませんか」

「お姉は勇者じゃねぇ! お姉だべや! 勇者が勇者呼んでるなら、勇者の中の勇者に決まっとるから、それは勇者であってお姉でねぇべや。そもそもお姉はそんなスカート短くねぇべや! 色気より食い気だったべや! 黒髪の勇者もスカート短いし、スカート短いあんたは勇者だったんだべや!」


 なんだよその理屈。

 どんだけスカート丈に拘ってんだ、生活指導の先生かよ。


「あ、お嬢ちゃん。あたしのこれはスカートじゃなくてキュロットだよ?」

「キュ……キュロ……?」

「スカートじゃなくてパンツだね」

「……パンツ、丸出しだったんでねぇかあ……」


 まさに晴天の霹靂。そんな表情でユーコは崩れ落ちる。

 周囲の村の者達も、膝をがくがくと震わせていた。


「……ユーコ、やっぱりお姉ちゃんと村を出ましょう」


 ここにいてはダメになる。

 さすがに俺も賛同せざるを得なかった。






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