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第十五匹:なにこの展開。


 さすがにフィーユにももう選択肢はなかった。

 翌朝に村へとすぐ出発するとアーコに伝え、荷物をまとめ始める。

 それを見ていたアーコは不思議そうな顔で言う。


「里帰りならいいけども、あんたまさか、ドラゲやるつもりだべか」


 その言葉で一瞬動きを止めたものの、すぐに荷造りを再開させながら、


「つもりはないですけど、最悪の場合は……」


 自信なくフィーユはそう答えた。

 感心したような声を上げながら、おもむろにアーコは立ち上がる。

 その顔にありありと好奇心を浮かべて。


「だったら軽く試験せねばならんべな」

「やっぱりそう来ますか……」


 荷物をまとめ終えたフィーユはアーコと共に、町の隅にある人気の無い通りへと移動する。

 到着するなり、アーコは両手を交差させ爪を立てるように指を曲げた妙な構えを披露した。


「なぁフィーユ、こんなことやってる場合か」

「仕方ないじゃないですか……。自分より強いかどうかを確認しなきゃ気が済まないんですよ」


 なんなの、その野蛮さ。

 田舎者ってレベルじゃなくてもはや非文明的レベルなんですけど。


「そげなやる気のない構えでええんけ」

「これが普通なんです」

「結滞な話だべなぁ。まぁいい、そんなら……行くべ――ッ!」


 アーコの目つきが変わった。

 見開かれた目は獣のそれのように、ただ純粋に相手を屠り貪ることだけを見据えている。

 弱肉強食というその言葉通り、まるで捕食者が獲物に爪を立てるように、何の迷いも躊躇いもなく、アーコは一瞬で距離を詰めてフィーユに襲い掛かった。


「えいっ」

「きゅうッ!?」


 そして、勢いそのままに顔を地面にこすりつけた。


「……ええぇぇえ、よわぁぁぁ」


 槍でぽかりと頭を叩かれ、地面に伏したアーコは動かない。


「ねぇ弱肉強食ってなんだったの? 弱い者は死すって言ったけど、これ何機あったってゲームオーバーになるぐらい弱いんだけど?」

「だから言ったじゃないですか。村の伝承や風習が特殊なだけだって。だいたいこんなものですよ」

「だからってさぁ、もうちょっとさぁ……えぇぇぇ」


 俺が一人混乱の中でうろたえている間に、よろよろとアーコが立ち上がり、鼻血を拭いながら屈託の無い笑みを浮かべた。


「強くなっただべなフィーコ……いんや、フィーユ」

「えぇ……はい」


 こうして、アーコの許可も貰いフィーユの里帰りが決定した。

 翌朝早くにフィーユは出立の手配を始め、武具屋の店長の許へ行って休みを貰い、少しばかりのお小遣いも貰い、さらにギルドで依頼受注の手続きを済ませる。


「受けてくださるのは嬉しいのですが、オススメはしませんよ? なにせドラゴンですから」


 ギルドの担当者はフィーユを心配してそう言ってくれたものの、出身者ということもあって承諾せざるを得なかったようだ。

 やらざるを得ない場合のみ、ドラゴン退治に挑戦するつもりだと担当者に伝えて、ギルドを出たフィーユが馬を借りに行こうとすると、


「そげなもんいらねぇべや」


 外で待っていたアーコが小鼻を鳴らす。


「この足を使わねぇとすぐなまっちまうべ。早ければ生き、遅ければ死す。馬なんて軟弱者の使うもんだべや」

「あ、はい。じゃあ先に行っててください。私は馬を借りますから」


 もはや淡々とした冷たい口調でフィーユはそれに対応し、そんなこと気にもせずにアーコはその場で屈伸を始める。


「まったく少し強くなったからって、そんなことじゃ先が思いやられるべな」


 そう言ってアーコは駆け出した。

 遠ざかっていく背中を見ていたら、一度盛大に転倒しているのが見えたが、フィーユはもう何も言わずにその場から移動した。

 そして馬を借り重い足取りでそれを引きながら、フィーユは町の外へと向かって歩き出す。

 馬を借りる手続きをしている間、フィーユから少し離れていた俺はあわててそんなフィーユの姿を見つけ追いかけ肩に止まった。

 するとそれに気付いて、どこか少し安心したような表情をフィーユが見せてきた。


「来たんですか」

「……ダメだったか?」

「いえ、ダメというか、完全に私用ですし、遠出ですし、一緒に来てくれなくても不思議じゃないかな、って」

 

 言われてみればついて行かない選択肢というのもあるんだった。

 でもフィーユに何かあると困る。唯一喋れる人間だし、その血が吸えなくなるのは困るのだ。


「前にも言ったけど、俺にはお前しかいないんだから、理由なんてなんでもいいんだよ」

「……そうですか。どうも……」

 

 そう言ったきり目を逸らしたフィーユは、町を出たところで上擦った声と共に馬に飛び乗る。


「さ、さぁ! 行きましょうか」


 こうして、フィーユの里帰りの旅が始まった。


「ところで、さっきアーコが肩で息をしながらよろよろ歩いてたんだけどいいのか」

「……行きましょう!」


 アーコを町に残して、本当に旅が始まった。







 町を出てから五日目、野営の準備をしたフィーユが焚き火の前に戻ってくる。

 

「あぁ、寒い冬を耐え生命の輝きと共に咲き乱れる花とて、その汗の匂いの芳しさには敵うまい」


 腰を下ろしたと思いきや、サッとフィーユが身を引いた。


「毎晩毎晩、やめてくれませんか。そのポエム」

「仕方ないだろ……というかちょっとぐらいくれてもいいじゃない」

「イヤですよ。どんな口説き文句出されてもイヤなものはイヤですよ」


 ずっと俺はお預けをくらっている。

 こんなにも求めているというのに。


「馬の血を吸ってるのに、どうしてそんなに空腹なんですか」

「空腹とかそういうことじゃないんだよ。蚊として血を吸いたいんじゃなくて、吸血鬼として血を吸いたいんだよ」

「そう言われても意味がわかりませんし、それはそれで余計に危ない気が……」

「危なくないって、危なくないからちょっとだけ、なぁ? ちょっとだけ!」

「必死すぎてこわいッ!」


 今日もダメなのか……。

 口には出さないけど、野営なんてするから徐々に汗の匂いがより濃くさらに甘くなって、もう辛抱できそうにないんですけど。もうそろそろ無意識に針を立てちゃいそうなんですけど。

 いけずなフィーユは糧食を食べ、雨よけのマントに身をくるみ早々に横になる。

 虫の声だけが響く中、パチンと音を上げて火が弾けた。


「……ところで、蚊ーさんは一応吸血鬼というものなんですよね」

「まぁ、見た目ただの蚊だけどな。そのはずなんだよ」

「なんで自信なさそうなんですか……。自分で言ったんじゃないですか」

「そうだけど、知らない間に蚊にされて、最近じゃあ花の蜜やら家畜の血やら吸ってて……、あれ、これもうただの蚊なんじゃない? って思い始めてきたよ」

「でも、元は人だったんですよね」

「あぁ……なんか最近全部夢だったんじゃないかと思って来てるけどな」


 俺だって吸血鬼だって言い張りたい。

 でもずっと蚊として暮らしていると、段々自信がなくなってくる。

 もしかすると、蚊の身体に心が蝕まれてきていて、最後には本当にただの蚊になるのかもしれない。

 何でそんな目に合わなければならないというのか。

 もしもう一度会えたら、あの巨大幼女からカラカラになるまで血を吸ってやろう。


「そういえば、それで思い出しました。数日前に少しお話ししましたけど、村の伝承で怪物にされたお姫様の話があるんですよ」


 俺が巨大幼女に対する憎しみを焚き火にくべて燃やしていると、ふと思い出したようにフィーユが語り出す。

 悪い魔物に怪物にされたお姫様がいて、そんなお姫様を助けに来た騎士がいる。

 二人は共に逃げ、逃げ延びた場所で共に暮らした。だが男の人生は短く、怪物となったお姫様の人生は長い。男は先に亡くなってしまったけれど、お姫様は人々を守り、神として崇め祀られた。


「今でも村ではその信仰が続いています。アーコが宿でしていたお祈りもそれですね」


 あの奇声を発する祈りの先にいる神様とは、一体どんな神様なのか。

 怪物といわれるとちょっとだけ納得できる気がした。たぶん巨大幼女と同じくろくでもない神様だろう。


「お姫様は一度は心まで怪物になってしまったそうです。でも騎士様がお姫様を信じ、心を取り戻したのだと言われています。だから蚊ーさんも、仮に本当に万が一人間だったとか言うのなら、気をしっかり持たなければいけませんよ」

「お前、まだ信じてなかったのかよ……」


 クスリと笑う小さな声だけ残して、フィーユは寝返りを打って背中を向けてしまう。

 勇者を助けろと言われたものの、王城からは帰されたし、勇者として魔物を倒せと言って聞いてくれるわけもないし、信じてもらえようがもらえまいが、もはやどうでもいいことかもしれない。

 そんななげやりなことをぼんやり考えていると、


「……信じてますよ」


 パチパチと二度三度また火が弾ける中で、そんな小さな声が聞こえた。


 ……なに、この展開。

 


一発ネタみたいな設定ですが、第一作目ということで完結まで必ず続けたいと思います。よろしければ引き続きよろしくお願いいたします。

お読みいただきありがとうございました。

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