奴隷の装備
「ご主人様、私はこちらにしようと思います。」
そう言って、ミーリンが手に取ったのは、『フレイムエッジ』と『アクアエッジ』の二本だった。
「ミーリンさん、二刀流出来るの?」
九麗亜は驚きながら聞いてみる。
「はい、実はこちらのほうが得意でして。もちろん一本は一本のやり方がありますから、問題ないのですが。」
「ううん、いいよ。二本とも買おう。店員さん、この二本をください。あと、これらの武器を買い取ってください。」
九麗亜は、ポーチからアイアンダガー二本と、アイアンソードを取り出し、店員に見せる。店員はそれらを手に取り、
「そうですね。ソードのほうは、500ルクスで。ダガーは一本300ルクスで買取させていただきます。買取価格から、今回の購入金額を差し引き、残り900ルクスとなります。」
九麗亜は、銀貨9枚、900ルクスを支払い二本の短剣を受け取る。その短剣をミーリンに渡す。ミーリンは短剣を両腰に一本ずつさす。
「うん、似合ってるわよ、ミーリンさん。次は防具を見に行きましょう。」
九麗亜は、ミーリンを連れて武器屋を出た。次に向かうのは防具屋で、それは武器屋の斜向かいに建っていた。九麗亜たちは防具屋に入っていく。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
店に入ると、店員が声をかけてきた。
「この子に合う防具を探してるんです。スタイルを聞いてアドバイスをあげてください。予算は10000ルクスまででお願いします。」
「ちょ、ご主人様、それはさすがに頂きすぎでは...」
九麗亜が提示した金額に、ミーリンは驚いている。10000ルクス、金貨一枚。それに加え、入街税、武器代。それだけで、一般人が半年は生活できるほどの金額になっている。本来、奴隷にそこまでの金額をかけるものなど普通いない。
「気にしないで。これから一緒に冒険をするんだし、これくらいはね。それに、ベッドの上で過ごした相手に、怪我されるのは嫌じゃない。」
微笑みながら、九麗亜は言う。ミーリンは、頬を赤くして「はい」と答える。
「あの~、店内でいちゃつかれるのは大変迷惑なんですが...」
店員が言いにくそうに言ってくる。九麗亜はごめんなさいと謝り、店員にミーリンに預けて店内を見て回る。
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「では、ミーリン様でしたね。どのような戦闘スタイルなのか教えていただけますか?」
店員がミーリンに尋ねる。
「はい、私は短剣二本による近接戦闘が得意です。また、精霊魔法とエレメントスキルによる、魔法も使います。ですので、近接戦闘で、いくつかの属性に補正のあるものがいいです。」
ミーリンの言葉を聞き、店員は店内の各所から、条件に合う装備をいくつか集めてくる。そして、その装備の鑑定書をミーリンに見せてくる。
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風の髪飾り
風属性を帯びた髪飾り。装備者の速度を上昇させる。
SP +30
風属性威力 +20
1000ルクス
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森狼の皮鎧
フォレストウルフの皮を使った鎧。装備者の速度を上昇させる。
SP +30
DF +30
2000ルクス
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水絹のスリーブ
水中に生息する蚕の繭から作られたスリーブ。水属性を帯びている。
DF +20
水属性耐性 +30
1500ルクス
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火狼のスカート
フレアウルフの毛皮で作られたスカート。火属性を帯びている。
DF +20
火属性耐性 +30
1500ルクス
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砂竜のロングブーツ
プライアスの鱗、皮から作られたブーツ。土属性を帯びている。
DF +40
土属性耐性 +20
1500ルクス
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と、それぞれの装備ごとに属性補正が違っていた。
「すごいですね。全部違う属性ばかり。別々の属性の装備って大丈夫なんですか?」
ミーリンが店員に尋ねる。
「ミーリンさんは、複数属性による相殺のことを案じておられるんですね?その点に関しては問題ありません。相殺、相乗の効果が現れるのは、同時に複数の属性魔法が発生した場合です。防具、武器に関しては問題ありません。」
「なるほど。ありがとうございます。一度着てみてもよろしいですか?」
ミーリンは、店員に許可を得て着替えていく。彼女の薄いエメラルドの髪を止める深い『緑色の髪留め』。その体を包むのは、白に限りなく近い灰色の『森狼の皮鎧』、二の腕より先を覆う薄水色の『水絹のスリーブ』、腰から膝上までを守る燃え盛る炎の赤色をした『火狼のスカート』、膝上までを守る砂色の『砂竜のロングブーツ』。そのすべてが、ミーリンの美しさを際立てていた。その両腰には二振りの短剣がさされている。
「おお、すごくお似合いですよ、ミーリンさん。ご主人さんに見せてあげてください。」
店員は、店内を見ている九麗亜を呼ぶ。ミーリンの姿を見た九麗亜は、
「...きれいだ。すごくきれいだよ、ミーリンさん。」
まるで、最高峰の絵画を見たかのような表情をしていた。
「ご主人様っ、そんなに見られると恥ずかしいです。」
九麗亜に見つめられ、ミーリンは頬を赤らめ恥じらうしぐさをする。
「あのぉ、イチャイチャするのは構いませんが、購入するならお会計をお願いします。」
店員に声をかけられ、二人は顔を真っ赤にして恥ずかしがった。
「すいません、お会計をお願いします。」
九麗亜は、顔を赤くしながら会計をする。
「はい、合計で7500ルクスです。」
ミーリンは、金貨一枚を差し出し、店員は差額分2500ルクス、銀貨25枚をカウンターに積んでいく。九麗亜は、それのうち15枚をポーチに入れ、10枚をミーリンに渡す。
「え、ご主人様、これは?」
「え、お小遣いだよ。これから町で足りないものを買うのに、お金がないと買えないでしょ。さ、受け取って。」
九麗亜は、ミーリンの手に銀貨を握らせる。ミーリンは納得していない表情だが、それを受け取りスカートのポケットに入れた。
二人は防具屋を出て街に繰り出した。
通りを歩いていると、屋台が出ていて、香ばしい香りが漂ってくる。
「ご主人様、あの屋台に寄ってみてもいいですか?」
ミーリンが、興味津々の表情で九麗亜に尋ねる。その様子がおかしくて、九麗亜は微笑みながら許可を出す。屋台はどうやら串焼きを出している店らしい。いくつかの種類の肉が並べられ、焼かれている。
「いらっしゃい、お嬢さん。何か食べますか?」
気さくそうな店主が声をかけてくる。ミーリンは、商品を注文する。
「では、この『雪牛の舌串』をください。」
彼女が注文したのは、現世で言うところの牛タンだった。『雪牛』とは、雪国に生息する野生の牛の種類で、雪国、北国の食用肉は、寒さを防ぐために脂肪を蓄えるため、脂身が多く、やわらかい肉質が多い。その『雪牛』の舌を分厚く切って焼いてるのが『雪牛の舌串』だった。
「はいよ、ちょっと待っててくださいね。ご主人さんのほうは、何か食べますか?」
店主は、九麗亜が近くにいたのに気づき声をかける。
「そうですね。私もいただこうかしら。じゃあ、この『野ブタのバラ串』をいただきます。」
九麗亜も注文する。
「はいよ。そっちはすぐに焼けそうですな。ちょうど、二つとも出来ました。二本で70ルクスです。」
「はい、代金です。おつりはいらないわ。」
九麗亜は、銀貨を一枚差し出し、商品を受け取る。
「いいんですか?では、またこの店に来ていただいたときはサービスいたしましょう。私は、毎週、闇、火、無の日にここで店を出しますので。」
店主は銀貨を受け取り、屋台を出す日を教えてくれた。
九麗亜たちは、手を振ってこたえ、屋台を後にした。