奴隷と街の散策
「...もう、ご主人様、激しすぎますよ。」
ベッドの上で、ミーリンは荒く呼吸をしながら九麗亜に訴える。しかし、その表情は攻めているようには見えない。
「ごめんなさいね。ミーリンさんがあまりにも可愛くって。安心して、初めては奪っていないから。」
「ご主人様は女性が好きなのですか?」
「...ええ、確かにそうね。私はさっき死んでこの世界に来たって言ったけど、その前には、人として生きていなかった。他人にまるで物のように扱われる人生だったわ。」
九麗亜は少しずつ話していく。ミーリンは口を挟まずに静かに聞いている。
「でも、そんな中でも、一人だけ私に手を差し伸べてくれた女性がいたの。私が、みんなの敵になってるのに、もしかしたら一緒に敵にされるかもしれないのに、私に近づいてきてくれた人がいたの。その人に助けられたから、私は希望を捨てずに生きられた。どんなに苦しいことも耐えられた。いつしか、私はその人のことを好きになったわ。でも...」
「どうしました、ご主人様。」
「その人は殺されてしまった。私をかばっていたがゆえに。それから、私は壊れたわ。何をされても泣かなくなった。いいえ、泣けなくなった。何をしても笑わなかった。笑えなかった。私には、その資格がないと思ってたから。でも、死んでからこの世界に来てあなたと出会って、うまく言えないけど、私の中の何かが吹っ切れたのかしらね。この世界で、あの人の分まで幸せになって見せるわ。」
そう言って、言葉を着る九麗亜。
「いい心がけだと思います。ご主人様はさすがです。」
「なに言ってるの。その幸せの中にはあなたもいるんだから、他人事みたいなことを言ってはだめよ。」
九麗亜はミーリンのあごに手を当て、いわゆる『顎クイ』をして彼女の顔を自分のほうに向ける。しかし、彼女の表情は明るくはなかった。
「どうしたの?そんな暗い顔して。」
「ご主人様、私は、幸せになってはいけないのです。今度は、私の生い立ちを聞いてくださいませんか?」
ミーリンは、抑揚のない声で語り始めた。
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ミーリンは、とあるエルフの集落で生きていた普通の少女だった。彼女は村で幸せな日々を送っていた。父と母、妹との4人家族として。しかし、ある年、エルフの村の作物が凶作だった。そのままでは村人たちは飢えてしまう状況にあったし、税金を納めることすらできなかった。そこで、集落の長は村の者を一人奴隷として売り、その代金で食料を買い、集落の飢餓を防ぎ、税金を払おうとした。そして、選ばれたのがミーリンだった。年ごろの娘で、器量もよく、エルフというだけで高額になるため、集落の者たちは浮かないながらも賛成した。そして、彼女の家族たちも、最初は反対したが、最終的にはその方針に従った。ミーリンとしてもそれで集落が存続するならと受け入れた。
「すまない、ミーリン。お前の犠牲は無駄にしない。いずれ、お前を探し出し買い戻してみせる。」
「いいんです。お父様。私でこの集落が存続できるなら。お父様、お母様、リーリン、どうかお元気で。」
別れを済ませ、奴隷商の馬車に乗り込んだミーリン。馬車は出発し、すぐに集落は見えなくなった。
奴隷商での生活は、質素ながらも苦しくはなかった。特にひどい仕打ちをされるわけでもなく、ミーリンには高額の価格が設定されており、買い取られることもなかった。
(お父様、お母様、リーリン、私は大丈夫。だから、みんなも健やかに。)
奴隷生活の中で、ミーリンは家族の安寧を祈っていた。
しかしそれは、唐突に絶望に変わる。
「ミーリン、お前に一つ伝えないといけないことがある。」
「何ですか、お館様?」
奴隷商の主人、ミーリンを集落から買い取った主人が、ミーリンを閉じ込めている牢の前までやってきた。
「お前の集落がほろんだ。どうやら、盗賊団の襲撃を受けたようだ。生き残りはいないが、さらわれたものがいるかもしれないという話だ。一応伝えておこうと思ってな。」
奴隷商の話は、途中から彼女の耳には入ってなかった。
(みんなが死んだ?どうして?私を売ったお金があることが知られたから?)
彼女の頭の中には、負の感情が渦巻いた。それから、彼女はいつも暗い表情をしていた。奴隷商の主人は、彼女を別の町に移すことにした。環境が変われば、何か変わるかもと思ったようだ。
そして、森の中で盗賊に襲われるところを、九麗亜に助けられた。
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「私のせいで、集落を滅ぼすことになったんです。私が、反対して、野生の動物や、山菜などを収穫していけば、こうはならなかったかもしれません。」
ミーリンの独白を聞いていた九麗亜は、大きくため息をつくと、彼女を抱きしめていた。
「なに言ってるのミーリンさん。あなたは悪くないわよ。悪いのは、集落を襲った盗賊団よ。あなたが負い目を感じることはないわ。あなたは集落を救おうと、自分の体を差し出したのだから。褒められることはあるだろうけど、責められることはないわよ。」
そう言って、抱きしめる手に力を籠める。ミーリンは、九麗亜に抱き着き泣いてしまった。九麗亜は、ミーリンが泣き止むまで、その体を抱きしめていた。
「すみません、ご主人様。お見苦しいところをお見せしました。」
しばらくしてミーリンは落ち着きを取り戻し、目を赤くはらしながら、九麗亜に謝る。
「気にしないで。さて、この町に繰り出しましょうか。私も、あなたも装備を何とかしないといけないし。それに、これから、私たちはどうするかも決めないといけないから。さ、行きましょ。」
九麗亜は、ミーリンを連れて街に繰り出していった。
町に繰り出した九麗亜たちが向かったのは、武器屋だった。店に入ると店員が話しかけてきた。
「いらっしゃいませ、お客様。今日は何をお探しですか?」
「今日は、この子の使う短剣を見繕いに来ました。何かいいものありますか?」
九麗亜の質問に、店員はいくつかの短剣を持ってきてくれた。九麗亜はその短剣に鑑定をかけていった。
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アイアンダガー
鉄でできた短剣。駆け出しの探索者が好んで使う。
AT +30
500ルクス
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硬木の短剣
硬い樹木を削り出した短剣。駆け出しの探索者が好んで使う。
AT +30
400ルクス
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フレイムエッジ
火属性を帯びた短剣。
AT +50
炎属性威力 +30
1000ルクス
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アクアエッジ
水属性を帯びた短剣
AT +50
水属性威力 +30
1000ルクス
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「ミーリンさん、どう?選んでみて。」
九麗亜は、ミーリンに選ぶように勧める。ミーリンは、一本一本を手に取り、振って見たりなどして、感触を確かめている。そして、しばらく吟味してから、選んだものを示した。