奴隷との道中
サバラたちが見えなくなると、九麗亜はミーリンに向き直る。
「さて、ミーリンさん。成り行きで奴隷にしちゃったけど、これからよろしくね。」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします、ご主人様。」
ミーリンはぺこりと頭を下げる。
「ミーリンさんはどうして奴隷になったの?」
「私の村は税金が払えなくなって、私が奴隷に落ち、そのお金で今季の税金を支払ったとのことでした。」
「奴隷から解放されたいと思う?」
九麗亜はどんどん質問していく。ミーリンは嫌な顔一つせず答えていく。
「解放はされたいですが、それはご主人様の気持ち次第ですので。ご主人様のお心に従います。」
「そう、なら、しばらくは私のことを助けてね。最初に、あなたを鑑定させてもらってもいいかしら?」
ミーリンの許可を得て、九麗亜は鑑定を使った。
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ミーリン・スラミラス
LV 7
AT 50
DF 40
MA 75
MD 70
SP 90
IN 70
HP 100/100
MP 110/110
SKILL
短剣術 (5/30)
精霊魔法 (8/20)
エレメント (7/30)
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となっていた。
「ミーリンさん、精霊魔法とエレメントってスキルのことを教えてくれるかしら?」
「はい、精霊魔法は世界のいたるところにいる精霊の力を借りて、自身の魔法の威力や、効力を強化する魔法です。レベルが高いほど、強化される幅が増えます。
エレメントスキルは、スキルレベルより低いレベルの四元素魔法が使えるようになるスキルです。エルフ族は、この二つを先天的に取得しているので、魔法が得意と思われているようです。ちなみに、私は、魔法より、短剣術のほうが得意です。」
ミーリンが説明してくれる。
「へぇー、エルフはすごいのね。私は回復魔法が得意だから、けがとかしたら言ってね。あと、私は街に着いたら、探索者になろうと思ってるの。もしよければ、案内してくれるかしら?」
「ええ、もちろんです。それではまいりましょう。」
ミーリンの先導で、森の中を歩いていく。途中でシィの実をいくつか収穫する。しばらく歩くと、周囲からいくつかの何かが近づいてくる音が聞こえてきた。それらが見えてくると、先ほど追い払った盗賊たちだった。
「お、やっと見つけたぜ。さっきはよくもやってくれたな。次こそは、てめぇらただじゃおかねぇ。」
盗賊のリーダーが大声で脅迫してくる。手下の盗賊たちも自らの武器を取り出していく。
「あなたたちはさっきの、まだ懲りてなかったんですね。」
「ご主人様、この方たちは?」
「さっき、馬車を襲ってきた人たちだよ。ミーリンさん、この短剣を貸すから戦えるかしら?」
「お任せください。」
九麗亜は白樫の杖を手に取り、ミーリンは九麗亜から渡されたアイアンダガーを構える。男たちもじりじりと距離を詰めてくる。
「じゃあ、ミーリンさん、お願いね。彼の者の力を高めよ、『ストレングス』、『スピード』」
九麗亜の支援魔法により、ミーリンの攻撃力と速度が上がる。ミーリンは、ダガーを構えて、盗賊たちに切りかかる。
「ふん、たった一人で、何ができる?」
「いつ、一人だといったかしら?」
盗賊の一人が気を抜いたところを、九麗亜が白樫の杖で殴る。その男は、一撃で昏倒する。ミーリンも、危なげなく、一人ずつしっかり倒していく。また、攻撃を受けたら都度、回復魔法をかけるため、勢いが衰えることなく、九麗亜とミーリンの攻勢は続く。
「ちっ、こいつら強ぇ。お前らもっと囲め。フクロにしちまえ!!」
盗賊たちは二人を囲むように位置取りし始める。
「ったく、男のくせに卑怯な戦い方するわね。ミーリンさん、エレメントスキルって、範囲攻撃できる?」
「少し時間がかかりますが、発動できればほとんど倒せるかと思います。」
「ありがとう。なら、私があなたを守るから、魔法を使ってくれるかしら?」
九麗亜は、ミーリンをかばうように立ち、男たちの攻撃をさばいていく。
「おい、あのエルフ女を止めろ!どでかい魔法打ってくるぞ!」
男たちはミーリンの魔法詠唱を止めようと襲い掛かるが、そのすべての攻撃を九麗亜がさばいていく。
「世界に散らばりし精霊たちよ。私の魔法を強化せよ。風と火の聖霊よ、その司どる力を示せ。『ファイヤーストーム』」
ミーリンの魔法が発動する。風が巻き起こり、その温度がどんどん上がっていく。
「うわっ、あち、あちぃ!!何だこりゃ!!?」
風は盗賊たちを巻き込み、炎の竜巻となり男たちを燃やしていく。男たちが動けないくらいに弱ったところで、ミーリンは魔法を解除する。解除したら、少し焦げた男たちが倒れていた。息はしていたので生きてはいるようだ。
「ねぇ、ミーリンさん。盗賊を倒したらどうしたらいいのかしら?」
「そうですね。基本的には街の衛兵なんかに引き渡します。その際、盗賊の持ち物なんかは討伐したものがもらっていいことになっていますね。なので、この盗賊たちのものをはぎ取っても問題ありません。それと、衛兵に引き渡す件ですが、運んだりすることができない場合は、魔物に襲われにくそうな場所に逃げられないように拘束しておき、場所を衛兵に伝えます。確認が取れたら、報酬がもらえるそうです。」
ミーリンが説明してくれる。どうやら、盗賊の人権はあまり無いようだった。
「わかったわ。なら、必要そうなものをいただいちゃいましょう。お金と、武器、あといるものって何かある?」
「そうですね、首元あたりに、ドッグタグみたいなものがあれば、それが身分証になります。それがあれば討伐したという話も信憑性も増すでしょう。それに、この辺りに浅めの洞窟があるようです。」
ミーリンはある方向を指して告げた。九麗亜はそのしぐさを見て、
「すごいわね、ミーリンさん。そんなことまでわかるの?」
「はい、精霊魔法の副産物で、精霊たちの言葉が聞けるのです。精霊たちが教えてくれました。そこは、魔物が寄り付きにくいらしいですし、精霊たちが魔物を寄せ付けないようにしてくれるらしいので、この盗賊たちも安全でしょう。」
ミーリンが教えてくれた洞窟に男たちを運ぶ。暴れられないように先に男たちの服を割き、手足を縛ってから運んでいく。その洞窟は、襲われた場所から20メートル程度の距離にあり、20分くらいで運び終わった。
「これでいいでしょう。じゃあ、寄り道になっちゃったけど町に向かいましょう。この盗賊たちも、お金は少し持っていたし、武器も手に入ったわ。町に着くまでは、これで我慢してくれるかしら?」
九麗亜は、盗賊から、金貨10枚と銀貨20枚、武器のアイアンダガーとアイアンソードをはぎ取った。ダガーとソードはミーリンが装備する。
「ありがとうございます。それでは、町はこっちの方向ですね。行きましょう。」
ミーリンが戦闘となり、道案内をしていく。途中でいくつかの木の実や、薬草などを採集した。
「ご主人様、すごいスキルを持っているのですね。持ってるアイテムもすごい高価なものばかりです。すごいですね。」
「いや、まぁね。これには少し理由があるのだけど、町について、宿をとってから話そうと思うわ。でも、これを話したら、あなたにはずっと私といてもらわないといけないから、その時決めてくれる?」
「?わかりました。と言っても、もう町は見えています。あそこが、『ソラールの町』です。そこそこ大きい街ですので、ご主人様の目的、クラン登録もできるでしょう。」
ミーリンに示されたほうを見ると、立派な門が見えてきた。この世界に転移して、初めての町にたどり着いたのだった。