チーム結成
エリアの話を聞いて、クレアは少し考える。
(んー、確かに、これからも途中からメンバーが増えることはあり得るわね。なら、ランクが高いほうが、強い魔物を討伐できるから、パワーレベリングもできる。それに、ほかの探索者と話し合うのも面倒ね。この話は私たちにとっては得かしらね。)
「ミーリン、どう思う。この話は受けるべきかしら?」
九麗亜はミーリンに尋ねる。ミーリンは笑顔で、
「奴隷である私が意見するのもはばかられますが、私としては、賛成です。今後もご主人様は、メンバーを増やしていくでしょう。その時、私たちよりはるかにレベルの低いものもいるかと思います。そのものを一番近くで守ることができるのではないかと思います。」
ミーリンの答えに九麗亜は、納得したようにうなずく。
「わかったわ。エリアさん、『チーム』組みます。その組み方を教えてください。」
「はい、ではこちらの書類に必要事項をご記入ください。あ、カリアさんとクルスさんは、こちらの書類に記入してください。」
エリアは、九麗亜に数枚の書類と、カリア、クルスに一枚ずつ書類を手渡し、書いてほしい個所を示していく。
「はい、これで必要書類は終わりました。では、それぞれのクラン証を提示してください。」
エリアに言われるまま、九麗亜たちはクラン証を出す。
「では、『チーム』結成のための魔法を施します。」
エリアが、クラン証に向け手をかざす。すると、エリアの手が光を発し、それに反応するようにクラン証が光出す。10秒ほどすると光は収まる。
「はい、これでそれぞれのクラン証に『チーム』の証が刻まれました。これで、あなた方は『チーム』となります。そして、こちらが念話スキルを使用できるようになる魔道具です。」
エリアは、指輪のようなものを4つカウンターに並べる。
「この指輪は『念話の指輪』といいます。そのまんまとかの感想はいりませんよ。こちらは、『念話の指輪』を付けている相手に対して念話を送ることが可能になる魔道具です。しかし、送りたい相手が『念話の指輪』を装備していることを自分自身が知っていないといけません。手当たり次第に、念話を送るということはできませんので安心してください。」
エリアが『念話の指輪』に関しての説明をしてくれる。九麗亜たちはそれぞれ一つずつ受け取り、自分の指にはめていく。全員が、右手薬指にはめた。
「これで、『チーム』に関する手続きも終了します。今日はこれからどうするんですか?」
「はい、カリアとクルスの実力も確認したいので、戦闘と採取を一つずつ受けようかと思っているのですが。」
九麗亜は、カリアとクルスを一瞥しエリアに伝えた。
「なるほど、では、依頼ではありませんが、魔物の素材を回収してくるというのはどうでしょう。依頼以外でも魔物の素材は買取をしております。「ゴブリン」なら、角や牙などが対象ですね。ほかにも、『ライフミント』や「マナミント」、それに、洞窟や岩場なら、鉱石や宝石なども期待できますよ。そういった場所に行ってみるのもいいですよ。」
エリアの提案に九麗亜は乗り気になる。九麗亜には『収納』スキルもあるため、見た目よりたくさんのものを運搬できる。それに、4人となったので、相対的に運べる荷物も増えている。今までよりも素材をたくさん運べるのは、稼ぎも増大するだろう。
「わかりました。みんなもそれでいい?」
「私は問題ありません。」
「私も大丈夫です。」
「私も、早くご主人様のお役に立ちたいです。」
ミーリン、カリア、クルスともに、賛成してくれた。九麗亜はエリアに向き直り、
「かしこまりました。では、九麗亜さんの『チーム』初の探索ですね。気を付けていってきてくださいね。」
エリアに見送られ、九麗亜たちはクラン支部を後にした。
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九麗亜は、町の雑貨屋で、そこそこ大きめのカバンを人数分購入し、『ライフポーション』と「マナポーション」、採掘用のピッケルを購入して、町の西に見えている岩山の方角に向けて歩いていた。
「そういえば、この町に来てから岩山に行くのは初めてね。」
「そうですね。大体、森か草原でしたね。確か、この辺りの岩山には、コボルトが多く生息しているとのことでしたが、今の私たちなら問題はなさそうですね。」
九麗亜とミーリンは楽しそうに話していたが、カリアとクルスは初めての探索であり、少々緊張しているようだった。
「ほら、二人とも。もっと肩の力を抜きなさい。でないと、いざというときに動けないわよ。」
「は、はい!」
「ひぅ、わかりました。」
二人は、九麗亜に肩をたたかれ、たたいた九麗亜が驚くくらい驚いていた。
「もう、そんなんじゃ全然だめね。ミーリン、この子たちの緊張をほぐすわよ。」
そう言って、二人の手を引き近くの茂みに引きずっていった。
その茂みから、しばらくの間、女性の嬌声が聞こえていた。
「どう、少しはリラックスできたんじゃない?」
九麗亜は、茂みの中でやり切った顔をしながら、地面に転がっているカリアとクルスを見下ろしていた。二人は、体をぴくぴくさせて、肩で息をしている。
「あの、ご主人様?さすがに1時間くすぐり続けるのは酷なものがあるかと。」
ミーリンは、九麗亜が二人をくすぐっている間、隣でずっと見ていた。二人が、最初は笑っているのだが、途中から苦しそうになっても笑い続けているさまは、さすがに見ていられず九麗亜を止めに入った。九麗亜も、ミーリンに止められくすぐるのをやめた。
「だって、この二人の反応が可愛いんですもの。私もつい興が乗ってしまったのよ。」
悪びれる様子もなく、九麗亜は言い切った。
「はぁ、はぁ、ご主人様。もう、お許しください。」
「もう、無理ですぅ。」
二人が復活するまで、30分ほどかかったのだった。
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「ご主人様、ひどいです。私たちがいくら緊張してたからってあれはひどすぎるのです。」
復活したクルスが九麗亜に詰め寄る。しかし、本気で怒っているわけではなく、いつもの調子に戻ったようだった。
「ごめんなさい。あなたたちがとてもかわいいものだから、ついつい歯止めが利かなくなってしまったのよ。」
九麗亜も、軽く謝るしぐさを見せると、
「わかりました。今回は私たちにも非があります。しかし、今後はもっとお手柔らかにしてほしいのです。」
と、クルスも顔をほころばせていた。
「まったく、ご主人様にも苦労をさせられます。」
その様子を見ながらミーリンがつぶやくと、
「ミーリン殿も苦労されているのだな。私も、力になれるように尽力します。」
と、カリアがそれに答えてくれる。4人の雰囲気はだいぶ良くなったようだ。
そうこうしている間に、4人は岩山にやってきていた。岩山といっても、しっかり人が通れる道が設けられており、崖を登ったりはしなくてもいい。しかし、そのところどころにコボルトの姿が確認でき、一筋縄ではいかないと理解させられる。ちょうど、岩山へ続く道の途中に3匹がたむろしていた。
「よし、無事に岩山にたどり着いたわね。これから、まずはコボルト狩りをするわよ。私は後衛でみんなの援護をするから、3人はそれぞれ一体ずつコボルトを相手してくれるかしら。」
近くの岩陰に隠れ、九麗亜は3人に作戦を伝える。ミーリン、カリア、クルスは頷き、
「わかりました。」
「コボルト程度ならば、楽勝です。」
「やっと戦えます。ご主人様、見ててくださいです。」
それぞれ自分の得物を装備して、九麗亜の合図で岩陰から飛び出していった。