新しい仲間
九麗亜とミーリンが初依頼を完遂してから1か月が経過した。その間、様々な依頼を受けたり、魔物の討伐で2人ともレベルとクランランクが上がっていた。
そして、今日も街の周囲に溢れてきた魔物『コボルト』の討伐依頼を完遂したところだった。
「はい、確かに、『コボルト』10体ですね。それでは、こちらが依頼報酬と、買取金額を合わせて、1500ルクスです。」
受付の男性から、報酬を受け取り、九麗亜はそれをポーチにしまう。
「じゃあ、また来るわ。」
九麗亜は、男性従業員にそういうと、ミーリンを連れてクラン支部を出た。
「ご主人様、今日もお疲れさまでした。」
ミーリンが横を歩きながら、笑顔を浮かべて言う。
「あなたもね。今日もありがとう。さ、帰りましょうか。」
九麗亜は、そんなミーリンの手を握り、いつも止まっている宿屋『癒しの風亭』に向かう。
「おかえりなさい。いつもの部屋でいいですね。」
受付の女性は、いつも二人が宿泊している部屋の鍵を渡してきた。九麗亜は、それを受け取り部屋に向かう。
「さて、今日の報酬で、私が元から持っていた分を除いて、20万ルクスたまったわ。」
「おめでとうございます。ご主人様。」
装備を外して、ゆったりとした装いになった九麗亜が、ミーリンに声をかける。
「それでね。ミーリンがよければなんだけど、仲間を増やそうと思うの。でも、私たちの関係が壊れるのも嫌だから、奴隷を買おうと思うの。どうかしら?」
「そうですね。いいと思いますよ。前衛の私と、後衛でヒーラーのご主人様。バランスはいいですが、物量で来られた時の対処が不安ですので。いい方がいればいいのですが。」
ミーリンも、仲間を増やすことには賛成のようだった。二人はさっそく、サバラが経営している奴隷商『セルウス』にやってきた。
「すみません、サバラさんはいますか?」
九麗亜は、商会の前で大きめの声を出してサバラを呼ぶ。すると、商会の奥のほうからサバラがやってくるのが見えた。
「おお、これはこれは、九麗亜さま。お久しぶりでございますな。ミーリンもよくしていただいているようで何よりです。」
サバラは、九麗亜たちに挨拶をしながら、店の中にあるテーブルまで案内した。二人を石につかせ、自身も席に着く。
「さて、本日の来訪の理由を聞いても?」
サバラから本題を切り出す。九麗亜がそれにこたえる。
「ええ、私たちはここ数日、クランでの依頼を受けていました。特に不安もないのですが、もし今後イレギュラーが発生したときに、ふたりだけでは不安でして。仲間を増やしたいなと思い相談に来ました。」
九麗亜が、訪問した目的を告げる。
「なるほど。では、どのような者をお探しですかな。奴隷と言っても幅が広くございます。条件を提示していただき、その中でふさわしい者達をご紹介しましょう。」
「そうですね。まず女の子であること。これは絶対です。あとは、戦闘が可能な人で、近距離戦闘が可能な人がいいです。後、この世界では同課はわかりませんが、人種の違いを受け入れられない価値観を持つ方はご遠慮させて下さい。」
九麗亜が条件を提示していく。その条件をサバラは覚えていく。
「わかりました。それでは、条件に合致するものを連れてまいります。少々お待ちいただきますよう。」
九麗亜たちに軽く頭を下げ、サバラは一度下がっていく。
「ご主人様。いい人がいるといいですね。」
「ええ、ミーリン。そしたら、もっと楽しくなるわよ。」
二人は、他愛のない話をかわしていた。すると、サバラが2人の奴隷を連れて戻ってきた。
「九麗亜さま、今回私が紹介したいのは、この2名です。では、お前たち、自己紹介を。」
サバラが連れてきたうちの一人が、一歩前に出て自己紹介を始める。
「初めまして。私はカリアと申します。種族は人族。今は亡き小国の騎士をしておりました。そこが他国との戦争で敗れ、行き場を失った私をサバラ様が助けてくださいました。近接戦闘ができるものをお探しとのこと。私は、『剣術』『盾術』などのスキルを習得しております。必ずや、お役に立てるかと存じます。」
一人目の女性、カリアが自己紹介をする。カリアと名乗ったその女性は、金髪碧眼のすらっとした女性だった。美しい金色の髪は肩の長さで切られており、住んだ湖のように青い目は、おっとりとした中に、確かな思いを宿している。すらっとしているが、出るとこは出て、締まっているとこは締まっている。今は、みすぼらしい貫頭衣を着ているが、しっかりとした服を着れば見違えるほどだろうと九麗亜は思った。
九麗亜は、カリアに許可を取り『鑑定』スキルを発動する。
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カリア・シュナイド
LV 12
AT 120
DF 100
MA 77
MD 80
SP 130
IN 140
HP 1300/1300
MP 1100/1100
スキル
剣術 (MAX)
細剣術 (20/50)
盾術 (30/40)
指揮 (10/50)
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となっていた。九麗亜は、その結果をミーリンに伝える。
「いいと思います。もともと騎士であったならば、戦闘経験もあるでしょう。また、騎士とは本来主君を守るもの。ご主人様を守ってくださるでしょう。」
「そうね。でも、もう一人の方もご紹介いただけるかしら。」
九麗亜は、もう一人のほうに自己紹介するように促す。
「はい、私はクルスと申します。種族はヴァンパイアです。自分の里を出て旅をしていましたが、盗賊に襲われてしまい、ここに売られてきました。近接戦闘としては、素手や、短剣が得意です。また、『闇魔法』のスキルを習得しているので、中距離先頭でも対応できます。どうぞよろしくお願いいたします。」
クルスと名乗った少女は、美しい銀髪を腰まで伸ばしている。その髪は一切のちぢれもないロングストレート。幼さを残した顔立ちに、紅く耀く瞳。体つきはスレンダーで、身長も140cmほどで、見た目にふさわしいプロポーションだと九麗亜は思った。
九麗亜は、彼女にも許可を取り、『鑑定』を発動させる。
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クルス・サラミス
LV 15
AT 300
DF 200
MA 190
MD 170
SP 220
IN 350
HP 2200/2200
MP 1800/1800
BP 500/2000
スキル
短剣術 (20/30)
拳術 (MAX)
闇魔法 (40/50)
吸血 (10/30)
血力 (MAX)
暗視 (10/50)
索敵 (11/50)
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となっていた。
「どうかしら、ミーリン?なんかすごく、ステータスが高いけど。」
「ヴァンパイアですか。ご主人様、この方は単騎でも強力な味方となりますよ。しかも、『闇魔法』は各属性魔法の中でも、一番攻撃力が高く、また応用できることが豊富な万能な魔法スキルです。それに、基本のステータスが高いのは、種族の特性ですね。ヴァンパイアは、もともとの能力が高い種族です。」
ミーリンの言葉を聞き、九麗亜は悩む。
「どうですかな?うちの者たちは。なかなかの逸材でしょう?」
サバラが、追い打ちをかけるように売り込んでくる。
「ねぇ、サバラさん。こんな逸材なら、どうしてほかの人たちは、この人たちを買わないのかしら。ステータスも高いし、スキルも優秀。見た目もいい。買われない要素がなさそうなのだけど?」
九麗亜は疑問に思った。確かに九麗亜としても、喉から手が出るほどに優秀な2人だが、九麗亜は、つい最近探索者となった駆け出し。やっとお金をため、次の段階に進もうとし、人を増やそうと思っただけだ。しかし、これほどの人材が売れずに残っているというのは、疑問にしかならなかった。
「...はぁ。やはり、隠し事はできませんな。そうです。この二人は、いわば売れ残りです。もちろん、先ほどおっしゃられた条件に一致しているものです。しかし、この二人にはほとんど買い手がついていないのです。」
サバラは、その理由について語り始めた。