依頼達成報告
オークを倒した二人は、その死体を収納スキルで回収し、以来の品を届けるために森を後にした。ソラールの町に戻る際、ゴブリンなどの下級魔物に遭遇したが、難なく退け町に戻った。九麗亜たちは、依頼の報告をするために『薬師・レイナード』の家に向かった。
「レイナードさん、『ライフミント』収穫してきました。開けてください。」
九麗亜は、レイナードの家のドアに向かって訪問を伝えるように声をかける。少しするとレイナードがドアを開けてくれた。
「おお、早かったな。ささ、入ってくれ。」
レイナードは、二人を家に招き入れ、朝と同じようにテーブルに着いた。
「じゃあさっそくだけど、収穫してきてくれた『ライフミント』を見せてくれ。」
九麗亜は、収納にしまっていた『ライフミント』を、テーブルの上に出した。
「おお、結構大きくて丈夫そうなのばかりだな。さすがエルフの精霊魔法って感じだな。」
「レイナードさんは、ミーリンさんの精霊魔法をご存じだったのですか?」
「ああ、エルフのお嬢さんが来てくれたのは、ラッキーだったよ。ただ、このまま普通の報酬では気が引ける。というわけで、これを渡しておくよ。」
レイナードは、商品が並んでいる棚から五本の瓶に入った薬品を取り出した。瓶に入った薬品は、それぞれ、赤、青、黄色、緑、紫の色をしている。
「これは、『増力の薬酒』と言ってな。赤は火属性、青は水属性、黄色は土属性、緑は風属性、紫は闇属性の魔法の威力を上昇させ、自身の耐性も上昇させる。といっても薬酒では、そんなに劇的に変わることはない。気持ち上がったかなってくらいだ。が、探索者にはけっこう売れるんでな。これを報酬に追加しておく。」
「いいんですか?後から何か、難しいこと吹っ掛けたりしませんか?」
九麗亜は、疑りの目をレイナードに向けるが、彼はそれを鼻で笑うように、
「いや、そんなことはしない。しいて言えば、これはゴマすりだ。将来有望な探索者にひいきにしてもらう。それだけで、この店の利益も出るってもんだ。今は、それだけでもうけものだ。」
レイナードの言葉を、やはり九麗亜はすぐに信用できなかったが、
「わかりました。では、これはありがたくもらっておきましょう。一応、今の会話は録音させてもらってあります。変なことは考えないでくださいね。」
九麗亜の言葉に、「おおこわ。」とレイナードは軽く笑い、クランに提出する書類を準備してくれた。九麗亜とミーリンもその書類に目を通すが、特に不備はなかったのでそれを受け取る。
「では、私たちはこれで失礼します。今度は、お客さんとしてきますよ。」
「おう、今後ともご贔屓にな。」
レイナードと別れ、二人はクラン支部への道を歩いていく。
「は~、ご主人様、お疲れさまでした。」
「まだ、依頼は完遂してないわよ。でも、ミーリンもお疲れさま。」
九麗亜は、隣を歩くミーリンの頭をなでる。彼女もそれを嬉しそうに受け入れる。二人はそのままクラン支部まで歩いていった。
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「はい、確かにレイナードさんの書類ですね。これで、この依頼も達成です。レイナードさんから預かっていた報酬をお渡しいたします。」
九麗亜は、クラン支部の受付で、係り員の男性にレイナードから渡された書類を見せる。男性は、その書類と、二人のクラン証を確認して、レイナードがクランに預けていた報酬を持ってきた。
「確認ください。1000ルクスと、『ランク1ポーション』です。」
九麗亜は、報酬を確認するとポーチに入れた。そして、
「実は、その採集依頼の途中で、『オーク』を討伐したのですが、どうしたらいいでしょうか?」
「おお、よもや、クラン登録の翌日に『オーク』を討伐されるとは。それでは、解体部屋にご案内いたします。どうぞこちらへ。」
男性従業員に連れられ、九麗亜とミーリンは、クラン支部の裏手に案内された。そこには、ナイフや、はさみなどがいくつも置いてあった。壁は、解体の際に富んだと思われる魔物の血などで汚れていた。
「さぁ、こちらに出してください。解体はされますか?されないのであれば、手間賃として20ルクス頂戴しますが?」
九麗亜は、収納スキルから「オーク」を取り出し、空いているスペースに置く。
「解体はお願いします。素材はすべて買い取りで、手間賃を差し引いていくらになりますか?」
九麗亜は、解体部屋の端で待機していた男性従業員に聞いた。男性は、
「そうですね。このくらいですと、300ルクスくらいにはなるかと。解体してみないと何とも言えませんが。終わるまで先ほどのロビーでお待ちください。」
男性は、解体専門の従業員を呼び、「オーク」の解体を始めるように手配する。九麗亜とミーリンは、先ほどのロビーに戻り、解体が終わるまで他愛のない話に花を咲かせていた。
「お待たせしました。九麗亜さま、ミーリン様。こちらが、先ほどの「オーク」解体の買取金額です。全部で、450ルクスとなりました。」
男性は、九麗亜たちが座っていたテーブルまでやってきて、九麗亜に硬貨の入った袋を手渡した。九麗亜はそれもポーチに納め、クラン支部を後にした。
「ご主人様、今日はこれからどうするのですか?」
ミーリンが九麗亜の顔を覗き込む。
「そうね。今日は初依頼達成の記念に少し豪華な食事をしましょう。私たちの初めての共同作業にね。」
九麗亜は、少しいたずらっぽく微笑みながら言う。ミーリンも少し顔を赤くしながらうなずく。
それから二人は、昨日の酒場ではなく、レンガ造りの上品そうなレストランに向かった。一品一品が昨日の食事より豪華だったが、奮発して初依頼達成を祝った。
「ご主人様、私今、本当に幸せです。」
九麗亜に「あーん」をされながら、ミーリンは表情をうっとりとさせる。九麗亜は、それを優しい目で見つめ、
「まだまだ足りないわ。もっと幸せになってもらうわよ、ミーリン。」
と、さらにミーリンに「あーん」を繰り出す九麗亜。それから、ミーリンは何回もとろけそうな笑顔を見せていた。
食事を終わらせた二人は宿に戻り、一緒にふろに入る。
「ご主人様、お背中をお流しします。」
「うん、よろしくね。」
ミーリンは、九麗亜の体を洗っていく。
「ふふ、昨日に比べて、遠慮がなくなったわね。」
体を洗われながら、九麗亜はミーリンに話しかける。
「はい、私は、ご主人様にお仕えできてうれしいです。もっとご主人様のことを知りたくなりました。もっともっと、ご主人様のお役に立ちたいと思いました。そう思ったら、遠慮していてはだめだと思いました。」
「ふふ、いい心がけよ。でも、無理はしないでほしいわね。私は、あなたが無事で笑顔でいてくれる。それが大切なのだから。」
ミーリンが九麗亜の体を洗い終わり、選手交代し、九麗亜がミーリンの体を洗い始める。
「あ、ご主人様。気持ちいいです。」
「もっとリラックスなさい。明日も依頼に行くんですからね。」
それから、風呂場に、ミーリンの嬌声がしばらく続いた。