初めての依頼
九麗亜とミーリンは、依頼主である『薬師・レイナード』の家まで来ていた。家の場所は、クランの受付の男性から聞いていたので、迷うことはなかった。
「ごめんください。クランの依頼できました。レイナードさんのお宅でしょうか?」
九麗亜は、ドアの前で訪問に来たことを大きめの声で伝える。すると、中から20代後半くらいの男性が出てきた。
「おお、すまねぇな。俺がレイナードだ。よろしく頼む。」
「探索者の九麗亜よ。こっちは私のパーティーメンバーのミーリン。さっそく、依頼の内容について確認したいのだけど。」
九麗亜が、自己紹介もほどほどに訪問の目的を告げると、レイナードも、
「ああ、まずは中に入ってくれ。」
と、家の中に二人を招き入れた。レイナードの家は結構広く、薬師を生業としているため、制作したポーションの販売スペース、ちょっとした喫茶店のような雑談スペース、薬の調合を行う実験室が、一階を占めており、二階が主に、彼が生活するためのスペースとなっているようだ。さらに家の裏手には、薬の調合に必要な薬草類が栽培されているようだ。
「さて、朝早くから来てくれてありがとう。改めて、俺は薬師のレイナードだ。ここで主に、ポーション類の生産と販売を行っている。しかし、一週間前に来た寒波の影響で、裏で栽培していた『ライフミント』が全滅してしまって。町で売っている材料を買って生産してもいいんだが、それだとコストがかかりすぎて、消費者に安価で供給できないのでね。また、『ライフミント』を生産したいんだ。頼む。『ライフミント』の株をとってきてれ。」
レイナードは、依頼の内容をもう一度説明する。
「内容はわかりました。しかし、株をとってきてほしいとなると、どのようにとってきたらいいのかわからないんですが?」
九麗亜は、レイナードに質問する。元の世界でも、自分で植物を育てたことがない九麗亜は、この世界の植物の知識なんて持っていない。
「そうだったな。一応、『ライフミント』を見つけたら、この鉢に植えて持ってきてほしいんだ。植え方は、『ライフミント』の周りをこのスコップですくって、土ごと持ってきてくれたらいい。鉢とスコップは貸すから、あと、鉢をいくつか運んでも安定する籠を渡しておくよ。」
レイナードは、実験室から、小さめの植木鉢と、スコップ、籠を持ってきて九麗亜たちに渡した。
「あの、達成の確認はどうしたらいいですか?」
九麗亜が、依頼の達成条件の確認をする。
「そうだな。『ライフミント10株』をこの店に持ってきてくれたら、俺がクランあてに依頼達成の書類を作る。それを持っていけば、クランから報酬が渡されるはずだ。」
「わかりました。では、この依頼を受けさせていただきます。行くわよ、ミーリンさん。」
九麗亜は、隣に控えていたミーリンに声をかける。
「わかりました、ご主人様。」
ミーリンもそれにこたえ、レイナードの家を出ていく。
二人は、町から離れた林に来ていた。
「ここって、私たちが出会った場所よね。ミーリンたら、こんな場所に連れてきていい趣味してるわね。」
九麗亜が、ミーリンをからかう。
「む、ご主人様。その言い方は意地悪です。この場所は、『ライフミント』の生育に適した環境になっているようです。精霊さんが教えてくれました。」
「へぇ、それが、ミーリンが自信満々だった理由かしら?」
九麗亜が、微笑みながら聞く。
「はい、エルフ族は生まれつき、精霊たちとの親和性が高いのです。とりわけ、私はその力が強いようです。今も、風の妖精たちから、『ライフミント』の場所が次々と報告が来てます。さっそく、収穫していきましょう。」
ミーリンは、精霊たちが教えてくれた場所まで行き、スコップをうまく使い『ライフミント』を掘り起こして、鉢に植え付けていく。九麗亜も、それに倣い収穫していくのだった。
1時間くらいして、目標数を収穫し終えた二人は、九麗亜の収納に、二人の分として4株を収納する。
「これだけあれば、しばらくはもちますね。『ライフミント』を調合することはできませんが、これのハーブティーは、かすかながら体力回復効果を持っています。疲れた時などには効果的です。」
ミーリンが、すごくうれしそうに教えてくれる。
「なんか、すごくうれしそうね。」
「それはそうですよ。ご主人様とティータイム。想像しただけで幸せです。」
とろけそうな笑顔で言ってくれるミーリンに、九麗亜もつられて笑顔になっていた。しかし、その笑顔も一瞬で真剣なものに変わる。
「ミーリン、武器を準備して。何か来るわ。」
「はい、ご主人様。」
ミーリンも気付いていたらしく、『フレイムエッジ』と『アクアエッジ』の二振りの短剣を構えて、気配のするほうに向ける。しばらくは、何も出てこなかったが、森の奥のほうから『何か』が近づいてきていた。
「ご主人様、精霊たちが教えてくれました。こちらに向かってきているのは、オークと呼ばれる魔物です。非常にパワーが強く、厄介です。また、他種族の女性をさらい、苗床にするとも言われています。気を付けてくださいね。」
ミーリンが、近づいてくる気配について教えてくれる。そうしているうちに、その魔物が姿を現した。九麗亜は、その魔物に鑑定スキルを発動する。
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オーク
LV 8
AT 100
DF 80
MA 10
MD 10
SP 70
IN 120
HP 180/180
MP 20/20
スキル
拳術 (3/20)
剛腕 (1/30)
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となっていた。
オークの見た目は、黒ずんだ緑色の肌、筋骨隆々の体をしており、そのこぶしによる攻撃は、普通の人間なら一撃で死んでいるくらいだろう。
「ご主人様、オークはかつて、エルフが錬金術師により拷問を受け、闇に落ちたものとされております。」
「へぇ、この世界では、そっちの設定なんだ。」
ミーリンの説明を聞いて、九麗亜は小さくつぶやく。元の世界の創作物には、オークは、エルフが拷問により闇に落ちたもの、語源が豚に似ており、キリスト教の教えで、豚は、『愚かで邪悪な存在』とされており、そこから作られたもの、の二種類が存在したからだ。
「まぁいいわ。ミーリン、あなたに支援魔法をかけるわよ。『ストレングス』『ハードロス』『スピード』」
九麗亜は、ミーリンに3種類の支援魔法をかける。
『ストレングス』は、AT上昇。
『ハードロス』は、DF上昇。
『スピード』は、SP上昇。
ミーリンはそれを受け、オークを翻弄していく。オークも、ミーリンを目で追っているのだが、その速度についていけていなかった。そして、死角からミーリンの斬撃がオークを襲う。
「ギャグア!?」
オークは突然体を襲った痛みに呻き声をあげる。『フレイムエッジ』で斬りつけた傷からは肉の焼けるような匂いがし、『アクアエッジ』は、どれだけ斬撃を繰り出しても、全く血糊がついていなかった。オークは、こぶしを振り回しながらミーリンに抵抗するが、彼女のスピードについていけずに、ただ斬撃を食らうだけになっていた。そして、あまりのダメージに片膝をついたところで、ミーリンが背中から、『フレイムエッジ』を突き刺し、オークは絶命した。
「おつかれさま、ミーリン。」
九麗亜は、ミーリンのもとに近づく。
「はい、ご主人様。ご主人様の援護のおかげで倒すことができました。ありがとうございます。」
「お礼はいいわ。あなたは、しっかり私を守ってくれた。お礼を言うのはこっちよ、ありがとう。」
九麗亜は、ミーリンのあごを持ち上げ、軽く触れるくらいのキスをする。それだけで、ミーリンは顔を赤くしてしまっていた。
「語、ご主人様、恥ずかしいです...」
ミーリンは、照れてしまい、顔を地面に向け隠してしまう。その拍子に、九麗亜は、彼女の頬に小さな傷があるのに気づいた。
「あら、ミーリン、ここケガしてるわよ。動かないでね。癒しの光よ、ヒール。」
九麗亜は、回復魔法を発動させ、ミーリンのけがを治していく。
「これでよし。あなたのきれいな顔に傷をつけるなんて、罪深い魔物だったわね。」
「ありがとうございます、ご主人様。もっと精進します。」
二人は、少し遅い、勝利の勝鬨を上げたのだった。