奴隷と入浴
「へぇ、木製の湯舟とは気が利くじゃない。いい香りがするわ。」
浴室に入った九麗亜の一言目だった。その浴室は、全面にきれいな木目をした木の板が張られており、浴槽も木を組み合わせて作られていた。どうやら、使われている木材は香木のようで、浴室全体がいい香りであふれている。
「はい、とてもいい香りです。これだけで癒されますぅ。」
ミーリンも、どこかうっとりとした表情をしている。
「さ、ミーリン、ここに座りなさい。洗ってあげるから。」
九麗亜は、風呂椅子を用意しミーリンに座るように促す。
「そ、そんな、だめですご主人様。奴隷をご主人様が洗うなど、前代未聞です。」
「いいじゃない。そういうプレイだとでも思っておきなさいよ。それとも、もっとすごいことされたい?」
「しかし、やはり...むぐ!!」
ミーリンはさらに反論しようとしたが敵わなかった。今日何度目かわからない口づけをされたからだ。
「ぷは。いい、ミーリン。私はあなたを奴隷としてみていない。大切な仲間として、今後のパートナーとして接していきたい。だから、食事も同じように食べてほしいし、なんならもっといっぱい食べて幸せになってほしい。お風呂も入っていつも清潔でいてほしい。夜だってぐっすり寝てほしい。私は、あなたとそんな生活を送りたいのよ。あなたがどうしてもいやだというなら奴隷から解放するわ。でも、奴隷だから、とかつまらない理由で断っているのなら、今すぐ正直になってちょうだい。」
九麗亜は、真剣な表情でミーリンに聞く。
「...わかりました。ご主人様。私を洗ってください。」
「喜んで。」
それから、九麗亜は、ミーリンを隅々まで洗っていく。時折、ミーリンが艶のある声を出していたが、九麗亜はそのたびに微笑んで、
「可愛いよ、ミーリン。」
と言って、さらに彼女を赤くしていた。
「もう、ご主人様、いたずらが過ぎますよ。」
体を洗われ終わったミーリンは少しご立腹のようだった。
「ごめんごめん。だってミーリン可愛いんだもの。」
九麗亜は、軽いノリで謝っている。しかし、ミーリンは許していないようで、
「だめです。今度はご主人様の番ですよ。」
と言って、半ば強引に九麗亜を風呂椅子に座らせる。
「では、ご主人様、失礼いたします。」
と言って、九麗亜の全身を洗っていくミーリン。時折九麗亜が、
「ん、上手ね。」
「ミーリン、気持ちいいわよ。」
などと言っていたが、無事、九麗亜も洗われ終わったようだった。二人は、浴槽に向かい合うように入った。
「は~、気持ちいい。」
九麗亜は、間延びした声を出しながら体をリラックスさせている。ミーリンもそれに倣い体の力を抜いているようだ。
「ん~、ミーリン、こっちに来なさい。」
「?はい、わかりました。」
九麗亜は、ミーリンを近くに来させる。そこで彼女の手を引き、自分の上に座るような体勢にさせる。
「ああ。ミーリンの体、やわらかいわね。」
自分の膝の上に乗っかった彼女を、九麗亜は優しく抱きしめる。
「ちょ、ご主人様...」
ミーリンも最初は驚いていたが、すぐに九麗亜のなすがままとなる。
ミーリンの体を堪能した九麗亜は、彼女とともに浴室から出る。体をふき、部屋着に着替えて部屋に戻る。
部屋に戻った二人は、装備などを確認してからともにベッドに腰かける。
「ご主人様、明日からはどうされるんですか?」
ミーリンが九麗亜に問いかける。
「そうね。とりあえず依頼を受けてみたいわ。私、この世界に来てまだ一日ですもの。探索者がどういうものかも体験してないし、それに、この世界で生きていくにもお金が必要だから。だから、明日はクランに言って依頼を受けるわよ。」
九麗亜は、明日の予定をミーリンに話す。
「わかりました、ご主人様。私も依頼は初めてですので簡単なのからにしましょうね。」
ミーリンもその意見に賛成のようだ。
「さて、明日の予定も決まったし、ミーリン、寝るわよ。」
「はい、ご主人様。ところで、どうして部屋着を脱いでおられるのですか?」
九麗亜は、部屋着である、『チュニック』と『ショートパンツ』『布の靴下』を脱いで、下着姿でベッドに転がる。
「だって、絶対寝汗かくしさ。それに、元の世界でも私、寝るときは下着だったしね。」
「そ、そうなんですか。わかりました。では、私も...」
そういうと、ミーリンも九麗亜と同じ格好になり、彼女の横に寝転がる。
「いいわよ、ミーリン。もう遠慮しなくなったわね。これからもその調子でね。じゃ、寝ましょうか。」
「はい、ありがとうございます、ご主人様。」
そうして二人は、心地よく眠りに落ちていった。
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翌朝、二人は朝早くからクラン支部に来ていた。
「へぇ、朝早いってのに、こんなにも探索者がもう来てるのね。」
しかし、九麗亜たちよりも先に探索者たちは支部にやってきていて、依頼の張り出されている掲示板を見ていた。
「そうですね。確かクランの掲示板は、毎朝6時に新しく張り出されるそうですから。皆さん、割のいい仕事を探しているのかと思います。」
ミーリンが説明してくれる。割のいい仕事、それは、魔物が大したことないが報酬がいいとか、簡単な素材採集だとかがあるそうだが、ほかにも、各自の目的に応じて依頼を受けていくらしい。つまり、あとに来れば来るほど、割の悪い依頼が残るのだ。
「まぁ、今回は初めての依頼だし、難しく考えないで行きましょう。最初にするのはやっぱり採集依頼かしらね。魔物を討伐するのは、まだ勇気がないわ。」
「そうですね。私も、魔物の群れに飛び込んでいくのは気が引けます。まずは、採集依頼で感覚をつかみましょう。」
ミーリンもその意見に賛成する。九麗亜は、しばらく掲示板を見つめ、いちまいの依頼票をはがした。
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ライフミントの採集依頼
差出人 薬師 レイナード
内容
この前の寒波で、栽培場で作っていたライフミントが、
全部枯れてしまった。これでは、ポーションを作ることが
できないので、だれか、ライフミントを採集してくれ。
採集物
ライフミントの株 × 10
報酬
1000ルクス、ランク1ポーション×5
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「ミーリンさん、これなんかどうかしら。私も、回復職の手前、ポーションについて少し知っておきたいし。」
ミーリンに、依頼票を見せる九麗亜。ミーリンもうなずき、
「いいと思いますよ。この依頼であれば、それほど危険な場所ではありませんし、『ライフミント』であれば、エルフ族の私にかかればすぐに見つけられます。私たちも、自分の分の『ライフミント』を確保しておけば、これから使えるかもしれません」
ミーリンも賛成したので、九麗亜は、その依頼票を持って、空いているカウンターに持っていく。受付の男性は、
「はい、『ライフミント』の採集依頼ですね。それでは、この依頼を受けたということを登録いたしますので、クラン証をお渡しください。」
九麗亜と、ミーリンは自身のクラン証を男性に預ける。男性は、クラン証と依頼票を近づけ、何やらぶつぶつつぶやいている。すると、クラン証が一瞬光り、元に戻った。
「はい、ありがとうございます。これで、あなた方のクラン証にこの依頼が登録されました。まずは、薬師『レイナード』の家まで行って、依頼の詳細を確認ください。そこで、内容を詰めてから依頼に出発してくださいね。これを怠った場合の依頼失敗はクランの信用にも関わりますので、相応の対応をさせていただかなければなりませんので。」
男性が、クラン証を返しながら、再度注意をしてきた。二人はうなずき、クラン証を受け取り、依頼人のもとに向かった。