町で買い食い、奴隷と晩御飯
二人は、串焼きを食べながら街を歩き回った。
「この串焼き美味しいわ。程よく脂身もあるし、やわらかくて食べやすい。」
「こっちのもおいしいですよ。少し硬めの触感ですが、噛めば噛むほどおいしさが増えていきます。ご主人様、一口どうぞ。」
ミーリンは、自分の食べかけを九麗亜に差し出した。
「いいの?じゃぁ、遠慮なく。あーん。」
九麗亜は、差し出された串焼きに食いつき、一切れを口に入れる。そして、おいしそうにほおを緩ませる。
「確かに、おいしいわね。じゃぁ、ミーリンさんも一口あげるわ。はい。」
「では、失礼します。あーむ。」
九麗亜は、お礼にと串焼きを差し出す。ミーリンはそれを小さい口でほおばる。頬が少し膨らみ、もぐもぐと噛んでいるのがわかる。そのしぐさを見て、九麗亜は微笑みながらミーリンが食べ終わるのを待つ。
「ふふ、食べる顔もとてもかわいいわよ。ミーリンさん。」
「むぅ、ご主人様は意地悪です。それに、さっき宿屋でも言いましたが、私のことは呼び捨てにしてください。奴隷にさん付けなんてありえませんよ?」
ミーリンは頬を膨らまして抗議する。それを九麗亜は、
「だめよ。こんな風に人の目があるときは、あなたのことをさん付けで呼ぶわ。私は、あなたのことを奴隷としてなんて見てないもの。でも、二人きりの時は、親愛の情を籠めて、ミーリンと呼ぶわ。いいかしら?」
そう言われて、ミーリンは頬を赤らめ、
「もう、そんな言い方去れたら、断れないじゃないですか......」
と、うつむいてしまった。
二人は串焼きを食べ終わると、近くで店を構えていた薬屋に立ち寄った。
「ねぇ、私の魔法があるのに薬って必要かしら?」
「当然です。ご主人様の魔法は、確かに強力ですが、ほかの方法で代用できるのならしたほうがいいんです。ご主人様の魔力の温存は、やっておいて不利になることはありません。」
と、ミーリンに押し切られ、HP回復用の『ランク1ポーション』と、MP回復用の『ランク1マナポーション』をそれぞれ10個ずつ購入し、九麗亜のポーチにしまう。
そのあと、二人は服屋に立ち寄り、ミーリン用の『チュニック』『ショートパンツ』『皮の靴』『布のブラ』『布のショーツ』『布のソックス』をそれぞれ5着ずつ買い、宿屋『癒しの風』に戻ってきた。そのころには太陽が傾き、町を夕焼けが包んでいた。
「すいません。この辺りでご飯食べられる場所ってありませんか?」
九麗亜は、宿の店員に食事のできる場所を尋ねる。
「それでしたら、当店の横に併設されております酒場でどうぞ。当店の部屋の鍵を見せれば半額の値段での食事ができます。また、この町の方々からも、広く好評をいただいておりますので、どうぞ。」
おすすめされるままに、九麗亜とミーリンは宿屋の横にある酒場に向かった。ドアを開けると、ムワッとしたアルコールの匂いが漂ってきた。その店の中では、多くの人間が、酒を飲んで騒いでいる。
「これは、なかなかにぎやかなお店ね。ミーリンさん、窓際でいいかしら。」
九麗亜は、窓際の空いている席に座る。ミーリンは、その横で立ったままだった。
「どうしたの?あなたの椅子に座りなさいよ。」
「しかし、ご主人様。奴隷がご主人様と一緒の席で食事など恐れ多いです。私は、残り物で......」
ミーリンが言い終わる前に、九麗亜は立ち上がり、周囲からは見えないように彼女の口を自身の口でふさいだ。
「んっ、ちょ、ご主人様!?」
「いい?お昼にも行ったけど、私はあなたを奴隷としてなんて見てないのよ。だから、私と一緒にご飯も食べるし、お風呂にも入る。寝るときだって一緒なのよ。ほら、早く座って。私、この世界でおいしいものなんて知らないから、ミーリンさんが教えてくれると助かるのだけど。」
「もう、ご主人様は強引です。わかりました。では、失礼いたします。」
九麗亜に言われ、ミーリンは九麗亜と向き合うように席に着く。そして、メニュー表を開く。
「ご主人様は、どのような料理が食べたいのですか?」
「そうね。でも、やっぱり尾肉かしらね。昼間に食べた串焼きもおいしかったし。」
「わかりました。では、この辺りとかどうでしょう。」
ミーリンは、メニューのページを九麗亜に見せる。そこにはいくつかの料理が書かれていた。
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野ブタの厚切りステーキ 80ルクス
野牛のタンスライス 100ルクス
野ブタと野牛のミックスハンバーグ 120ルクス
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「これらのメニューは、パンとスープがついてくるようです。どれにされますか?」
「そうだね。私はミックスハンバーグにするわ。ミーリンさんは?」
「では、私も同じものをお願いします。」
九麗亜は、店員に注文した。5分もしないうちに料理が出てきた。アツアツの鉄板に大きなハンバーグが乗せられ、おいしそうな香りを漂わせる。その鉄板のわきには、一口大に切られた野菜が彩を加えていた。ついてきたパンは、成人男性のこぶし大の大きさで食べ応えがありそうだ。スープも、少しからそうで、食事が進みそうだった。
「これはおいしそうね。では、いただきましょう。」
九麗亜は、さっそく料理に手を付ける。ミーリンもそれを見て食事を始める。ハンバーグにナイフを入れると、たっぷりの肉汁があふれ出した。二人はそれを口に入れる。
「ふぁぁ。口の中で肉汁があふれ出しますね。」
「ええ、これは美味しいわ。パンとも合うし、ミーリンさん、いいチョイスよ。」
二人は、さらに食事を進めていく。
「おお、このスープも辛さが、程よく食欲を刺激してくれますね。フォークが止まりません。」
「そうね。私、元の世界でもこれほどおいしいと感じたことはないわ。」
二人は、そのあと20分ほどで完食し、代金の240ルクスを支払い宿に戻った。
「おかえりなさいませ。」
「ただいま帰りました。ところで、お風呂にはいれるところはありますか?」
九麗亜は、受付の従業員に聞く。一日歩き詰めだったので、汗を流してから眠りたかった。
「それでしたら、当店の方で入浴できますよ。個室で、お二人なら、一部屋2時間300ルクスですね。入浴の際は、体を服用のタオルを人数分お貸しします。石鹸は各部屋に備えてございます。」
九麗亜は、受付に銀貨3枚、300ルクスを支払い、タオルと部屋番号の書かれた木札を受け取り浴室のある地下に向かった。
地下には、同じような浴室部屋がいくつも並んでいた。二人は木札に書かれた番号の部屋に入った。部屋は、脱衣所、ふろ場、湯船とそれぞれが畳一枚分ずつくらいの広さだった。
「おお、しっかりしたつくりね。じゃあ、ミーリンさん、さっそく入りましょう。私が脱がせてあげるわ。」
「え、ちょっ、ご主人様!?」
九麗亜は、驚いて動きの止まっているミーリンの鎧、衣服を脱がしていく。あれよあれよという間に、一糸まとわぬ姿にされてしまったミーリンだが、
「もう、次はご主人様の番ですよ。じっとしててくださいね。」
九麗亜の装備を脱がしていき、彼女も、一糸まとわぬ姿となった。
「ありがとう、ミーリン。じゃ、お風呂に入りましょうか。」
九麗亜は、ミーリンの手を引き風呂場に入る。ミーリンも、呼び捨てで呼ばれたことに顔を赤くしながらも、それについていく。