プロローグ
「ああ、これで私の人生も終わりね。」
眼下に広がる都心の夜景を見下ろしながら一人の少女はつぶやいた。足元には、きれいにそろえられた靴と一枚の紙。そして、少女は、眼下に広がる夜景の中に身を躍らせた。
奉服 九麗亜は、奉服家の令嬢として育てられた。奉服家は代々、多数の私立学校の理事を務め、いくつかのレストランや、衣料店を経営していたのだが、ある時、経営が破綻し、奉服家の名声は地に落ちてしまった。しかし、それだけなら、九麗亜が追いつめられることにはならないはずだった。
悲劇はこの後だった。家には借金取りが毎日のようにやってきた。そればかりか、働いていた従業員たちまで、押し寄せてきた。
「俺たちの人生どうしてくれるんだ!!」
「わたしたちは、このまま、仕事がなくて死ねというの?」
何とも、身勝手な話である。そもそもの破綻の原因は、従業員による不祥事が原因だったのだから。
ことは、奉服家が経営していたレストランで、調理台の上に乗っかり写真を撮る従業員の写真がSNSで広がったことが原因だった。それにより、レストラン経営が破綻してしまった。そのあと、追い打ちをかけるように、衣料店で、女性客を試着室に連れ込み、強姦したというニュースが流れた。その二つのニュースにより、学校経営者としての責任を問われ、すべての学校の理事を追い出された形となった。
借金取りと、元従業員たちの毎日の押しかけで、家族の精神はズタボロになった。それでも、九麗亜は学校には通っていた。家族に心配をかけたくなかったのだ。しかし、その学校でも、非難の声は聞こえてくる。従業員の子供からは、理不尽な罵声を浴び、見た目が整っていたせいか、男子生徒たちには、学校裏などで暴行され、教師たちも見ないふり。そのような生活が続き、彼女の精神も壊れていった。
彼女は、ある日、学校の同級生たちに呼び出された。おそらく、いつもの罵声を浴びせた後、男子たちに輪姦されるのだと、すぐに察しがついた。そこで彼女は、ポケットに小振りのナイフを隠し持って、呼び出された場所に行った。そして、罵声を浴びせられたのち、男子たちが暴行しようと近づいてきたところを、一人、また一人と、首の頸動脈を切り裂き、殺していった。そして、罵声を浴びせていた女子たちは、腰を抜かしていたので、その女子たちも殺した。
全員を殺した後、彼女には、満足感と達成感しかなかった。人を殺したという罪悪感は微塵も感じられなかった。九麗亜はその足で、一度家に戻る。家の前には、いつものように借金取りと、元従業員の姿があった。夜であるためか、人数は少なかったが、彼女はその全員を殺した。
しかしそこで、彼女は冷静になってしまう。彼女は自分のしてしまったことの大きさを自覚し、その重さに耐えられなかった。
そして、もともと、奉服家が経営していた衣料店のビルの屋上にやってきた。
「ああ、これで、私の人生も終わりね。お父さん、お母さん、先に旅立つ娘をお許しください。」
一筋の涙が彼女のほうを伝う。彼女は、その涙をぬぐうと、眼下に広がる夜景の中に、その身を躍らせた。
「ああ、神様、もし、次の人生があるなら、こんな人生にならないよう、お願いいたします。」
その日、都心の歩道に、きれいな赤い花が一輪咲いたという。