第三話 いつもの二人
A君が手にかけた206号室の扉。A君は、その先にどんな光景が広がっていても驚かないようにしよう、それだけを決めて扉を開けました。
その扉の先にはA君が捜し求めていた人がいました。
B君が。
しかし、そこにいたのは『B君』という事実だけでA君の記憶にあるB君とは違う存在でした。
治療で抜け落ちた髪
病魔に犯され痩せ細った体
一ヶ月の時はA君の親友を見るも無惨な姿に変えていました。
しかし、A君にとってそんなこと全く関係がありませんでした。
十年以上…共に過ごしてきた彼らはお互いの成長も見てきました。
髪型を変えたのも見てきました。
身長が急激に伸びたのも見てきました。
心の成長も見てきました。
だからーーA君にとっては
「あぁ髪型 変えたんだな」
「かなり痩せたな」
程度にしか感じませんでした。
また、B君も同じでした。
ですから、A君がB君の寝ているベットに近付き、横に立っても変な反応もせず、第一声は
「久しぶりだな」
そんな日常会話でした。
それから二人はお互いの身の回りであったことを話しました。
いつものように
面白かったら笑い
腹が立つようなことであったら怒り
悲惨な話であったら哀しみ
良い話であったら楽しく
そこにあったのは紛れもなく『いつもの二人』でした。
……しかし、病魔は確かにB君の体を一つの方向に導いていました。
いずれ迎える『いつもの二人』がなくなる世界へ。