廃屋
その日は生憎の雨だった。
何の話だって?
もちろん、肝試しの。
朝はあんなに晴れていたというのに、それが嘘のように雨が降り注いでいた。
この雨の中、肝試しは中止だろうと思っていたが……津雲達はコンビニに集合していた。
「……雨が降っているというのに、何故肝試しをするのですか!」
「おい、落ち着けって鏡」
怒りをあらわにするお嬢様を宥めながら、津雲達は目的地に向かうことにした。
目的地はそれ程遠くなく、コンビニからは数分で到着する……はずだったのだが。
「……道が塞がっているんだが」
「……塞がってるね」
「……塞がっていますわね」
「ちょっ、そんな目で俺を見るな!」
そう……道が塞がっていたのだ。
山の土砂が道を塞いでいた。
津雲と智春、それに鏡が将大にジト目を向ける。
「帰ろうか」
「そうですわね」
「津雲の意見に同意」
「だから待てって!ほら、あそこ。道があるじゃん!」
将大が指さす先には、人一人が入れそうな程の穴。
正直、入りたくない。
鏡は、額に青筋を浮かべていた。
「……やっとか」
「如何にもって感じだな」
「……もう、歩けませんわ」
何回か、通れなさそうなとこが有りはしたが、なんとか目的地に着いた。
目の前には廃屋……というか、病院があった。
小さな病院である。
壁は所々塗装が剥げ、コンクリートや鉄骨をのぞかせていたりとなんとも不気味だ。
「写真撮とるぜ!」
「ちょ、待てよ将大!」
「……待ってください、津雲さん!」
突然走り出した将大を追いかけようと、走り出す津雲と智春。
それを追いかけるかたちで鏡も走った。
入り口は津雲たちを飲み込むかのように口を開けていた。
中に入ると今までの蒸し暑さが嘘のようだった。
中は、冷たい空気で満たされている。
外はあれほど蒸し暑かったというのに、全く湿気を感じない。
どこからか風がふいている、そんな気配がした。
「……なんか出そうだな」
ポロリと零した津雲の一言に……反応するものはいなかった。
「え、ちょ、嘘だろ?」
そばには誰もいない。
そう、誰も。
周りを見渡してみる。
ホールのような場所のようだ。
廃屋の中とは思えないほどかなり広い。
全面、白で統一されている。
二つしかない窓からは微かな光が流れているだけでとても薄暗い。
しかも後ろには入ったばかりの扉がなかったのだ。
「こ、ここ何処なんだ」
その時、天井が崩れた。
何かが上から落ちてくる。
黒く丸い塊。
それを抑えつける形で首のない人型。
こいつも黒い。
それが天井から注ぐ眩しい月明かりに照らされて、津雲の目に飛び込んできた。
「な、な……」
黒い塊は一瞬で黒い粒子に。
人型は動く気配を見せない。
津雲は人型に引きつけられるように近づいていく。
青い月の光はまるでスポットライトのように、人型を照らしている。
大きさは大型のトラックぐらいであろう。
大量の瓦礫に沈むように倒れていた。
津雲が足元まで来た時、突然人型の背中にひびがはいった。
ひびは首から少しづつ広がり、やがて腰のあたりで止まる。
そして中から肌色の何かが出てくる。
まるで蛹から蝶へと代わるように肌色の……裸の女の子が出てきた。
「!!!!」
陶器のような白みがかった肌色、顔は見えないが長い黒髪が月の光によって輝いて見えた。
「な……」
津雲の声に彼女は顔だけ振り向く。
西端な顔に眠たげな瞳。
「……なんで、ここに人が?」
無表情で呟いた。