始まり
「肝試ししない?」
夏休みに入ろうかとしていたある日のことだった。
「だから、肝試しだよ。き・も・だ・め・し」
「キモイのはお前だけで十分だが?」
「右に同じく」
「いや、今そんなボケいらないんですけど!」
クーラーの効いた教室で机に突っ伏していた津雲に話し掛けてきたのは、中学の時から仲の良い相良将大だった。
顔も性格も言うこと無しのモブキャラ。
以上、説明終わり。
そして、将大の言葉にいち早く返答したのは、津雲の隣りの席に座っている三木智春であった。
智春は成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗と、完璧人間である。
文化祭で女装したときは……いや、この話はやめておこう、殺される。
眼鏡の奥に隠れた瞳は、相手が男であろうがお構いなく悩殺してしまう……と、もっぱらの噂である。
将大がジェスチャーをつけて続きを話はじめる。
「この前知ったんだけどさ、家の近くの山に今は使われていない病院があってさ。それで、出るらしいんだよ……幽霊」
「ゆ、幽霊なんているわけないですわ!」
「あれ、鏡?」
後ろから震えている様な声がした。
振り向くと、いかにもお嬢様としか言い様のない美少女が立っていた。
髪は綺麗なブロンド、整った顔、その瞳は蒼く、まるで物語のお姫様だ。
彼女は花山院鏡。
日用品や食料品から石油まで。
その名を見ないことがないほどの会社、花山院グループ社長、花山院良道の一人娘という生まれながらのお嬢様。
ちなみに智春の幼馴染みである。
津雲はある出来事から、下の名で彼女を呼んでいる。
なぜ、そんなお嬢様がなんで普通の高校に入学したのかは、正直誰も知らない。
「花山院さん、オバケ恐いの?」
「ふ、ふん。そんな非科学的なものに恐れなどありませんわ!」
将大のニヤニヤとした顔に苛立ちを覚えたのか、イラッとした声で否定する。
「なら、来るよね?」
「えっ……」
「大丈夫だって。写真撮って帰るだけだし」
「で、ですが」
「恐くないんでしょ?」
「あ、当たり前ですわ!」
「なら、決定っと」
「え、ええ……」
鏡は済し崩しに行くことになってしまったようだ。
「……でも津雲さんとお近づきになるためですし……」
「なんか言った?」
「い、いえ。なんでもございませんわ」
「……なら、いいけど」
小さく呟いた鏡の声は津雲には聞き取れなかった。
と、そこで思い付いた様に津雲に話し掛けてきた。
「ところで、津雲さんもお行きになさるんですわよね?」
「僕?そうだね、鏡が行くんだったら行くよ」
「本当ですか!」
「う、うん」
まぁ、女の子一人と将大を二人きりにするのは良くないからね。
「智、もちろん行くんだろ?」
「……そうだな」
「おっし、決まり!」
「将大、変なことすんなよ」
「分かってるって。時間は今日の十時にいつものコンビニで。異論は?」
「「ない」」
「なら、そういうことで」
将大はガッツポーズをとり、自分の席に帰って行った。