表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

一話 身の程知らずの恋

 気がつくと、見知らぬ場所に倒れていた。


「いっつ……ぅ」


 身体を起こし、場所を確認する。見慣れないけれど知っている風景。

 あぁ、ここは渓谷だ。ドラゴンと呼ばれる種族が暮らす場所。思い出していく。依頼主の敵となったあの魔女に――ニルヴェルヘーナが求める血統を持つ魔女に、吹っ飛ばされたこと。

 きっと、これは罰なのだ。

 バチというものが、あたったのだ。

 人を殺すような依頼を、自分に科した掟を破ったから。

 もうどうでも良くなったから、金になるなら何でもよくなったから。そんな思いで久しぶりに依頼を受けたら、まるでそんな心の隙間をかき回されたようになって、このザマだ。


「……ラス」


 無意識に名前を呼んだのは、もう長らく出会っていない遠い国のお姫様の名前。こうなる少し前に調べたところ、彼女はもうじきメルフェニカの貴族に嫁ぐことになっているらしい。

 その名前が、例の――ラスに乱暴を働きかけた男のものと知り、けれどファリはもう何も感じなかった。なぜならば、もうファリと彼女の間に縁は無く、結ぶ力も無いのだから。

 あんな事件が無かったらと、思わない日は無い。

 魔法の才能など、なかったなら。

 けれどあの事件がなければ自分は、あの王女と出会うことさえなかった。出会えただけ良かったと思えばいいのか、出会ってしまった残酷さを嘆けばいいのか。ファリにはわからない。


 地面に倒れ、ゆっくりと全身に治療を施す。しばらく動けない。助けも来ない。少しでも動けるようになったら、早くここを脱出し……里にでも、久しぶりに帰ってしまおうか。

 師は驚くかもしれないけれど、一人でいると余計なことしか考えない。

 自らの掟を破ったという負い目もある。そんな軟弱な精神は、里で叩きなおしてしまった方がきっと後で助かるはずだ。叩きなおすうちに、何もかも忘れてしまえるとファリは思う。



 忘れられるさ、と小さくつぶやく。

 身の程知らずの、恋だった。

 きっと、恋をしていた。


 だからこそ、独りになった時以降は消えていた、涙が頬を伝うのだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ