表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶喪失の大量殺戮者(ジェノサイダー)  作者: 黒雨みつき
第2話『狙われた大量殺戮者(ジェノサイダー)』
7/32

プロローグ

「はっ……はっ……!」

 

 最近ではほとんど誰も通らない、お世辞にもしっかり舗装されているとは言い難いデコボコの道を一人の子供が走っていた。

 いや“子供”という表現が合っているかどうかは不明だ。

 身長は百六十センチ未満、おそらく百五十センチ半ばぐらいだが、その人物は日射し避けのフードを頭から被っており、顔がその中に隠れていて、実際のところはわからない。

 

「はっ……はっ……!」

 

 風がその全身に強く吹きつける。

 フードが少しずつズレて、茶色がかった髪が少しだけその姿を見せた。

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

 少年、だろうか?

 短めの髪型は一瞬、それを連想させるが、少し線の細い顔立ちを考えると、もしかしたら女の子かもしれない。

 ただ、年齢はやはり十代で間違いないだろう。

 

 額に汗を浮かべ、その子供は荒れ果てた道を目的の場所へと駆けていく。

 

 もうすぐ。

 もうすぐ見えてくるはずだ、と。

 

 夕方時。

 

 おそらく、炊事の煙が、ところどころから立ち上っているはずだ、と。

 

『あそこの村はねえ……』

 

 息が切れる。

 道の途中で出逢った、旅の商人の言葉が、何度も何度も頭の中で繰り返される。

 

『とてつもなく残虐な……黒ずくめの魔に……』

 

「はぁっ……はぁ……ッ!」

 

『滅ぼされちまったらしいよ……』

 

 嘘だ。

 嘘だ、嘘だ。

 

 何度も心の中で繰り返す。

 それを、自分自身に信じ込ませようとするかのように。

 

 だけど。

 

 炊事の煙は、どこまで行っても見えてこない。

 どこまで行っても。

 

 ……まだ。

 きっとまだ、村までは遠い。

 

 きっと……。

 

 ……コツン。

 

 足下に何かがぶつかる。

 

「ぁ……」

 

 立ち止まってようやく周囲を見渡すと、そこには黒く焼けこげた、何かの残骸。

 

「嘘……」

 

 ところどころに広がる……朽ち果てた、家の跡。

 そこは確かに、村があったはずの場所。

 

「……嘘だ――」

 

 誰にも届かない少年の呟きは、瓦礫の山の中に吸い込まれていった。

 

 ――砂埃を巻き上げる乾いた風とともに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ