標本室 ~残響~
掲載日:2026/09/29
窓のない部屋の奥に
ガラスケースが並んでいる
ひとつ
またひとつ
しまったものを
ずっと眺めていた
写真ではなく
標本にしてしまえば
もう傷まないと
静かに眠ってくれると思っていた
ケースの中にあるものは
消えたわけではなかった
私が確かに
そこにいたから
忘れるために
名前をつけて標本にした
蕩けるような声も
鼻をくすぐるあなたも
残しておけない体温も
本当は縛っておきたかった
そこに優しさはなかった
そんな自分を嫌いになった
それでも嘘をつこうとしていた
手を伸ばしても
あの花には触れられない
すぐそこに見えるのに
一歩向こう側へは行けない
標本の中には
忘れられなかった私がいる
残った私を
私と呼ぶ
――そう記録して
たとえ誰に拾われなくても
のこした記録が
記憶になるのなら
いつか思い出して
私は
確かに生きていたんだ




