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天双の剣鬼は定時で帰りたい 〜クールなOL、夜は駅のホームで魔を断つ〜

作者: カイラ&塩野さち
掲載日:2026/06/06

 夕方のオフィスは、キーボードを叩く音と電話のベルが気怠げに響いていた。


 宮本武麗(むれい)は、デスクで書類に目を通していた。知的なメガネの奥にある黄金色の瞳は、冷徹なほどに美しい。夜空のように艶やかな黒髪をなびかせ、完璧に仕事をこなす姿は、まさにクールな美貌のOL(オフィスレディ)そのものだった。


 そこへ、部下の若い男性社員である佐藤くんが、資料を片手にすり寄ってきた。


「あのぉ、宮本先輩。ここの数字なんですけど、僕じゃよく分からなくて……。教えてもらえませんか?」


 あからさまなアピールを、武麗は書類から目を離さずに一蹴する。


「マニュアルの三ページを見なさい。そこにすべて書いてあるわ」


「ひゃっ、はい! すみません!」


 氷のような冷たい声であしらわれた佐藤くんは、なぜか頬を赤く染めてゾクゾクと身体を震わせた。宮本さんに話しかけられたという歓喜だけで、その場で半ばイッてしまっている。


 武麗はそんな部下を視線だけで突き放すと、定時と同時に荷物をまとめて立ち上がった。


「お疲れ様。私はこれで退勤するわ」


◇◆◇


 オフィスビルを出た武麗のスマートフォンが震えた。画面に表示されたのは、神社庁の担当者である高橋の名前だった。


 人混みを避けた路地裏で通話に出る。


「……私よ。何の用?」


『宮本さん、急な依頼で申し訳ない。地縛霊化した危険な存在が現れたんだ。場所は、深夜の地下鉄駅。どうか成仏させてくれないか』


 武麗の裏の顔。それは、現代に蔓延る魔を狩る至高(しこう)の剣豪だった。


「分かったわ。すぐに報酬の振り込み手続きをしておいて」


 通話を切った武麗の瞳に、鋭い猛禽のような鋭さが宿る。


◇◆◇


 営業時間の終わった、深夜の駅ホーム。


 静まり返った空間に、武麗の足音が響く。彼女はすでに、白と黒を基調とした和装風の戦装束に身を包んでいた。腰には、愛刀である『和泉守藤原兼重』と『大和国住国宗』の二振りが厳かに鎮座している。


 ぴちゃり。ぴちゃり。


 不気味な音が、誰もいない線路の方から聞こえてきた。


 コンクリートの床に滴っているのは、どす黒い血の滴だった。


 ここは、知る人ぞ知る投身の名所。ホームドアの設置工事中にも、不可解な事故が何度も起きていた呪われた場所だ。


「……出たわね」


 空間が歪み、無数の怨念が混ざり合った巨大な悪鬼が姿を現した。ドス黒い霧をまとった地縛霊が、ウオオオオと地鳴りのような咆哮を上げる。


 武麗は不敵に微笑むと、腰の『和泉守藤原兼重』を音もなく引き抜いた。


「私の睡眠時間を削った罪は重いわよ」


 悪鬼が鋭い爪を振り下ろして襲いかかる。


 ドガァン!


 ホームの柱が破壊されるが、武麗の姿はすでにそこにはなかった。女性としては高身長な一七六センチメートルの身体が、一瞬で間合いを詰める。


天双(てんそう)の剣技、見せてあげる」


 美しく、そして圧倒的な速度の斬撃が夜闇を裂いた。


 シュパァン!


 武麗の放つ剣は、物理的な肉体だけでなく、精神体である霊すらも確実に断ち切る。悪鬼の腕が光の粒子となって消し飛んだ。


ギャァアアアア!


 地縛霊は苦悶の悲鳴を上げながら、全方位に呪いの波動を放つ。しかし、武麗はさらに深く踏み込み、二振り目の『大和国住国宗』をも抜き放った。


「これで終わりよ!」


 十文字に交差した閃光が、悪鬼の胴体を真っ二つに両断する。


 断末魔の悲鳴が駅全体に響き渡った直後、悪鬼を構成していた怨念の霧が、霧散していく。


 光のなかに現れたのは、かつてここで命を落とした哀れな霊たちの姿だった。彼らは正気を取り戻し、武麗に向かって深く一礼すると、次々と天へ召されていった。


 刀を美しい動作で鞘に収め、武麗は小さくため息をつく。


「ふうっ。もう手間取らせないでよ……」


◇◆◇


 自宅に戻った武麗は、お気に入りのピンク色のシーツのベッドへ倒れ込んだ。


 戦いの高揚感が去り、急激な睡魔が襲ってくる。


「……眠い……」


 眼鏡を外し、長い黒髪をベッドに広げながら、彼女は泥のようにひと眠りするのであった。


◇◆◇


 翌朝。

 燦々と太陽の光が降り注ぐオフィスにて。


 デスクワークに励む武麗は、いつも通りのクールな面持ちで、通りかかった部下を呼び止めた。


「佐藤。コーヒー」


 昨日あれほど冷たくされた佐藤くんは、名前を呼ばれただけで顔を輝かせた。


「はいっ、ただいま! 喜んで!」


 スタスタと給湯室へ走っていく部下を見送りながら、武麗は小さく微笑む。


 今日も日本は平和である。


主人公設定はカイラ様です。Xアカウント @DN2MmWAaYX94326

設定をお借りしました。

ありがとうございました。

舞台を現代のローファンタジーにして、ストーリーを執筆したのが塩野さちです。

本作は『お題で小説を書くスペース』で生まれました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
佐藤くん!w 楽しく読ませていただきました(^^)
少ししかない設定で書いていただき、ありがとうございました!
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