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少女が求める剣術はあるか?(プロローグ)

「頼もー!!」

「な、なんだ!?」

「道場破りに参った!」

 道場の引き戸を勢いを付けて開かれると同時に放たれた言葉、それを聞いた道場にいた人間達は一瞬唖然としながらも、入り口に立っているその人影の風貌を見て一部の人間達はその人物を見てから、クスリと笑ってしまう者達もいて道場破りに来た人物はそれに怒りを覚えるでもなく、冷静な態度を見せて近くの人間に視線を滑らせて一言呟く。

「ここの道場は意気地無しの門下生に支えられておりますな?」

「……なんだと?」

「自分の来訪を笑うしか出来ないのは、意気地無しの根性がさせているだろうということではありませんか?」

「ガキの遠吠えに取り合うのは馬鹿の一つ覚えだと言うことだ」

 近くの人間が、それを言っているだけで道場破りの人間はその頭頂部から艶やかな黒い髪の毛を結んで、腰まであるその髪をゆらめかせて壁に掛けてある木刀を手に取り近くの男性に素早い動きで一閃して意識を奪うだけの衝撃を与える。

 それに他の人間達は一気に頭へ血を上らせて道場破りの人物に大勢で襲い掛かって行くが、それを待ち侘びていた人物は黒い髪を優雅に靡かせて襲い掛かってくる人間達を片っ端から木刀で、一人、また一人と殴り倒していく。全員がそれ相当の腕前を持っているとの自負を背負っているが、道場破りの人物、一見髪の長い人物の実力の方が彼らを上回っていたのである。

 ある程度の人間達が挑んで床の常連になっているのを見た残りの者達は、慎重を重ね警戒を強めて人物を観察していく。そして、人物が並大抵の実力者ではない……と判断をしてから更に警戒を強めていった。

 実際のところを言えば、人物と人間達の実力差は酷い言いようだが子供が束になって大人に挑んでいる様な状態でもあった。そして、人物はそれを当たり前のように降り掛かる火の粉を払うように薙ぎ払っている。それを自慢そうにしている訳ではなく、さも当たり前の様に立ち回っているのが憎たらしい。

「なんだって言うんだこのガキ……本当にガキか!?」

「どっかの剣術の出だろうよ。慌てんな、これでも俺達は誇り高き幕府お抱えの「新選組」の隊士なんだ。このガキ一人に遅れを取るような真似は許されねぇ!」

「その「新選組」の隊士さん達なら自分の求める剣術を一人は覚えているのではないか? そう思って道場破りさせてもらっています」

 人物は至極当たり前のように答えているが、あの「新選組」の道場を破りに来るのは極めて異例中の異例だと言っても過言ではないだろう。今や時の政を司っている帝の権利下の元で「新選組」は幕府と呼ばれている政府のお抱えとしては日の丸中では知らない者は赤子だけではないだろうか? と認知度を誇っているほどである。

 隊士達は人物が見た目に似合わずな実力者だとちゃんと考え直して、木刀から真剣に取り替えようとする者達も動きが確認出来るようになっていた。だが、人物はそれを見ても慌てることもしないで、冷静沈着で隊士達の動きを観察し分析するのである。

「本当に皆様はこの日の丸を背負って守ろうとする方々として相応しいのか? それを確認もしたいところではございますが」

「減らず口を言ってくれる……! 幹部に知られる前に決着をつけるぞ!」

 一人の青年が真剣を構えて、人物に立ち会うが真剣を使うと言う事は相手の命を奪う、「新選組」の十八番でもあるお家芸でもあった。だからこそ、人物が待ち侘びていたと言っても過言ではない。

 隊士の人間達には気付かれないように、口元をニヤリと笑みを刻んだ人物。真剣を構えていた青年が先手を取り上段から斜めに切り裂くようにして、真剣を振り下ろすと同時に周囲に他の隊士が取り囲んで人物の退路を絶っていた。

 一見卑怯なようにも見える方法だが、これが今の「新選組」として使用出来る対等の布陣でもあるのだと、人物は事前に集め聞いていた情報を整理しながら考える。さて、と人物が手にしているのは木刀、それも何処にでもあるような一般的な木刀であるのは握り締めている人物本人が一番に理解してはいる。

 その木刀だけで真剣である隊士達の相手をしなくてはならない。それが逆に人物の闘志に火を灯す。真剣だとしても簡単に木刀を切り落とす事は不可能であるのを踏まえた上で、木刀だけで隊士達を床に伏せさせていく。

「相手は木刀だぞ!? どうして真剣の我々が勝てないのだ!!」

「切り捨ててしまえ! 道場破りの小僧に慈悲をくれてやるな!」

「……クスッ」

 人物は手当たり次第に切り込んでくる真剣を木刀一本で凌ぎ、捌いて、そして、反撃をしていく。それを為せているのがしなやかな四肢を動かし、適切な力を入れる場面を上手く使いこなす事で真剣相手に怯むこともなく、隊士達を沈めていくのは本当に手練の剣士だと言う事が分かる。

 だが、不適な微笑みを浮かべているのは自分の状況がこんなにも追い詰められているからであって、そうでなれば笑みを浮かべている余裕すらも人物にはないと言えるのだが。だが、それを表に出さないのは出せないだけの理由がある。

 木刀も限界を迎えつつある……あと数回の切り込みを受ければ間違いなく一刀両断の状態で使えなくなる事は間違いない。視線を壁に滑らせて新しい木刀を確認すると力自慢をする男隊士が真剣を振り下ろす。

 それを受け止めた木刀の中心部分に刀の刃が斬り込まれて、動けなくなったが木刀も使えない状態ではある。新しい木刀に目星を付けて力で木刀を切り落とそうとする男隊士から木刀ごと押し返して距離を生ませたと同時に、人物は素早い足で壁に掛かった木刀を……二振り手に取り両手に握り締めて両刀として扱い始める。

「両刀だと!? なんでもありじゃねぇか!!」

「気にするな! ここの木刀には限りがある! 全部使わせる前に仕留める!!」

「……果たして、皆様に自分を止めれるだけの実力がありますか?」

 人物は今までは防戦一方で状況を見極めていたが、ここに来て攻撃に出ると言う雰囲気を出し始める。手始めに真剣を型もなくただ、刀身を下げて構えている隊士の男の懐へと素早い滑り込みで入り込むと、木刀で下から顎を目掛けて切り上げるように木刀を突き上げる。

 隊士の男は素早く懐に入り込まれて人物からの攻撃に対して、まともな対応を取る事は出来なかった。顎目掛けて繰り出された攻撃に間違いなく強い衝撃と攻撃力はあったと言えるだろう。

「がっ……!」

「なっ!?」

「まずは……一人」

 人物の少し高めの声に興奮しているのが伺い知れる。そして、そこからは見る者全ての人間達を圧巻とさせていく光景が広がっていく。

 人物は真剣を今度は受け止めるのではなく、身体ごと避ける回避の方法で攻撃を受け流し、それを行った後に攻撃を繰り出す。懐に入り込んで突きを繰り出して行動不能にしたり、それとはまた別の攻撃としては肋骨を折る勢いで胴に思い切り木刀を振り抜いて見たりと多種多様な攻撃方法を鮮やかに繰り出していく。

 そして、道場のあちらこちらには隊士達のうずくまる姿が見られ、今段階で攻撃を受けていないのは隊士の八名が残っている状態。だが、この八名の隊士達は平隊士の中でも幹部の「新選組」面々からの信頼を得ている実力者達。

 人物の一つ一つの動きをしっかり確認していた八名中六名が残りの二名に人物の手の内、それを明かして見せるから後の勝負を頼む、と暗黙の雰囲気で伝え合って六名が人物を取り囲んだ。「新選組」十八番の囲い戦法を体現する。

「我々は今までの隊士よりも少し苦戦するかも知れないがよろしいか」

「俺達にも「新選組」と言う名を背負う覚悟と責任がある。道場破りの貴殿におめおめと負けたとあれば切腹しなくてはならないのでな」

「なるほど、士道に背かずって言う噂は間違いではなかったようだ。いいでしょう……あなた達を打ち負かして自分が求めている剣術を調べさせてもらいます」

 人物が、木刀を逆手に持ち直すと隊士達に緊張が走る。今までの人物からは感じられない程の「殺気」と「威圧感」が今まさに隊士達を襲っていた。

 隊士達は慎重に、かつ大胆に距離を詰めていきながら攻撃の機会を見極めていこうとする。だが、人物は瞳を伏せている、それがどう捉えようとも精神統一をしている事は明らかである事を知らせている。

 隊士達は一人ずつ人物に挑んでいく、だが、誰も彼もが……返り討ちにあって手の内を明かす事はほぼほぼ不可能だと残された二名の隊士達も気付いてしまっている。どうすれば人物を止める事が出来る? どうすれば、この道場破りを終わらせる事が出来る? 答えは分かっているのにそれを実行に移す事も出来ない。

「我々は、未曾有の獣を相手にしている……と言った限りか」

「それでも、我々はやらねばならん。倒れて行った仲間の為にも負けられん」

「最後はお二人ですか?」

 スッと木刀を向けてくる人物、その瞳には狂気のような、殺意が滲み、それでいながら獰猛な獣を連想させる色が、感情が入り乱れているのを二人の隊士は見て気付いていた。だが、それは目の前にいる人物だけに注がれた集中力が成し得た気付き。

 道場の庭先から伸びる通路から三人の男性が覗き見している事は隊士の二人は気付いていない。隊士達は覚悟を決めて真剣を構える。

 互いの呼吸が一致する瞬間、三人は床を踏み込んで距離感を縮め間合いを詰め込んだ。人物から見て左側の隊士は横払いの構えを見せているが、人物の左手に握り締められている木刀がその刃を受け止める。

 右側の隊士は上段からの切り込みの構えを見せて、人物は右手の木刀を水平にして頭上に構えて受け止めると攻撃を二人分受け止めた。大の大人でもある隊士の男性が繰り出した攻撃を、少年の身体付きをしている人物が難なくも受け止めている事が隊士の二人に驚きと悔しさを生み出させていた。

「本当に君は人間か……?」

「こんなに全力を出しているのに。君は動じない……何者なんだ!」

「我が流派をご存知ない、か……残念です」

 隊士の二人を押し返して木刀を繰り出す人物の動きに対応を取ろうとするが、二人が動きを見せる前に人物の方が一枚動きを見せた。二人の隊士は鳩尾に木刀を受けてその場に蹲って真剣を落としてしまう。

 勝負はあった、人物はスッと背を向けて出ていこうとする。隊士達は口を開く事も出来ないままで見送る事になるかと思われた。

「待ちたまえ」

「き、局長!?」

「……」

 声が掛かったのと同時に、虚な瞳をしていた人物が背後から聞こえてくる声に振り向く。そこには体格のいい身体を持った男、「新選組」局長である近藤勇が両脇に二人の男性を従えて道場に入ってきた。

 人物は力を失いつつある瞳で近藤を見つめるが、近藤は人物に怒りを見せるでもなくただ一言告げる。その観察眼に人物は瞳に力を取り戻していくが。

「男装しているが中身はうら若き女子(おなご)だろう? この隊士達全員に引けを取らないのは素晴らしい」

「女!?」

 近藤の言葉に隊士達は言葉を無くす。自分達は女相手にこの様だと言う事が受け入れれないのである。

 だが、人物は近藤に振り向くと一礼して無礼を詫びた。礼節を持っているのは剣術を嗜んでいる人間でも稀にいる器の出来た人間である。

「君、彼と一戦試さないか?」

「……自分のような小娘にもったいないのでは?」

「君の剣術は彼の知る剣術に近い。君も知りたいだろうからね」

「俺ならばお前の知りたい事に答えてやれると思うが?」

  近藤の右側に立っていた男性が一歩前に出て人物、少女と対峙する。ここに今、強さを知る事となるのであった。

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