焦る影・前編
森の奥、山の上にそびえ立つ建つ城のような建物、それが魔術協会の本部だ。
夜更けということもあり、周囲はひどく静まり返っていた。
「はぁー。一日探し回って進展なしとか…どうしたらいいんだぁー?!」
チリヌルは魔術協会の代表がいる扉の前で、その扉を開けるか開けないか、かれこれ数分迷っている。
「いやしかし、報告はちゃんとしねーとな。」
覚悟を決め、静かに扉へ手をかける。
―
キィー―
「四天王チリヌル…ただいま戻りました。」
部屋の奥、ブックライトの淡い光の下で、魔術協会代表・タナトスが分厚い本を読んでいた。
「……首尾はどうだ?」
目線を上げることなく、低い声だけが帰ってくる。
「……ルミナス学園から、例の子供の家までの道のりを捜索しましたが...見つけられず…」
タナトスは本から目を逸らさず、チリヌルに続きを促す。
「…近くの衛兵にも聞き回りましたが……特徴と合う子供は見てないと……」
「……そうか。」
ゆっくりと本を閉じ、タナトスは初めて目線を上げた。
「それで。これからどうするつもりだ?」
「もう夜更けですので…その…捜索は切り上げて…」
「ーー戯け者が!」
「うぬは、禁術の重要性を理解してないのか?!」
持っていた本を勢いよく閉じ、机に叩きつける。
「勿論…存じてます…しかし…この時間に子供が出歩くとは思えず…」
「言い訳は要らん!」
机越しに睨みつける
「なんとしてでも見つけ出せ!それが、お前の役目だ!」
――
バタンっ―
「けっ。うるっせぇじじぃだな…ほんと。」
扉を閉め、しばらく歩いたところで吐き捨てるように呟く。
「しかしなぁー…」
禁術使いの捕獲。
失敗すれば、四天王の座を剥奪される――
そんな噂もある。
(ようやく掴んだこの立場、そう簡単に手放してたまるか。)
「あれぇー、チリヌルさん、もう戻ってたの?」
「お?イロハ…と、ポペットさんか。」
背後から声が聞こえ、振り向くとそこには、
狐の耳を生やした少女と、身長が二メートルを超え、鋼鉄の鎧に身を包む巨漢の男。
「ぷふっ!その様子だと、まだ見つけてないんだ!」
手で口元を押さえ、イタズラっぽく笑うイロハ。
「しょうがねーだろ?!学園にいねぇーんだから…」
「チリヌルよ。禁術使いは危険だ。くれぐれも用心しろ。」
低い声で忠告するポペット。
「ご忠告あざます。なんですが…手がかりが一個もない状態で…」
「どこ行こうとしてたのぉー?」
「資料室でちょっとな…」
(禁術事件の資料や…子供が行きそうな場所とか…)
「それより、ニヲのやつはどうした?あいつ、わけぇのに物知りだから、色々聞きたかったんだが…」
「お昼くらいまで一緒に非番だったんだけど…」
珍しく言葉に詰まるイロハ。
「…あれか、最近多いな。」
「チリヌル。わしでよければ手伝うぞ。」
二人の空気を察し、話題を変えるポペット。
「い、いやー。大丈夫です!俺が命じられたんで…」
(夜更けにおっさんと二人きりは…いやだ!)
「そうか…」
「じゃ、ちょっくら資料室で調べ物してきます!」
「がんばってねぇー!」
手をひらひら振るイロハを背に、チリヌルは足早に廊下を進む。
その背中には、焦燥と焦りが馴染んでいた。




