表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/9

第7話 中ボス・オーク将軍

 天界のオフィスで、俺はモニターにデコピンしたいくらいの衝動を抑えていた。


 第5層、ボスエリア。

 勇者レオ一行は、ついに最初の関門である「中ボス」の間に到達した。


 待ち受けるのは『オークジェネラル(オーク将軍)』。

 身長3メートル、全身をミスリル製の重装甲で固め、巨大な戦斧を持つ武人タイプのモンスターだ。  

 そして、この個体には初心者の「魔法攻撃」の重要性を教えるため、ある特殊スキルが付与されている。


 【Skill: Physical Nullification Barrier (Low Level)】

 効果:物理攻撃を100%無効化する。魔法または属性攻撃でのみダメージが入る。


 RPGの定番だ。

 「物理がダメなら魔法を使え」というチュートリアル。


 だが、このパーティを見てほしい。


 勇者レオ:武器は『ひのきの棒』(物理)。

 戦士グロック:武器は『自分の肉体』(物理)。

 聖女マリア:攻撃手段なし(回復専門・有料)。

 魔法使いイグニス:唯一の魔法攻撃役だが、使えるのは『自爆級の広範囲爆撃』のみ。


 詰んでいる。


「我こそはオーク将軍! 脆弱な人間どもよ、我が鉄壁の守りの前にひれ伏せ!」


 オーク将軍が朗々と名乗りを上げ、青白いバリアを展開する。


 その威圧感に、レオはニヤリと笑った。


「いい声だ。だが、俺の『ひのきの棒』が唸りを上げているぞ!」


 唸ってない。

 ただの棒だ。


 レオが突撃する。  


 カカンッ!  


 乾いた音が響く。

 ダメージ0。

 バリアに弾かれ、レオの手が痺れる。


「ぬうっ!? 硬い……! ならば連撃だ!」


 ペチペチペチペチ!


 ダメージ0、0、0、0。


「効かぬわ! 蚊ほども痛くない!」


 オーク将軍が嘲笑い、戦斧を振り上げる。


「俺が受け止めるぅうう!」


 グロックが裸で突っ込む。


 ドゴォッ!


 「あ゛っ❤」


 グロックが吹き飛び、壁にめり込む。

 マリアがすかさず「治療費800G!」と叫んで駆け寄る。


「くっ、物理攻撃が効かないのか……!」


 レオがようやく気づいた。

 遅い。


 ここでイグニスの出番だ。

 単体攻撃魔法を一発撃てば終わる。


 だが、イグニスは眼鏡をクイッと上げ(指紋がついた)、冷や汗を流していた。


「……ククク。奴の周りに展開された結界……あれは『絶対防御領域』か。俺の『終焉の爆炎』を放てば、この部屋ごと次元の彼方に消し飛ぶことになるな」


 要訳:室内で撃ったら俺たちも死ぬから撃てない。


 正しい判断だが、今はそれが致命的だ。


 手詰まりだ。

 物理は無効。

 魔法は撃てない。


 俺の『ダンジョンエディット』で地形を変えても、バリアそのものを消す権限はない(ボスの固有スキルは編集ロックがかかっている)。


「……やるしかないか」


 俺は禁断のウィンドウを開いた。


 『天界チャットツール(Connect)』。

 ダンジョンに勤務するモンスター(従業員)との連絡用ツールだ。


 To: Orc_General_005 (第5層エリア長)

 From: Admin_Deus (運営)

 Subject: 緊急相談


 『お疲れ様です、運営のデウスです。今戦ってる勇者パーティのことなんだけど』


 送信。

 画面の中で、オーク将軍が一瞬ピクリと動きを止め、虚空を見つめた(脳内インカムで受信中)。


 Reply from Orc_General:  『お疲れ様です! エリア長のオークです。この勇者たち、弱すぎませんか? バリア張ってるのに棒で殴ってきます。適当に殺していいですか?』


 To: Orc_General:  『いや、それが困るんだ。彼らを勝たせないと世界が滅びる(俺のボーナス的な意味で)。悪いけど、負けてくれないか?』


 Reply:  『ええっ!? いやですよ! こっちは武人キャラで売ってるんです! こんな棒きれ持ったホストみたいな男に負けたら、モンスター組合の笑い者ですよ!』


 抵抗された。

 当然だ。

 彼らにもプライドがある。

 だが、ここで引くわけにはいかない。


 To: Orc_General:  『頼む。今回だけだ。特別手当として「経験値ボーナス3倍(来期査定用)」と「有給休暇3日」をつける』


 Reply:  『……! 有給、マジすか? 来週の娘の運動会、行ってもいいんですか?』


 To: Orc_General:  『許可する。あと、労災も適用するから、派手に自爆してくれ』


 Reply:  『了解しました! 最高の上司っす! じゃあ、今から自然な流れで死にますね!』


 交渉成立。

 俺はモニターの前でガッツポーズをした。

 これが大人の解決法だ。


 画面の中で、オーク将軍が動き出した。

 彼は戦斧を高く掲げ、凄まじい闘気を放つ。


「うおおおお! 貴様らの粘り強さ、見事なり! 我が最強の一撃で葬ってくれるわ!」


 迫真の演技だ。

 オーク将軍が大きく踏み込む。

 その足元に、俺はこっそりと『バナナのオブジェクト』を生成した。


 ツルッ!


「ぬおっ!?」


 オーク将軍の巨体が、あまりにも綺麗に宙を舞う。

 回転。

 そして、振り上げていた巨大な戦斧が、重力に従って自分の脳天へ――。


 ズドォォォォン!!


 強烈な自打球。


 バリアは「外部からの攻撃」は防ぐが、「自分の武器」は判定内なので防げない(という仕様)。  

 クリティカルヒット。


「ぐ、ぐふっ……! み、見事だ勇者よ……! 貴様の()()()()()()、しかと受け取った……!」


 オーク将軍は血を吐きながら、サムズアップして崩れ落ちた。


 光の粒子となって消滅する彼に、俺は心の中で敬礼した。

 娘さんの運動会、楽しんでくれ。


 静寂が訪れる。

 呆気にとられるマリア、イグニス、グロック。


 だが、レオだけは違った。

 彼は「ひのきの棒」をゆっくりと振り抜き、残心(ざんしん)を決めた。


「……ふっ。気づいたか」


 レオは風になびく髪を押さえた。


「俺の剣速が速すぎて、奴が転んだようにしか見えなかっただろう? だが、俺は確かに斬った。奴の『慢心』という名の隙をな」


 違う。

 バナナだ。  


「さすがレオ! あの将軍が自害するほどのプレッシャーを与えるなんて!」


「見えなかった……これが勇者の領域か(俺の眼鏡が汚れてただけか?)」


「すげぇ! 俺も自分で自分を殴れば強くなれるのか!?」


 勘違いが連鎖し、パーティの士気は最高潮に達した。


 俺は胃薬の空瓶をゴミ箱に投げ入れた。


 物理無効のボスを「接待(談合)」で突破。

 ……もう、なんでもありだな。

 第7話、お読みいただきありがとうございます!


 禁断の「敵への直接交渉(買収)」を行いました。

 オーク将軍も中間管理職としての悲哀を知る者。

 有給休暇の魅力には勝てなかったようです。

 レオの「俺が斬った」というドヤ顔と、オーク将軍の名演技の対比をお楽しみいただけたでしょうか。


 さて、次回第8話は『迷宮の商人』です。

 ボスを倒しても、レオたちの懐事情とアイテム事情は限界です(マリアがお金を使わせないため)。

 見かねたデウスが、自ら「行商人NPC」としてアバター降臨し、格安でアイテムを配給しようと試みます。

 しかし、守銭奴マリアが黙っているはずがなく……?


 明日も更新します!

 「オーク将軍いい奴!」「労災適用おめでとう」「デウスの裏工作が板についてきた」と思っていただけたら、 ぜひブックマーク登録と、ページ下部の【☆☆☆☆☆】評価をお願いいたします!

 感想もお待ちしております!


 それでは、また明日お会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ