第6話 装備更新の失敗
天界のオフィス。
俺は手元の資料(勇者のステータス画面)を見て、頭を抱えていた。
現在、ダンジョンの攻略進度は約30%。
ここまでの戦闘(?)で、勇者レオが振るっていた武器は、村の雑貨屋で買った『ひのきの棒(攻撃力+1)』だ。
「……そろそろ限界だろ」
これまでは俺の接待プレイ(敵の弱体化や環境操作)でなんとかなってきたが、次のエリアからは敵の防御力が上がる。
木の棒ではダメージが通らない。
本来なら、ダンジョンの宝箱から装備を現地調達するはずだった。
だが、前回の宝箱は、レオが中身(胃液ポーション)を飲み干して逃げられたため、ドロップアイテムはゼロだ。
「仕方ない。ボーナス支給だ」
俺はなけなしの予算を削り、ショップウィンドウを開いた。
購入するのは『聖剣エクスカリバー(レプリカ)』。
攻撃力100。
オートエイム補正付き。
初心者でも達人の剣技が出せる、課金アイテム級の代物だ。
「これを……こうだッ!」
俺はダンジョンの通路の真ん中に、神々しい台座と共に聖剣を出現させた。
スポットライトのような光が差し込み、剣がキラキラと輝く。
誰がどう見ても「勇者様専用武器」だ。
拾わない理由がない。
画面の中で、レオたちがその場所に差し掛かった。
「む? なんだあの眩しいのは」
レオが足を止める。
よし、気づいた。
駆け寄れ。
そして抜け。
「……剣、か」
レオは台座の前まで歩み寄ると、腕組みをして剣をじろじろと眺め始めた。
「すごいわ! この輝き、装飾に使われている宝石……市場価格で3000万Gは下らないわよ!」
聖女マリアが電卓を片手に興奮する。
「レオ、早く拾いなさい! そして質屋へ!」
「待てマリア。俺の審美眼が『否』と言っている」
は?
レオはふんと鼻を鳴らし、聖剣から興味を失ったように視線を外した。
「デザインが派手すぎる。俺の美貌と喧嘩してしまうからな。それに、あんな重そうな金属塊を振り回したら、肩が凝る」
ふざけるな。
それはミスリル合金製だ。
羽のように軽いんだよ!
俺の心の叫びも虚しく、レオは聖剣の横を素通りした。
「おい、嘘だろ……?」
スルーした。
RPGで最強武器を「肩が凝りそう」という理由でスルーする勇者がどこにいる!
「あ、じゃあ俺がもらうー」
戦士グロックが手を伸ばすが、聖剣には『勇者専用ロック』がかかっている。
バチィッ!
「ああんッ! 拒絶された! 聖なる電撃……痺れるぅ!」
グロックが感電して白目を剥く。
「フッ、選ばれし者以外には牙を剥くか。扱いにくい奴め(俺の杖の方が強いがな)」
イグニスもスルー。
結局、聖剣は誰も拾わないまま、寂しく輝き続けることになった。
俺の予算が……。
その時だ。
通路の隅、ゴミ捨て場のような瓦礫の山に、レオが目を留めた。
そこには、ボロボロの布切れで作られた、不気味な人形が落ちていた。
片目がボタンで、口が裂け、怨念のような黒いオーラを放っている。
【Item: Cursed Doll (Misfortune Eater)】
【Effect: Absorbs User's Vitality & Luck】
『呪いの人形』だ。
装備すると運とHPを吸い取られ、最後には不幸な事故で死ぬという、典型的な罠アイテム。
「おお……! これだ!」
レオが目を輝かせて人形を拾い上げた。
「この哀愁漂うフォルム! 前衛的なステッチ! そして何より、手になじむ軽さ!」
「いや、それはゴミよレオ。捨てなさい」
マリアが冷静に突っ込むが、レオは聞かない。
「いや、運命を感じる。今日からこいつが俺の相棒だ。名前は……『ラッキー』にしよう」
最悪のネーミングだ。
レオはあろうことか、腰のベルトに人形を装着した。
その瞬間。
ドクンッ!
人形の目が赤く光った。
呪いの発動だ。
所有者の「運」を糧にするため、レオのパラメータにアクセスする。
俺は慌ててコンソールを叩いた。
だが、遅かった。
人形のシステムが、レオのLUK値(-999)に触れてしまったのだ。
System Alert: Integer Overflow.
Error: Negative Value Too Large.
本来、「正の運」を吸い取って「負」にするはずの人形。
しかし、供給されたのは「桁外れの負」。
ブラックホールに掃除機を突っ込むようなものだ。
「キ……キキキ……!?」
人形から、悲鳴のようなきしみ音が聞こえる。
許容量を超えた不幸エネルギーが逆流し、人形の器が耐えきれない。
バァァァンッ!!
次の瞬間、人形は内部から破裂し、粉々に砕け散った。
黒い煤のようなものだけが、レオの手の中に残る。
「ああっ!? ラッキー!?」
レオが悲痛な声を上げる。
俺は呆然とモニターを見つめた。
呪いのアイテムが、勇者の不幸性能に負けて自壊した……。
「……なんてことだ。俺の覇気に耐えきれず、身代わりになってくれたのか……」
レオは煤まみれの手を握りしめ、空を仰いだ。
「短い付き合いだったが、いい奴だった。お前の魂、この『ひのきの棒』に宿ったと思おう」
レオはそう言うと、ボロボロの木の棒を愛おしそうに撫でた。
いや、宿ってない。
ただ人形が爆発しただけだ。
そして、結局武器は「ひのきの棒」のままだ。
俺は深いため息をついた。
次のエリアは中ボス戦。
物理無効のオーク将軍だ。
攻撃力1の棒でどうやって勝つんだ。
……また俺が「八百長」を頼むしかないのか。
第6話、お読みいただきありがとうございます!
「伝説の剣」よりも「呪いの人形」を選ぶ勇者のセンス。
そして、その呪いすらも跳ね返す(というか許容量オーバーで破壊する)圧倒的な不運(マイナス値)。
レオのステータスは、ある意味で最強の防御壁なのかもしれません。
さて、次回第7話は『中ボス・オーク将軍』です。
ついに現れる第5層のボス。
「物理攻撃完全無効」のバリアを持つ強敵に対し、レオたちは物理(ひのきの棒)で挑みます。
詰み確定の状況で、デウスが取った解決策は「敵への土下座」!?
中間管理職の交渉術が火を吹きます。
明日も更新します!
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