第13話 謎解きの部屋
天界のオフィス。
俺は新しい胃薬の箱を開封しながら、モニターに表示された『Chapter 2』の文字を眺めていた。
第1章でワイバーンを倒した(事故らせた)勇者レオ一行は、第6層『封印の回廊』へと進んでいた。
ここからはダンジョンの趣向が変わる。
単なる戦闘だけでなく、知恵とひらめきが試される「ギミック解除」が必要なエリアだ。
俺が徹夜で考えた高尚な謎解き。
それを楽しんでもらうはずだった。
目の前には、巨大な石版が道を塞いでいる。
石版には古代語でこう刻まれている。
『朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足。これ、なぁに?』
スフィンクスの謎かけだ。
答えは「人間」。
「人間」と口頭で答えれば、石版がスライドして道が開く。
INT3のレオには難しいかもしれないが、今回は賢い(設定の)魔法使いイグニスや、金勘定が得意なマリアがいる。
誰かが気づくだろう。
「む。文字か」
レオが石版の前で腕組みをした。
「読めん」
即答だった。
まあ、それは想定内だ。
「マリア、読んでくれ。たぶん『歓迎』とか書いてあるはずだ」
「えー? 古代語翻訳は専門外よ。翻訳料、辞書代込みで2000Gかかるけど?」
「金はない! ではイグニス、貴様なら読めるだろう」
イグニスが眼鏡をクイッと上げる(レンズは割れている)。
彼は石版に顔を近づけ、ブツブツと呟いた。
「……読める。読めるぞ。これは古代の『闇の呪文』だ」
違う。
なぞなぞだ。
「この石版は、邪悪な封印の結界。このままでは我々は永遠にここから出られない。……ククク、俺の『魔眼』が疼くわけだ」
イグニスが杖を構えた。
「待て。何をする気だ」
俺は嫌な予感がして身を乗り出した。
まさか。
「封印ごと消し去ってやる! 深淵の彼方へ砕け散れ! 『ただの爆発』ッ!!」
やめろおおおおおッ!
俺は叫んだ。
その石版は、正解を入力するための「キーボード」兼「ドア」だ。
それを破壊したら、システムがロックされて、正規ルートの扉は二度と開かなくなる!
いわゆる「詰み」だ!
イグニスの杖から、無慈悲な爆炎が放たれる。
着弾まで0.5秒。
爆発を防ぐのは無理だ。
石版の耐久値を上げても、破壊判定が出たらシステムエラーで進行不能になる。
「なら、道を作るしかない!」
俺は石版そのものではなく、その「横の壁」にターゲットを絞った。
Target: Wall_Next_to_Slab
Material: Reinforced_Concrete -> Sugar_Cube (角砂糖)
Durability: 0.001
「壁ごと砕けろッ!」
ッターン!
ドガァァァァン!!
凄まじい爆音が響き、石版に魔法が直撃する。
石版は粉々になった。
そして、その衝撃波で、隣にあった分厚い壁が「サクサクッ」と軽快な音を立てて崩れ落ちた。
角砂糖並みの強度になった壁は、粉塵となって消え失せた。
もうもうと立ち込める煙。
それが晴れると、そこには――
石版があった場所(瓦礫の山)の横に、巨大な大穴が空いていた。
そしてその穴の向こうには、次の通路が広がっていた。
「……ほう」
レオが目を丸くする。
「見事だ、イグニス! 貴様の魔法で『隠された正解ルート』をこじ開けたか!」
違う。
壁を壊しただけだ。
「フッ……やはりな。この程度の結界、俺の魔力の前では薄紙も同然」
イグニスがドヤ顔で杖を振る。
マリアが瓦礫を漁りながら言った。
「古代遺跡の破壊……器物損壊で請求が来ないか心配だわ」
「心配するな! 力こそパワー! 暴力こそが全てを解決する鍵なのだ!」
レオが高らかに宣言し、崩れた壁の穴を通って先へ進んでいく。
俺は椅子に深く沈み込んだ。
謎解き?
知性?
そんなものはこのパーティには存在しない。
あるのは「破壊」と、それを介護する俺の「隠蔽工作」だけだ。
モニターの隅で、破壊された石版の破片が寂しく転がっていた。
俺の徹夜の結晶が……。
第13話、お読みいただきありがとうございます!
第2章の幕開けは、「なぞなぞを爆破して解決する」という脳筋プレイでした。
デウスが壁を「角砂糖」に変えなければ、彼らは永遠にあの部屋で立ち往生していたことでしょう。
さて、次回第14話は『透明床の恐怖』です。
足を踏み外せば奈落の底へ真っ逆さま。
しかし目には見えない「透明な床」の迷路。
慎重に進むべきエリアで、レオは「心の目で見れば落ちない!」と全速力でダッシュを開始します。
デウスは、走るレオの足元にリアルタイムで床を生成し続ける『神業(マリオメーカー状態)』を強いられます。
明日も更新します!
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