第12話 第1章クライマックス(ワイバーン戦)
天界のオフィス。
俺は栄養ドリンクの空き瓶で作った塔を横目に、モニターを凝視していた。
勇者レオ一行は、第1章の最終エリア『天空の回廊』に到達していた。
断崖絶壁に架かる一本の吊り橋。
その上空を旋回するのは、このエリアの主――『ワイバーン』だ。
【Boss: Sky Wyvern】
【Ability: High Altitude Flight, Fire Breath】
空からの炎ブレスによる一方的な攻撃。
RPGにおける「初見殺し」の筆頭だ。
攻略法はシンプル。
「弓や魔法で撃ち落とす」か「降りてきた隙を狙う」こと。
だが、今のパーティを見てみよう。
レオ(勇者):武器はひのきの棒。対空攻撃手段なし。
グロック(戦士):裸。対空攻撃手段なし。
マリア(聖女):計算機を叩いている。攻撃する気なし。
イグニス(魔法使い):唯一の遠距離攻撃役だが、極度の近眼。
「ククク……空を飛ぶ蜥蜴か。だが、俺の『邪眼』には太陽の黒点しか見えん」
イグニスが杖を空に向けるが、彼が狙っているのはワイバーンではなく、遥か彼方の太陽だ。
撃ったらフレアで地球が温暖化する。
「降りてこい! 俺と正々堂々、地べたで殴り合おうぞ!」
レオが棒を振り回して叫ぶが、ワイバーンは賢い。
安全圏からブレスを吐く構えを見せている。
「ああっ! 空からの熱い視線(物理)! 焼かれる! 俺の肌がカリカリベーコンになっちまう!」
グロックが涎を垂らして両手を広げる。
タンクが機能していない。
このままでは全員黒焦げだ。
「マリア! 障壁魔法を張れ!」
俺は叫んだ。
彼女ならできるはずだ。
「えー? 対空バリアはオプション料金よ? 1分につき1000G」
「払う! 俺が(アバター経由で)払うから!」
だが、間に合わない。
ワイバーンが大きく息を吸い込んだ。
ブレス発射まであと3秒。
イグニスは太陽を狙っているし、レオは石を投げようとして自分の足に落としている。
俺はキーボードに指を走らせた。
ワイバーンを直接攻撃することはできない。
だが、ワイバーンの「精神」に干渉することは可能だ。
空を飛ぶ生物にとって、最も致命的なデバフは何か?
Target: Enemy_Wyvern_Boss
Add_Trait: [Acrophobia (高所恐怖症)]
Level: MAX (Fatal)
「自分が高い所にいることを思い出せッ!」
ッターン!
その瞬間。
上空で威厳たっぷりに翼を広げていたワイバーンが、ふと下を見た。
地面まで数百メートル。
落ちたら死ぬ高さ。
「ギャッ……!?(高っ!?)」
ワイバーンの顔色が青ざめた(爬虫類だが)。
足がすくみ、翼が硬直する。
「飛んでいる」という事実そのものに恐怖したワイバーンは、空中でパニックを起こし、揚力を失った。
ヒュゥゥゥゥン……。
墜落。
回転しながら落ちてくる巨大な質量。
その落下地点にいたのは――
「うおっ!? 来るな! 俺はMだが圧死はNGだ!」
グロックだった。
ドズゥゥゥン!!
凄まじい地響きと共に、ワイバーンがグロックの上に直撃した。
「ぐべらぁっ!?」
土煙が晴れる。
そこには、白目を剥いて地面にめり込んだグロックと、その上で「怖い怖い高い怖い」とガタガタ震えてうずくまるワイバーンの姿があった。
グロックのHPバーが点滅している。
だが、彼は生きていた。
そして、震えるワイバーンの腹の感触に、何かを感じ取ったようだった。
「……重い。肺が潰れそうだ。だが……この震え……俺を求めているのか?」
グロックは血だらけの手で、自分に乗っているワイバーンを優しく抱きしめた。
「よしよし、怖かったな。俺が受け止めてやったぞ」
「キュー……(地面最高……)」
高所恐怖症になったワイバーンは、地面の安心感にすがりつき、彼に甘えるように顔を擦り付けた。
変態と爬虫類、種族を超えた奇妙な友情(依存)が成立した瞬間だった。
「……見事だ」
レオが腕組みをして頷いた。
「俺の覇気が重力すらも操り、奴を地に縛り付けたか」
違う。
高所恐怖症だ。
「素材が傷ついてないわね。生け捕りにして動物園に売りましょう」
マリアが電卓を叩く。
ワイバーンが怯えてグロックの股間に顔を埋める。
――こうして。
第1章のボス、ワイバーンは討伐された(精神的に)。
俺は深く、長く息を吐き出した。
どうにか第1章をクリアした。
だが、モニターの隅には既に第2章の文字が浮かんでいる。
俺の戦い(残業)は、まだ始まったばかりだ。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
これにて第1章『チュートリアルの絶望』が完結となります。
スライムに負けそうになり、一本道で迷い、毒沼を温泉にし、最後は空飛ぶ竜を高所恐怖症にする。
デウスの苦労と、レオたちの自由すぎる攻略(?)を楽しんでいただけたなら幸いです。
さて、明日からは新章『第2章:業務拡大と中間管理職の悲哀』がスタートします!
ダンジョンのギミックはより複雑になり、謎解き、透明床、そして「強制恋愛イベント」など、神様泣かせの理不尽なオーダーがデウスを襲います。
さらに、戦士グロックの変態性にも磨きがかかり……?
明日も更新します!
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第2章でも、胃痛と笑いのカオスな旅にお付き合いください!




