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第10話 野営の危機

 天界のオフィスは深夜営業中だ。

 俺はあくびを噛み殺しながら、モニターに映る第4層の様子を監視していた。


 ダンジョンにも「夜」は来る。

 照明用の発光苔が輝きを弱め、あたりは深い闇に包まれる。


 勇者レオ一行は、広めの空洞を見つけて「野営」の準備をしていた。


 ここまではいい。

 疲労回復は重要だ。


 だが、彼らの行動は俺の理解を超えていた。


「ふぁ……美肌温泉で温まったからか、猛烈な眠気が襲ってきたな」


 レオが豪快にあくびをする。


「よし、寝るぞ!」


「そうね。明日の稼ぎに備えて体力を温存しなきゃ」


「闇の帳が下りたか……俺も魔力を充填せねば……(寝言)」


「夢の中で……オークに殴られる夢を……(スヤァ)」


 全員、寝袋に入って即座に就寝した。

 焚き火の始末もそこそこに。


 そして、最大の問題は――


「……見張りは?」


 俺は画面に向かってツッコミを入れた。


 いない。

 ゼロだ。

 普通、交代制で見張りを立てるだろう。

 ここは魔窟だぞ。

 寝込みを襲われたら一巻の終わりだ。


 案の定、彼らの寝息に合わせて、闇の奥から複数の赤い光が浮かび上がった。

 『アサシンウルフ』の群れだ。


 音もなく獲物に忍び寄り、寝ている冒険者の喉笛を食いちぎる、極めて殺意の高いモンスター。

 その数、およそ20匹。


「グルルル……(美味そうな肉だ)」


 リーダー格の黒狼が、無防備に腹を出して寝ているレオに近づく。

 レオは「むにゃ……魔王、お前の首はもらった……」と寝言を言っているが、取られるのはお前の首だ。


 マリアは金貨袋を枕にして熟睡。

 イグニスは杖を抱き枕にしている。

 グロックは……なぜか寝袋から半身を出して、襲われるのを待っているような体勢だが、寝ている。


「まずい。全滅確定だ」


 俺はエナジードリンク(3本目)を開けた。


 起こすか? 

 いや、神託スキルで「起きろ!」と叫んでも、レオのことだ。

 「天の声が俺を呼んでいる……ムニャ」で二度寝するに決まっている。

 直接攻撃で狼を追い払う予算(神力)は、前回の「温泉改修工事」で使い果たした。


 残された手段は、敵(狼)のデータを書き換えることだけ。

 俺は狼のAIロジックにアクセスした。


 Target: Enemy_Assassin_Wolf_All  

 Attribute: ->  

 Instinct: [Kill] -> [Adore]  

 Add_Skill:, [Hand],


 「野生を捨てろ! お前たちは今日から『忠犬』だッ!」


 ッターン!


 リーダー狼が大きく口を開け、レオの喉笛に牙を突き立てようとした――その瞬間。


 ピタリ、と動きが止まった。

 狼の瞳から険しい殺気が消え、代わりにクリクリとした愛らしい光が宿る。


「クゥ~ン……(撫でて?)」


 狼は牙を収め、湿った舌でレオの顔をベロベロと舐め回し始めた。

 他の狼たちも同様だ。

 マリアの足元で丸くなり、イグニスのマントにじゃれつき、グロックの腹の上でふみふみ(マッサージ)を始める。


 殺伐とした暗殺現場が、一瞬で「子犬カフェ」のような癒やし空間に変貌した。


 ◇


 翌朝。


 チュンチュン、とダンジョンの環境音(朝の鳥)が流れる。

 レオが目を覚ました。


「ん……よく寝た。顔がやけに湿っているが、夜露か?」


 レオが起き上がると、自分の腹の上で爆睡している巨大な黒狼と目が合った。

 普通なら悲鳴を上げる場面だ。


 だが、狼はレオを見ると、尻尾をブンブンと振って「おはようございますご主人様!」とばかりに擦り寄った。


「おお?」


 レオは一瞬驚いたが、すぐにニヤリと笑った。


「なるほど。俺の『王者の覇気』は、寝ている間でさえも溢れ出ていたということか」


 違う。

 俺の改変プログラムだ。


「凶暴な魔獣さえも平伏させ、下僕に変える……罪な男だ、俺は」


 レオは狼の顎の下をワシャワシャと撫でた。

 狼は気持ちよさそうに目を細め、ゴロンと腹を見せる。

 完全に手懐けられている。


「きゃあ! 何この子たち、可愛い!」


 起きてきたマリアが、狼の毛並みを確認する。


「この毛皮……加工すればマフラーとして3000Gはいけるわね」


 狼たちが「ヒッ」と怯えてレオの後ろに隠れる。


「闇の眷属か……俺に惹かれるのも無理はない」


 イグニスが狼にポーズを決める。

 狼は「遊んでくれるの?」と尻尾を振る。


「ふふ……肉球の圧力が……悪くない……」


 グロックは狼に踏まれて満足そうだ。


 結局、アサシンウルフたちは「見送り」として、次の階層への階段までレオたちを先導し、名残惜しそうに遠吠え(ワンワン!)をして去っていった。


「さらばだ、友よ!」


 レオが手を振る。


 俺はモニターの前で脱力した。


 危機は去った。

 だが、モンスターの尊厳は失われた気がする。


 ……まあ、死ぬよりはいいか。

 第10話、お読みいただきありがとうございます!


 「見張りなしで爆睡」という勇者パーティにあるまじき失態を、 「敵を愛玩動物に変える」というデウスの力技で乗り切りました。

 アサシンウルフたちの野生は失われましたが、レオにとっては「自分のカリスマ性を証明する出来事」として記憶されたようです。


 さて、次回第11話は『ライバルパーティ登場』です。

 レオたちとは対照的な、超有能で常識的な「正統派勇者パーティ」が現れます。

 彼らが先にボスを倒してしまうと、レオの任務は失敗扱いになります。

 そこでデウスは、あろうことか「有能な勇者たち」を妨害するために、卑劣なトラップ(工事中の看板など)を仕掛け始めます。


 明日も更新します!

 「わんこ可愛かった」「マリアの視点が常に金w」「デウスの過保護が止まらない」と思っていただけたら、 ぜひブックマーク登録と、ページ下部の【☆☆☆☆☆】評価をお願いいたします!

 感想もお待ちしております!


 それでは、また明日お会いしましょう!

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