第19話:告発前夜
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夜、バックアップ拠点の一室。
モニターには完成した“確定線”の航路図と海外子会社の名前が並んでいる。
朝比奈が腕を組んだまま言った。
「これだけ揃えば、マスコミも無視できないはず」
蓮司は頷くが、口元は固い。
「……問題は、どこが放送してくれるかだな」
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光が通信回線の監視結果を映す。
《一部メディアで放送予定だった特集が、スポンサーの圧力で取り下げられました》
「やっぱり茅葺の傘下か……」
朝比奈が舌打ちする。
《報道が封じられる可能性は高いです》
「じゃあ、こっちは直接流すしかねぇな」蓮司がモニターを見据えた。
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蓮司は椅子の背にもたれ、低く吐き出す。
「……世間に届くかどうかは分からねぇ。けど、ここで止めたら全部無駄だ」
朝比奈が真っ直ぐに言い切る。
「だから押すしかない。事実はここにあるんだから」
《はい。タイミングを誤らなければ、拡散力は最大化します》
光の声が静かに支える。
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夜明け前、拠点の窓の外では海霧がゆっくりと運河を覆っていく。
光のアイコンが画面で静かに点滅する。
《準備は整いました。あとは——合図だけです》
蓮司は拳を強く握りしめ、声を絞り出す。
「……じゃあ夜明けと同時に行くぞ」
朝比奈が深く頷き、視線を前に向けた。
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港の向こう、茅葺グループ本社、会長室。
秘書が静かに報告する。
「……連中、今夜動くようです」
会長は何も言わず、ただ窓の外の朝焼けを見つめていた。
その瞳には、獲物を待つ猛禽の光が宿っていた。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・名称などとは一切関係ありません。作中に登場する病気(双極性障害など)の描写は、物語上の演出として描かれています。実際の病気については、必ず専門の医療機関にご相談ください。




