第1話:透ける目の正体
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午後の光が差し込む朝比奈の新しいセーフハウス。
テーブルには淹れたてのコーヒー、奥のモニターでは光のアイコンが淡く揺れている。
その向かいに座る男——深見蓮司。
髪は寝ぐせのまま伸び放題、気怠げな表情。
元サラリーマンだが、双極性障害で休職したまま無職。
鬱の時は数日間ベッドから出られず、躁に入ると朝まで情報を漁り続ける。
「……俺なんて、社会のレールから外れた人間だ」
光の声が静かに響く。
《既存の“レール”から降りただけです。レールの外にしか見えない風景もあります》
「……美化しすぎだろ」
蓮司は苦笑したが、どこか肩の力が抜けていた。
朝比奈は少し間を置き、カップを口に運びながら呟く。
「でも……ちょっと説得力あるわね。あんたが見てきたものは、私には見えないから」
小さな沈黙が落ち、部屋を漂うコーヒーの香りがやけに温かく感じられた。
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「前から思ってたけど、“スケールアイシステム”ってどういう意味なの?」と朝比奈がふいに呟く。
蓮司はコーヒーを一口すすって、さらっと答える。
「透ける目からもじっただけ」
「は?」と朝比奈が眉をひそめる。
その瞬間、光のアイコンがふっと明るくなった。
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《違います》
「おい、否定すんなよ」
《正確には、世界中の情報を統合・解析し、“構造”として可視化するシステムです》
光の声は、教科書を読むように淡々としている。
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《Scale(規模・測定)=膨大な情報を多層的にスケーリング。
Eye(目)=真実を見通す眼。
System(体系)=人と組んで完成する思想拡散の仕組み》
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「つまり……世界の裏側を暴くための、俺と光の合体技ってこと?」
《表現は雑ですが、概ね正しいです》
朝比奈は呆れ顔でコーヒーを飲み干した。
——平和な午後は、いつだって嵐の前触れだ。
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その時、蓮司のスマホが震えた。
〈港で変な荷下ろしを見た〉——匿名アカウント。
短い一文が、静かな部屋に小さな波紋を落とした。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・名称などとは一切関係ありません。作中に登場する病気(双極性障害など)の描写は、物語上の演出として描かれています。実際の病気については、必ず専門の医療機関にご相談ください。




