第18話:揺れる巨影
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重厚な木製の扉が静かに閉じられる。
都心の高層ビル最上階——茅葺グループ本社、会長室。
カーペットに足音を吸われながら、黒服の秘書が机に近づき、書類ファイルを恭しく差し出した。
「報告です。例の二人は取り逃がしましたが、現場でノートPCを押収。
また、クラウドデータもすべて消去済みとのことです」
茅葺弘成は視線を窓の外の霞んだ街に向けたまま、わずかに顎を引いた。
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「そうか」
それだけを呟き、机の端に置かれた慈善事業の寄付申請書にサインを走らせる。
「余計な波は立てるな。港は予定通り稼働させろ」
秘書は短く頷き、背筋を伸ばして部屋を出て行く。
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その頃、朝比奈のバックアップ拠点。
窓の外では、港から吹く潮風がカーテンを揺らしていた。
モニターには港湾のライブ映像が映り、黒いワゴンが路地を巡回している様子が確認できる。
「まだ探してるわね」
朝比奈が低く呟く。
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蓮司は椅子にもたれ、冷めたコーヒーを口に含んだ。
「ここも長くはもたねぇな」
《位置は秘匿していますが、長時間の滞在は推奨しません》と光。
「なら次は……」と朝比奈が言いかけた時、モニターの端に新しいメッセージが現れた。
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〈海外で動ける伝手がある。必要なら回す〉
送り主の名前は伏せられているが、その文面の癖は蓮司にも覚えがあった。
「……吉良か?」
朝比奈が眉をひそめる。
《信頼度は高いと判断します》と光が補足する。
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蓮司は短く息を吐き、モニターを見つめた。
「港湾直結レーンの完全版リスト……あいつなら、海外に持ち出してるかもしれねぇ」
窓の外、港の方角に低い雲が垂れ込めていた。
嵐の前の静けさのように、街は不穏な沈黙に包まれていた。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・名称などとは一切関係ありません。作中に登場する病気(双極性障害など)の描写は、物語上の演出として描かれています。実際の病気については、必ず専門の医療機関にご相談ください。




