第12話:海外に伸びる線
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夜、セーフハウスのモニターに光が映すのは、世界地図に走る複数の赤い線。
港から延びた航路が海外の港に接続し、そのいくつかは失踪事件多発地域と重なっていた。
《今回のさとり同盟経由で得られた情報は断片的ですが、いくつか有力な航路が判明しました》
蓮司は腕を組み、低く唸った。
「完全版の利用者リストはまだ遠いってわけか…」
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《はい。ただ、航路の断片だけでも構造の輪郭は浮かび上がります》
光が地図を拡大し、赤い線の終着点をハイライトする。
《特にこの国。到着後すぐに茅葺グループ海外子会社の倉庫へ搬入されます》
朝比奈が眉をひそめる。
「3年前から失踪が急増してる場所…しかも被害者は外国籍だけじゃない」
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赤い線はさらに拡大され、日本の港から海外の港、そして郊外の巨大倉庫へと続いていく。
倉庫の敷地は高いフェンスと監視塔に囲まれ、外部からの出入りはほぼ不可能。
《倉庫の所有者は、茅葺の100%子会社です》
蓮司は息を飲む。
「国内だけじゃなく、海外にも同じ構造があるってことか」
《もしこれが事実なら、茅葺グループは国内の問題じゃなく、国際的犯罪組織です》
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茅葺グループ——海運、建設、不動産、保険、食品流通までを網羅する巨大複合企業。
その港湾事業部は全体の売上の三割を占め、国内外の港を押さえる“要石”だった。
表の顔は国を支える物流網。だが裏では、その規模と影響力が失踪者ネットワークを覆い隠す盾になっていた。
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朝比奈は画面を睨みながら呟く。
「まだ“人”が運ばれてる確証はない。でも…可能性は高い」
蓮司はしばらく沈黙した後、口を開く。
「……完全版リストがあれば、物も人も一気に可視化できる」
《そのためには、国内外問わず内部からの協力者が必要です》
朝比奈は視線を落とし、短く息を吐いた。
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港の奥、ライブ映像に小さく船影が映る。
波に揺れながら、ゆっくりと外洋へ消えていくその船は、
次の寄港地がどこかも、何を運んでいるのかもわからない。
だが蓮司の目には、次の一手の輪郭が、闇の向こうで確かに浮かび始めていた——。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・名称などとは一切関係ありません。作中に登場する病気(双極性障害など)の描写は、物語上の演出として描かれています。実際の病気については、必ず専門の医療機関にご相談ください。




