表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/24

プロローグ:港に沈む名前

1/6

⸻1ヶ月前

横浜港の夜は、昼よりもざわめいている。

作業灯が照らす埠頭では、巨大なコンテナがクレーンで運ばれ、フォークリフトの警笛が響く。

朝比奈藍は黒のパンツスーツの上に防寒用の黒コートを羽織り、港湾労働者の出入りを監視していた。

ヒール込みで170cm近い視線から、作業員たちの顔を一人ひとり記憶に刻む。

2/6

タブレットに表示されたリストには、薄く赤字でマークされた名前が並んでいる。

——そのうち三人は、失踪届が出されていた。

どれも「事件性なし」で処理され、新聞の片隅にすら載らなかった名前だ。

だが朝比奈は知っている。全員が、ある企業系列の施設や土地と奇妙に縁があったことを。

その名は茅葺。

目立たぬ場所で命を切り捨て、痕跡ごと覆い隠す。

彼らに関わる者の名が消えるたび、胸の奥に冷たい石が積み重なっていく。

3/6

《再確認。港湾直結ルートの一部が、峯島中央卸売の専用レーンと重なっています》

イヤホン越しに共振制御演算型AI・光の声。

「やっぱり…繋がってる」

朝比奈は手袋越しにタブレットを操作し、GPSの点と倉庫番号を重ねる。

港の奥、立ち入り制限区域の一角——そこが全ての始まりであり、終わりだ。

4/6

《朝比奈藍。あなた一人で潜り続けるのは非効率です》

「仲間を入れたら、余計な漏れが出る」

《では、信頼できる“外部”はどうですか》

「……まさか、その外部って」

《はい。あなたがまだ会ったことのない人物です》

朝比奈はわずかに笑みを浮かべた。

「深見蓮司、ね」

5/6

公安の公式任務ではない。

これは自分の“私戦”だ。

幼なじみが失踪した日から、私はずっとこの線を追ってきた。

港湾労働者、被害者家族、下請け業者——夜の海風に吹かれながら、繋いだ証言は地図上で一本の線になりつつある。

その線の先に、必ず茅葺がいる。

消された名前を一つ残らず拾い直し、彼らを覆う仮面を剥ぐ。

6/6

「……内部からじゃ壊せない」

自分に言い聞かせるように呟き、朝比奈は港を後にした。

憎しみが胸の奥で燻り続ける。

あの名を消さない限り、私は眠れない。

向かうのは、まだ会ったことのない男の元。

“見えない線”を可視化する男——深見蓮司。

※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・名称などとは一切関係ありません。作中に登場する病気(双極性障害など)の描写は、物語上の演出として描かれています。実際の病気については、必ず専門の医療機関にご相談ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ