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精神セカヰ

彼女が目覚めたのは、花のない庭園だった。

そこには季節も時間も存在せず、ただ風の音と、自分の足音だけが響いていた。

花壇には土しかない。噴水は水を失い、決して雨は降らない。

こんな場所でも彼女、リーラーはこの世界をどこか懐かしいと感じていた。

「また、ここなのね」

何度目かわからない再来。

リーラーは外の世界では眠ったままだ。

けれどこの精神世界、彼女が無意識に構築したここだけは、彼女の魂が目覚めていられる。そんな場所だった。

そんな庭園の中央に、ただひとりの誰かがいる。

「……また会えた」

その少年は、今日も目を閉じて立っていた。

名前も知らない。けれど彼に会うたび、彼女の心はざわめく。

彼は喋らない。触れられない。

近づこうとすれば、透明な壁がそれを遮る。

けれど、リーラーは諦めない。

彼に会うたび、心の奥から言葉にならない感覚が湧き上がってくる。

「あなたは……誰?ねえ私あなたを……」

胸に溢れるこの痛みを彼女はまだ「恋」と呼べない。

けれど、彼に会うためだけにこの庭に来ていることだけは確かだった。

彼は微笑まない。けれど、そこにいる。

目を閉じたまま、まるで誰かを待ち続けているように。

彼女は知っていた。

この庭園にある扉の向こう側に進めた時、何かが変わる気がする。

でもその扉は開かない。鍵がないから。

そして今日、初めて

「ねえ、名前を教えて」

彼が、ゆっくりと目を開いて言葉を発した。

声は聞こえなかったが応えてくれたということが何より嬉しかった。

「……やっと、応えてくれたね」

その声は確かに、彼女の心に刻まれた大切な一言だった。


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