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最後に君と

作者: 猫蓮

 始まりは一通の通知からだった。

 メッセージアプリの通知が来るなんて久しくなかったから、つい軽い気持ちで開いた。


『みんな久しぶり!

 10年ぶりに集まりたいねって話してたので同窓会開きます!!

 ぜひ参加してね!!!』


 内容はなんて事ない同窓会の連絡。三年二組のグループチャットの画像だった。そう、画像が送られてきた。


「なにこれ?」


 それが三日前のことだった。三日も未読スルーをかましたのに返信が秒で来てビビった。


 すると今度は同窓会の詳細が書かれた部分の画像と『参加する?』の短文が送られてきた。


 二枚目の画像には日時や場所が書かれていた。読み進めていくとようやく意図が理解できた。


『グループに入ってない人の連絡先を知ってる人はその人にも聞いて欲しい。なるべく全員参加が良いからお願い!』


 どうやらこのお節介なクラスメイトはわざわざお知らせをしてくれたようだ。余計なお世話だったけど。


「しない」


 すぐに了解のスタンプが送られて会話終了。淡白なやり取りに少しホッとした。

 理由を聞かれても説得されても面倒だから。それで心は揺らがないし、どれだけ考えても行く気はない。もしかすると断るのが分かっていたのかもしれない。形式上でも連絡してくれたこのクラスメイトは優しい性格なのだろう。もう顔も名前も忘れてしまったけど。


 画面を閉じようとした時、新しい文が送られてきた。


『神々くんの連絡先って知ってる?』


 ピンポイントできたものだから驚いた。十にも満たない少ない友達覧の中で、高三のクラスメイトは二人だけ。今しがた連絡をしていた『U』と名指しされた『神々』だった。


「うん待って」


 返信してから画面を切り替える。彼とも繋がって()いる状態だ。最後の会話は卒業おめでとうだった。

 どう切り出そうか考えること三秒。


「暇?」


 送ってから間違えたかなと首を傾げる。するとすぐに既読がついた。どうやら暇だったらしい。


 ちなみに今の時間は夜の八時過ぎだ。定時通りの会社員なら仕事が終わって諸々やってゆっくりしている頃合いだ。それならまあ、スマホを見ていてもおかしくないか。


 それにしても、みんな勤勉だなと思う。報連相をしっかり身につけていらっしゃる。どこかの誰かさんは気付いててもまあいいかと少し放置していたからね。


『今から死ぬところ』


 返信が来てさあ困った。これをどう返そうか。


 嘘か本気か分からない。冗談を言うような性格ではなかったはずだ。十年も前のことだから覚えてないけど。


「最後の思い出に同窓会に参加しない?」


 当たり障りのない返しを目指した。結果がこれ。やっぱり文字は面倒臭い。だけど電話するのも嫌だった。

 まあでも、聞きたいのは参加の可否だけだ。後は知らない。


 少し時間を置いて『する』と返ってきた。それを見て思わず吹き出した。するんだ。


 まあ事の真相は興味無いし、特別に仲がいい訳でもないし、どうでもいいけど。

 『U』に結果の報告と『神々』に詳細の画像を転送して、今度こそ画面を閉じた。久しぶりのことだからか疲れた。慣れないことはするもんじゃないね。


 気持ちを切り替えてマップを開き、車を走らせた。


 軽い気持ちだった。全てこの時で終わったことだと思っていた。いや、少なくとも個人的には終わっていた。


「久しぶりだね、夜奈さん」


 だから、こんな展開になるとは思っていなかった。いったい誰が想像出来ただろうか。てか、そもそもお前誰だよ。


「誰って顔をしているね。酷いなぁ。誘った本人は参加しないってどういうこと?」


 くすくすと笑いながら雑談みたいな空気感で話し掛けてくる。人違いじゃないだろうか。でも目の前の男はしっかりとこちらを見ていて、呼んだ名前もちゃんと合っている。後ろに誰も居ないのは既に確認したし。


「神々周だよ。どう? 思い出してくれた?」


 みわあまね? みわ……あまね……。知らない名前だ。

 もう行っていいかな。いいよね。ここ店の前なんだけど。晩御飯……お腹空いた……。


「知らないです」


「神様って呼んでくれてたのに?」


 知らない知らない! もういいかな!? お腹空いてんだよこっちは!

 無視して男の横を通り過ぎる。


「乙女ちゃんって呼ぶよ?」


 真横を通ったタイミングで言われた呼び名に勢いよく振り返った。


「やめて」


 その呼び方嫌い。マジで嫌。

 目が合って、男がニコって笑う。……あ、思い出した。


「神……」


 存在を認知された彼はそれはそれは嬉しそうに幸せそうな顔して笑った。



「よく場所が分かったね」


 食べてる合間に話を切り出す。

 現在、相席ナウ。一緒に晩御飯を食べている。


「ん? 知りたい?」


 ニッコニコの笑顔で言われた。機嫌がいいのかずっと笑ってる。そんなに嬉しいのか。ここのご飯美味しいもんね。分かる。


「うん」


 そりゃ気になる。だってここは地元じゃない。かと言って有名な観光地でもない。それに、この店だってさっき決めたのであって、元々予定していたわけじゃない。予定していても誰かに言うことはないけど。

 だから、偶然でもなんでもありえないのだ。


「変わらないね……。夜奈さんの居場所は位置情報共有アプリで見ただけだよ」


「はあ?」


 顔をしかめる。そんなアプリ入れてないし、なんで神と共有してるのかも謎なんだけど。


 神とは高校三年生の時にクラスが同じだっただけのクラスメイトだ。恋人でもなければ友達でもない。たまに挨拶して、もっとたまに少し会話したぐらい。当時で言えば、会話するだけ仲がいい部類ではあったけど、一般的にはただのクラスメイトだ。


「夜奈さん一回さ、俺にスマホ貸してくれた時あったでしょ? その時に入れちゃった」


 当然ながら覚えてない。記憶にございません。だって十年も前のことだし。

 てか仮に貸したとしても勝手に入れるか? 普通? ないだろ。たいして仲も良くない奴の居場所なんか知ってどうすんだよ。


「あっそ。ご馳走様。先に帰るね――……何?」


 ちょうど食べ終わったし席を立つ。そしたら手を掴まれた。あっ、笑顔が崩れてる。焦ってる?


「ちょっと待ってよ。やった俺が言えることじゃないけど……いいの?」


 あぁ、怒って欲しいのか。ヤダよ面倒臭い。

 そりゃ吃驚したけど、今まで実害はなかったし、なんなら十年経って今更だし。お腹いっぱいだし聞きたいことも聞いたし、もうここにいる用はないよ。


「夜奈さんほんと……っ」


 なんか笑ってる。どうした突然。思い出し笑いか? それはキモイぞ。やめた方がいい。


「ねえ、この後時間あるよね。もう少しだけ俺に付き合って」


 断言された。なんで勝手に決められないといけないんだ。予定はないけども!


「嫌」


 手を引っこ抜こうと力を入れる。神も力で押さえつける。離してくれない。


「ここの食事代持つからさ」


「いらない」


「夜奈さんお願い」


「無理」


「……乙女ちゃん!」


「殴られたい?」


 わざとだ。絶対わざとだ。性格悪いな。元からか。覚えてないけど。


「お金あげるから」


「いらない」


 ホントにしつこい。なに? なんなの? 何がしたいの?


「この近くに光るクラゲのオブジェがある夜景のキレイな場所を知ってるんだけど……」


「どこ」


 何それめちゃくちゃ気になる。面白そう。場所を教えて欲しい。行きたい見たい。


「一緒に行こ?」


「場所を教えて」


「一緒じゃないとダメ」


「ば……」


「一緒」


「……はい」


 勢いに負けたんじゃない。折れてあげたの。だって絶対折れない気がした。押し問答も面倒臭いし、戦略的撤退だよ。


 会計別にしようとしたらまとめて払われた。金の貸し借りは嫌だって言ってももらってくれない。挙句に運転するって。それ私の車なんだけど。もし事故ったらどうしてくれんの? 暗くて危ないからって別に運転して来たし。


 神ってこんなに押し強かったっけ?

 ……ダメだ。ぜんっぜん覚えてないや。高三なんて一番記憶にないからな。ちょっとした黒歴史だし。酷かったからな〜。


 結局お金は渡せず、運転してもらった。こっちはモヤモヤして落ち着かないのに、向こうは上機嫌で鼻歌まで歌っている。解せぬ。

 ただ、着いた場所は最高だった。夜景はキレイだしクラゲは光ってるし。面白い場所だった。


「夜奈さん。俺ね、夜奈さんから連絡来た時、すっごく嬉しかったんだ」


 写真を撮ってぶらぶらほっつき歩いた後、神が一人語り始めました。これ聞かないといけないヤツ? 夜も遅いし眠くなってきた。とっとと寝床探して寝たい。


「あの日あの時、自殺する直前だったんだ。タイミングがすごくて驚いたよ」


 ………………あぁ、そんなこと言ってたな。どうやら本気だったらしい。てかなにこれ。なんの報告だろう? いったい何を聞かされてるんだまったく。


「ずっと前から、高三の時から夜奈さんが好きです。俺と結婚してください」


「……は?」


 突然告られました意味わからん。しかもお付き合いを飛ばして結婚。もっと意味わからん。


「断られたら死にます。ここから飛び降ります」


 ついでに脅されてます。ホントに意味わからん。

 だけど神は手すりに寄り掛かってる。あのまま上体を傾ければ即落ちだろう。ここまで結構な坂だったから、高さはままあるはずだ。覚悟もありそうだ。


 ため息をつく。多分、げんなりした顔になってると思う。


「自殺の理由に使わないでくれる? 死にたいなら勝手に死ねば」


 自分の命だもん。勝手にすればいい。

 とにかく私を巻き込まないで欲しい。切実に。


「あぁ、それとも心中して欲しいの? それなら他を当たって。私は……」


「自殺じゃなくて事故死がいい。でしょ?」


「うん」


 あれ? この話は神にはしてない。なのになんで知ってるんだ?

 だって明確にそう思ったのは社会人になってからだ。高校卒業以来会ってもないのになんで知ってるんだろう。


「それなら最後に俺と恋してよ。やりたいこと全部やって、俺と一緒に死のう?」


「無理」


 即答した。人を好きになったこともないのに、恋なんて無理だ。結婚なんてする気はないし、したいとも思わない。、男が欲しいと思ったこともないし、さらに言えば独りが寂しいとも思わない。


 やりたいことは現在進行形でやってるし、不便はしてない。だから神の告白はときめかないし、その後にどうなろうと知ったこっちゃない。


「夜奈さん流石だね」


「馬鹿にしてる?」


「ハハッ、まさか。もっと好きになったよ」


「馬鹿だろう」


 どこに好きと思う要素があると言うのか。全く分からない。


「じゃ、サヨナラ」


 振り返って手を振る。神は歩きだった。ここに置いて帰ったら彼に移動手段はない。割と長く居るけど誰も来ないし、ホントに穴場らしい。

 そしたらホントに自殺でもするのか。そうなったら容疑者にされそう。え、最悪じゃん。無関係なのに。ただの自殺なのに。


「夜奈さん」


 名前を呼ばれる。でも振り返らない。必要が無いから。もう振ったし、話は終わった。


「っ!?」


 急に後ろから抱きしめられたと思ったらキスされた。お腹に手を回されて密着して、頬に手を添えられて顔を固定する。


 瞬きした視界には夜景をバックに横向きの耳が見える。キスをしてると頭が理解した瞬間、神がベロを入れてきた。


 それが私のファーストキスだった。

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