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第1話【止まった風】
ざらついた土の道を、ひとりの少女が歩いていた。
黒い旅人風の服で身を包み、茶色のポーチを肩から掛け
短く切りそろえた黒髪が、小さく揺れている。
《夜空 憐花 (よぞら れんか)》。
あてのない旅を続けながら、紙飛行機を飛ばしている少女。
「……ふぅ。やっと、着いた」
見下ろした先に、小さな村が広がっていた。
田畑が整然と並び、石造りの家がまばらに建っている。
息をついたのもつかの間小さな違和感を感じる…
(風が……止まってる?)
村の風車は、羽を閉じたまま眠っていた。
水路に流れるはずの水も、干上がったまま音を立てない。
(この村……“流れ”がない)
足を進めるほどに、静寂だけが濃くなっていく。
人々は憐花に目を向けることもなく、ただ黙々と畑を耕していた。
誰も話さない。誰も、立ち止まらない。
彼女の足音だけが、かすかに空気をゆらしていた。