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連関のストラーダ  作者: やせんちゅ
第2章【風の止まった男】
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第10話【動き出した風】

スルヴァ=トーンは、

掌の中の紙飛行機を、

そっと握りしめた。

ただ、そっと。

壊さないように。

逃さないように。

ほんの少し、

心が動いただけだった。

けれど、それだけで――

世界は、

静かに、

応え始めた。

最初に、

音が戻った。

草の葉が、

微かに擦れあう音。

どこからともなく、

小さな風が、

頬を撫でた。

止まっていた空気が、

揺れた。

止まっていた空間が、

息を吹き返した。

灰色に霞んでいた領域が、

ゆっくりと、

色を取り戻していく。

まるで、

長い夢から目覚めるかのように。

スルヴァは、

自分の手を見つめた。

それは、

ただの肉体じゃなかった。

ここにあるのは、

まだ、動こうとする意志だった。

憐花れんかは、そっと一歩近づく。

碧斗あおとも、笑みを浮かべながら、それに続いた。

誰も、何も、急かさない。

ただ、

スルヴァの選んだ風を、

信じて待っていた。

スルヴァは、

ゆっくりと立ち上がった。

膝がわずかに震えた。

長い間、動かなかった体が、

ようやく、自分自身を思い出したかのように。

そして――

スルヴァ「……ありがとう。」

かすれた声だった。

けれど、

それは確かに、

彼自身の、意志だった。

憐花は、にっこり笑った。

憐花「うん。

 ……おかえりなさい。」

風が吹いた。

小さな、小さな、

けれど、

確かな風が。

それは、

スルヴァの心にも、

憐花たちの心にも、

やさしく、あたたかく、

吹き抜けていった。

止まっていた世界に、

今、ほんとうに、

風が、生まれた。

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