第7話【スルヴァという男】
【スルヴァ回想】
あの日――ある戦場で
俺は、兵長として部隊の指揮を任されていた。
選ばなければならなかった。
動くか。
止まるか。
留まれば、
仲間たちは包囲され、全滅するかもしれない。
動けば、
突破できるかもしれない――
答えはなかった...
俺は、
動くことを選んだ。
……結果は。
多くの仲間を、
失った。
俺の選択で。
俺の責任で。
それ以来、
俺は恐れるようになった。
動くことが、大切なものを失うかもしれないということを。
ならばー
【 もう動かないほうがいい。】
俺のグレイカームはそんな俺の想いから生まれた。
止まることこそ、最も罪のない選択だと、
自分に言い聞かせた。
そして今、
俺はまた、選択を迫られている。
この町で。
町の奥にあるご神木。
かつて、この町の守り神だった大樹。
それは、
枯れかけていた。
このまま時間が過ぎれば
ご神木は、間違いなく朽ちるだろう。
だから俺は、
選んだ。
止めることを。
俺のソウルドライブ――
**「停止の領域」**を使い、
ご神木の時間を、
止めた。
だが、その影響で町の時間まで止まりつつある。
けれど俺はもう後戻りできない...
動けば、また失う。
止まれば、何かを守れるかもしれない。
それが、
俺に残された、
最後のプライドだった。
スルヴァは、
静かに空を仰いだ。
選択の重みが、
今も、肩にのしかかる。
本当は、
どちらを選んでも、
完全な救いなどないと知っている。
それでも――
誰かを傷つけるよりは、
自分ひとりが止まる方を、
選びたかった。
ただ、それだけだった。
……ほんのわずかに、
冷えた胸の奥で、
あの少女の飛ばした紙飛行機が、
小さく、震えながら漂っていた。
動かないはずの空気を、
かすかに揺らしながら。