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連関のストラーダ  作者: やせんちゅ
第2章【風の止まった男】
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第5話【止める想い】

憐花は、そっと口を開く。

憐花「……あなたは、ここで、何をしているの?」

スルヴァは、微動だにしない。

しばらく間を置いて、答えた。

スルヴァ「何もしていない。」

憐花は眉をひそめた。

確かに、彼は、ただ座っているだけに見えた。

けれど――

憐花「この町……

 水も、風も、人の心も、止まってる。

 あなたのまわりだけ、特に。」

スルヴァは、表情を変えずに言った。

スルヴァ「……それがどうした。」

碧斗が、少し前に出る。

碧斗「どうしたもこうしたもねぇよ。

 オレたちの知ってる"生きてる町"ってのは、

 こんな死んだみたいな空気じゃねぇ。お前は何も感じねぇのかよ!」

スルヴァは、かすかに目を伏せた。

それは、答えを拒むというより――

自分自身の中に、すでに答えがあることを、

どこかで知っている者の仕草だった。

スルヴァは、じっと座ったまま、

何も言わない。

憐花は、

改めて町を見渡した。

建物は整っている。

道も、人の気配も、消えてはいない。

なのに――

すべてが、止まっている。

憐花(……生きているのに、動いていない。)

そして、

自分たちが歩いてきたときに感じたあの冷たい風。

それは、この大樹の根元――

スルヴァのもとから流れていた。

確かに、感じた。

碧斗も、周囲を見渡して言った。

碧斗「……この空気、オレらが感じた異変、

 全部、あんたから流れてきてる。」

スルヴァは、否定しなかった。

ただ、目を閉じる。

その仕草が、

まるで「認める」代わりのようだった。

憐花は、

そっと前に踏み出す。

憐花「あなたが……この町を、止めてるの?」

スルヴァ「……俺は、何もしていない。」

そう言った声に、

かすかな、けれど確かな“意志”が滲んでいた。

スルヴァ「……ただ、ここに在るだけだ。」

それだけで、

世界は、静止してしまった。

動きをやめ、

風を失い、

流れを止める。

その事実が、

言葉以上に、この場所を支配していた。

憐花れんかは、紙飛行機を拾い上げながら、

そっと顔を上げた。

スルヴァ=トーンは、

大樹の根元に静かに座ったまま、動かない。

憐花は、もう一歩、彼に近づこうとした。

碧斗あおとも、少しだけ後ろで身構える。

けれど――

憐花「……っ。」

踏み出した足が、

信じられないほど重くなった。

まるで、

見えない何かに押し返されるような感覚。

手足の動きが鈍る。

呼吸さえ、うまくできなくなる。

碧斗も、顔をしかめた。

碧斗「……体が、重てぇ……!」

憐花は、必死に立ち止まり、

静かに問いかけた。

憐花「……これは、あなたの……?」

スルヴァは、目を伏せたまま、

静かに答えた。

スルヴァ「ソウルドライブ【グレイカーム】……俺に近づくほど、

 物質の動きも、感情の動きも、

 すべて、遅くなる。」

淡々とした声。

それは、脅しではなかった。

ただ――

警告だった。

憐花は、はっと気づく。

スルヴァは、

これ以上近づけばどうなるかを、

教えてくれている。

碧斗も、苦笑いしながらつぶやく。

碧斗「……そんなのありかよ。」

スルヴァは、無言で目を閉じた。

それは、

無意味な争いを避けたいという、

わずかな、

けれど確かな優しさの表れだった。

スルヴァ「……帰れ。」

その声に、敵意はない。

ただ、

深い、深い疲れと、

小さな、未練のようなものが滲んでいた。

憐花は、静かに紙飛行機を見つめた。

飛ばなかったこと。

届かなかったこと。

でも、

それでも、

心のどこかが叫んでいた。

――まだ、あきらめたくない。

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