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連関のストラーダ  作者: やせんちゅ
第2章【風の止まった男】
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第4話【止まった男】

町の奥には、

ひときわ大きな一本の大樹が立っていた。

幹はねじれ、

枝葉はどこか乾いた色をしている。

そして――

その根元に、

ひとりの男が、静かに座っていた。

灰色のコートに身を包んだ歴戦の兵士のような風貌

閉ざされたままの瞳。

空気すら拒絶するような、ひどく孤独な気配。

《スルヴァ=トーン》

風が止まり、

音が凍り、

時間さえも、

彼の周囲だけ、ひっそりと沈黙していた。

その気配は明らかに憐花達を拒絶している

憐花は、思わず足を止めた。

スルヴァは、ただ静かに、

遠くを見るような目をしていた。

そして、

その視線がゆっくりと憐花たちに向けられる。

冷たい空気のなかで、

大樹の根元に座る男は、

静かに、憐花たちを見上げていた。

スルヴァ「……ここに、何の用だ。」

その声に、

碧斗が、ひとつ肩をすくめた。

碧斗「さあな。

 オレは、ただ、こいつに付いてきただけだ。」

そう言って、隣の憐花を見る。

憐花は、一歩前に出た。

憐花「わたしは……夜空よぞら 憐花れんか。」

名乗った瞬間、

大樹を撫でる風が、かすかに揺れた。

続けて、碧斗も口を開く。

碧斗「碧斗だ。……まぁ、ただの旅人さ。」

スルヴァは、しばらく無言だった。

灰色の瞳が、憐花と碧斗を順番に見据える。

そして、

ほとんど興味もないような声音で、

ぽつりと名を告げた。

スルヴァ「……スルヴァ=トーン。」

それだけだった。

彼の周囲には、

名乗りに込めるべき熱も、感情も、存在していなかった。

ただ、

沈黙と静止だけが、彼の名を形作っている。

憐花は、そっと息を吸った。

彼のなかに、

どれほど深い"想い"が積み重なっているのか――

わからないまま。

けれど、

この冷たい空気のなかでも、

憐花の胸のなかには、確かに、小さな風があった。

まだ折れない、まだ消えない、小さな風が。

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