第4話【止まった男】
町の奥には、
ひときわ大きな一本の大樹が立っていた。
幹はねじれ、
枝葉はどこか乾いた色をしている。
そして――
その根元に、
ひとりの男が、静かに座っていた。
灰色のコートに身を包んだ歴戦の兵士のような風貌
閉ざされたままの瞳。
空気すら拒絶するような、ひどく孤独な気配。
《スルヴァ=トーン》
風が止まり、
音が凍り、
時間さえも、
彼の周囲だけ、ひっそりと沈黙していた。
その気配は明らかに憐花達を拒絶している
憐花は、思わず足を止めた。
スルヴァは、ただ静かに、
遠くを見るような目をしていた。
そして、
その視線がゆっくりと憐花たちに向けられる。
冷たい空気のなかで、
大樹の根元に座る男は、
静かに、憐花たちを見上げていた。
スルヴァ「……ここに、何の用だ。」
その声に、
碧斗が、ひとつ肩をすくめた。
碧斗「さあな。
オレは、ただ、こいつに付いてきただけだ。」
そう言って、隣の憐花を見る。
憐花は、一歩前に出た。
憐花「わたしは……夜空 憐花。」
名乗った瞬間、
大樹を撫でる風が、かすかに揺れた。
続けて、碧斗も口を開く。
碧斗「碧斗だ。……まぁ、ただの旅人さ。」
スルヴァは、しばらく無言だった。
灰色の瞳が、憐花と碧斗を順番に見据える。
そして、
ほとんど興味もないような声音で、
ぽつりと名を告げた。
スルヴァ「……スルヴァ=トーン。」
それだけだった。
彼の周囲には、
名乗りに込めるべき熱も、感情も、存在していなかった。
ただ、
沈黙と静止だけが、彼の名を形作っている。
憐花は、そっと息を吸った。
彼のなかに、
どれほど深い"想い"が積み重なっているのか――
わからないまま。
けれど、
この冷たい空気のなかでも、
憐花の胸のなかには、確かに、小さな風があった。
まだ折れない、まだ消えない、小さな風が。