プロローグ
歩くたびに、景色は変わっていく。
けれど、心はなぜか――どこにも辿り着けなかった。
世界が止まって見えたのは、
自分の中の風が止まっていたからかもしれない。
意味なんて、ないと思ってた。
届くなんて、期待してなかった。
それでも、私は飛ばしたーー
フワリと
ーー優しい風が吹いていた。
また紙飛行機を飛ばす。
小さな紙飛行機が、淡い風に乗って跳ねた。
いつものように、 朝焼けの中へ、吸い込まれるように遠ざかっていく
―― そう思ったのに。
紙飛行機は、ふわりと旋回して、 ゆっくり、私のもとへ戻ってきた。
驚きながら手に取り、紙を広げる。
そこには、 震えるような字で、こんな言葉があった。
『疲れたときは止まってもいいよ
あなたがまた歩き出せますように
憐花』
……ああ、私だ。
私が込めた、誰かへのメッセージ。
でも今、 それは、誰よりも私自身に向けられていた。
その時、感じたんだ。
この世界は、 ちゃんと、私のことを見ていたって。
たとえ偶然だとしても―― 確かに、心が動いたから。
だから、また飛ばそうと思える。
今度は誰かのために。
そして、私自身のために。
これはそんな私の、風に導かれた小さな旅のはじまり。