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パパは異世界ATM 〜家族に届く育児クラフト〜  作者: taniko


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第70話 フェラドの才能


 タトゥーとモノクルは、現在の技術では再現が難しいらしく、商品化は却下された。


「無念です……。でも、面白い発想なので、頭に入れておきます。

 火傷痕も……確かに、隠して俯いてるより、広告塔にしてる方が、良心も痛みませんよね。

 ポリエクロスで良いものを作って、宣伝にするのもいいかもしれません。すぐにやってみます」


 メルカトがすっきりとした顔をして笑っている。年長者として、少しはお役に立てたようだ。


「片付いたっすか〜? こっちは積み込みもオッケーっす」


 フェラドがひょいとメルカト家を覗き込んでくる。


「あぁ。……行けそうだ」


 メルカトが三年住んだ部屋をしばらく眺めてから、フェラドの方を振り返った。


「おっ? なんか片付けと一緒にモヤモヤも解決した?」


 その、遠くを見据える双眸に、フェラドが敏感に気づいたようだ。


「ちょっとライチさんに話を聞いてもらって、スッキリしただけだよ」


 普段はヘラヘラしているフェラドが、優しいお兄さんの顔で微笑む。


「……そっか。そりゃよかった」


 二人のやりとりを温かい気持ちで見守っていたライチだが、フェラドの顔を見て、次にやりたかったことを思い出した。


(そうだそうだ、金属加工の方も、フェラドがいるついでに進めたいんだよなぁ。まずは軽く、フォークと箸と絞り金具が欲しい……)


 フォークも箸も木製でもいいし、絞り機も、ひとまずはところてんシステムで考えているので、木製で作れるだろう。

 しかし、できれば持ち歩く箸は金属製で折れないものがいいし、特にフォークは、ゆくゆくは金属製にして上品な貴族から広めていきたいと考えている。農具などのこれから必要になる道具のことを考えても、木工屋と鍛冶屋とは仲良くなっていて損はないだろう。

 今回は、フェラド経由で顔見知りになるのが一番の狙いだ。


「フェラド。この後、もしよかったら、少しフェラドのご実家に顔を繋いでもらえないかな? 今後、金属加工品の発注をちょくちょくしたくなるだろうなって思って」


 それを聞いたフェラドはカラカラと笑う。


「いっすよ〜。工房に着いた途端、キレオヤジに色々ぶん投げられるか、直接俺を殴りに来ると思うんで、覚悟だけしといてくださいっす」


 メルカトは“発注”の言葉に耳が大きくなったようだ。


「今度は何を作る気ですか? プルデリオさんに言われてますよね? 何か作る気なら話を通せって」


「……そんな事言われたっけ」


 心の声がそのまま漏れたライチに、即座にツッコミが入る。


「『その知識を出す際の相談役として、我々を使ってくれないか』と、言われてましたよ」


 メルカトが微妙にモノマネを交えながら教えてくれる。言われてみれば、確かにそんな事を言っていたような。


「え? あれって、相談事があったら頼ってね!って親切的な意味じゃないの?」


「そんなワケがないでしょう。『君の知識は特殊なので、その知識を出すときは独断で勝手せず、必ず相談すること!』という釘刺しですよ。

 “金の成る木”さん、そろそろご自覚なさってくださいね」


 十八やそこら。ひと回り以上も年下に呆れた目で諭されてしまった。


「ぐぐ……。じゃあまた今度、相談してから作……る……」


 しょんぼりとうなだれるライチに、メルカトが“仕方がないな”という声音で提案する。


「俺とムリーナはこのまま先にプルデリオ家へ戻ります。ライチさんはフェラドと二人で発注に行くといいでしょう。プルデリオさんに先に報告が届くように、伝言をしておきます。

 もちろん!今から何を作るつもりか聞いて、その内容によりますが」


 最後のところは、一言ずつ、強調して言われた。


「えええっと……こんなのが欲しいんだけど……」


 ライチは、欲しいもの、今回は木製でも構わないこと、ゆくゆくは金属にして量産したいから、まずは個人発注で顔を繋ぎたいことなどを伝えた。


「…………まぁた、内緒で、ここにないものを作り出そうとしてるじゃないですか……。しかも量産狙いの確信犯……」


「ふむ……」


 メルカトが頭を抱えた。フェラドは珍しく顎を持って、じっと考え込んでいる。


「……はぁ。……俺がざっくり聞く感じだと、いったん個人で発注するのは、問題ない製品かなと思います」


 キャパオーバー分を、一つのため息で吐き出したメルカトが、ライチにゴーサインを出してくれた。


「よかった!伝言、よろしく頼む」


「あ、メルカト、ちょっと待ってほしいっす」


 安心したライチに、フェラドが、ずずいと身を寄せてくる。


「ライチさん、ざっくりとした説明じゃなくて、ちゃんと説明してもらっていいっすか? “ふぉーく”って、食べ物に触らず食べられる食器は、『ナイフの先が刃でなく三又になって尖ってるもの』って話してたっすけど、そんなので刺しても、穴が開くだけで食べ物は落ちるっすよね? 三又の大きさは? 長さは? 尖るって言っても色々あるし」


(わ……何だこの子……金属加工の話になると目の色が変わるじゃないか……)


 普段のヘラヘラとは別人のようにぐいぐいと詰め寄ってくる。


「そ、そう。真っすぐだと落ちやすいから、ちょっと先が……こんな風に曲がってるんだよ。これで、軽くすくい上げて持ち上げるわけ。

 三又のところは、その通り、あんまり鋭利だと危ないから、先がこう、潰してあるかな」


 ライチは長めの小石を拾い、地面にフォークの絵と、先端の拡大図を描いた。


「ふむ……なら、まずは鉄板くりぬきの型を作って、カーブは手作業で曲げる感じで作る方が量産に向いてそうっすね。

 サビ止めにスズのメッキ入れるか、貴族向けなら銀メッキをくぐらせてもいいかも。

 今すでにナイフに使ってる細工職人の細工柄があるんで、先を三又のフォークに付け替えて、揃いで売り出したら、統一感があって売れそうっすね。

 ……いやまぁ、価格とかは知らねっすけど」


 フェラドが、その絵のそばにしゃがみこんで、思案を垂れ流す。


「……え?」


「……ライチさん。フェラドは、手先は本当に底なしに不器用だし、文字も数字も苦手なんですが……金属加工に関しては、実は結構な才能があるんですよ」


「底なしに不器用って!ちょっとメルカト酷いっすよ〜。事実っすけど。

 オヤジには上手く伝えらんなかったっすけど、昔から、何をどうやったら欲しいものが出来るか、みたいな、“脳内鍛冶”だけは、めっちゃできるんすよね〜。それを作る手がないんじゃ、全く役立たずっすけど!」


(全く役立たず、なんて、とんでもない!!)


 顧客の求めるイメージと、実際の加工を繋いでくれる、言わば設計士ではないか。しかも、現場仕込みの設計士。皆、喉から手が出るほど欲しい人材だ。未来の技術を再現したいライチにはピッタリの能力である。


「フェラド!メルカトの言う通り、これはすごい才能だよ!客の欲しいものを、具体的にイメージして、現実的に可能にするのは、今後もしかしたら、手先の器用さ以上に必要になってくる人材だぞ!自覚持って!!」


 ライチは埋もれていた才能の発掘に大興奮して、フェラドの肩を揺する。


「そ……そうっすかね……? オヤジにどやされて、アニキたちには笑われて、鍛冶でいい思いなんてしたことなかったっすけど、ちょっとは俺にも良いところがあったんすかね」


 へへ……と自信なさげに鼻の下をこするフェラドに、ライチは切なくなる。


(脳内ではもっと良くするにはどうすればいいか、実用のイメージまで持てるのに、それが出来なくて出来損ない扱いされるのは、さぞかし歯がゆかっただろうな……)


 ライチは、メルカトに木札と金属ペンでのメモを頼み、急いで“発注書”を作ってもらうことにした。これは、場数を踏んで、自信をつけてもらいたい。


「……うん。フォークはこれでいいとして、次は箸だな」


 実用イメージを伝えると、フェラドがどんどん質問をして形にしてくれる。


 箸は、箸先に溝を入れたら滑り止めになって調理向きになるのだが、溝は口から抜く時に食事の邪魔をするので、食べるのには向かない。

 ライチは両方に使いたいし、なんなら、クラフトであれこれ大鍋で煮てきたように、料理じゃないクラフトにも箸を使う日が来るかもしれない。そうなると、食事用の箸だが、少し長めに作ってほしい。


(おっと……詳しく聞かれてみると、箸に対して、棒切れ二本ありゃいいや〜くらいに思ってたのに、意外と思い入れが強かった)


「……なら、先は尖らして、先端は丸く削って、挟む部分はやすりでざらつき加工とか入れるといいっすね。量産目的でない特注品なら、銀製のハシにしてもいいかも。純銀は柔らかいんで、銅を混ぜると強度が上がるっす。

 ……あ。ハシって、丸かったら、置いたとき転がり落ちないっすか?」


(い、イメージ力の鬼……?!)


 確かに、丸い箸は転がる。お子様なんかは、四角いものも多いし、三角のものも見かける。三本指で持つ特性上、三角形や五角形などの奇数角が持ちやすいとかも、聞いたことがある。


「……ということなんだけど、フェラドはどう思う?」


 箸の角について、何も知らないフェラドに相談してみた。

 そして、しばらく質問を重ねられた末、箸なんて見たことも聞いたこともない彼のアドバイスにより、“七角形など、丸に近い多角形の方が、持ちやすさも兼ねつつ、口当たりが良さそうだ”という結論に至ったのである。


 メルカトが、フォークと同じく木札の発注書にまとめてくれる。


「……ほら!フェラド、君は本当にすごい!未知の箸に対して、いつの間にか客に提案までできてるじゃないか!凄いことなんだよ!……くぅ……伝わってるのかなぁ」


 ポカンとした感じのフェラドの様子が悔しい。これは、是非ともご実家の金属加工屋で残りの絞り金具について熱い議論をして、周りをビビらせてやりたいところだ。


「よし。絞り金具はご実家で詰めよう。レッツゴー!」


 メラメラと燃える目をそのままに、ライチはさかさかと南門へ向けて足早に進み始めた。


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