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女悪魔ナーマ

 燃え盛るテントと地を流れる血によって、漆黒の夜は赤く染まった。

 艶やかに飛び回る悪魔により、女達は惨殺され男達は生気を絞りとられる。


「ジル、コイツ等は本当に悪魔なのか?」

「はい、下級悪魔のリリスです。男の生気を吸ってエネルギーにしています」

「まさか悪魔と遭遇するとはな」

「戦えますか?」

「ああ、大丈夫だ。いくぞ!」


 アルの掛け声と同時に二人は正反対に飛び出し、コチラをおちょくる様に飛び回っているリリスを一体一体切り伏せる。

 3体目を切り伏せた次の瞬間、首に冷たく鋭い感触が触れた。


「ようやく見つけたわ……愛しのアル様」と、アルの首筋を舐める。


 素早く後ろに飛びのくと、さっきまで居た場所にリリスとは違う妖艶な女が立っていた。

 異変に気付いたジブリールが駆けつけ、アルと女の間に割って入る。


「あなた、リリスではないですね」

「ふふ、あんな下級悪魔と一緒にされたくないわ。あの子達は私の手下よ」


 女の発言にジブリールが目を見開き驚く。


「もしかして……あなたは上級悪魔なんですか?」

「そう言う者もいるわね。(わたくし)の名前はナーマ。是非覚えておいてね、ねぇ大天使様?」

「っ! 貴様! 何故それを!?」

「貴女の魔力を感じ取れば簡単よぉ。隠蔽(いんぺい)しているようだけど、私には通じないわ」

「なるほど。自分で言う様にただの悪魔ではないですね」

「褒めてくれてありがとう」


 そう言いながら不敵な笑みを浮かべると、ナーマの視線がジブリールの後ろへ移った。


「ただ、(わたくし)に構っている場合かしら?」


 ナーマの視線の先を見ると、倒れ伏して苦しんでいるアルの姿があった。


「アル!」


 叫ぶと同時に疾風の如くジブリールはアルの元へ駆け寄り抱き上げた。


「大丈夫ですか! っ!? この魔力は!」

「うぐぐ……」


 大魔王の魔力が普段よりも多く流れ出していて、その魔力がアルを苦しめているのだと察したジブリールはすかさず吸魔を開始する。

 その光景を見ながらナーマが言葉を発する。


 「(わたくし)の魔力に反応しているようね。ふふ、やはり素敵だわ」


 ナーマの言葉を無視してジブリールは吸魔を続ける。

 すると、アルの身体に刻印のようなアザが広がっていく。

 その刻印を見たナーマが呟く。


 「やはり、アル様は私達『神界の民』に必要な存在……そうでしょ、大天使様?」

 「くっ! 貴女、ここで決着をつける気ですか!?」

 「別にそんな気は無いわ。ただ、アル様にはすっごく興味があるの」

 

 その言葉で腕の中のアルを強く抱きしめるジブリール。

 

「そんなに警戒しなくていいわ。全てはアル様が決めることだもの」

「それはどういう──、逃げられましたか」

 

 意味深な言葉を残し、ナーマはリリス達を連れ闇夜に消えていった。



 ナーマが去った後、ジブリールは死体だけになった野営地を後にし、大きな木の下にあった樹洞(ウロ)の中に身を潜め、アルの吸魔を続けた。


 そして長い夜が明け、朝日が樹洞の中に差し込む頃、やっとアルが目を覚ました。


「アル! 気分はどうですか?」

「うぅん、俺は一体どうなったんだ?」

「昨夜の女悪魔、ナーマが大魔王の魔力に干渉したみたいです」

「それで魔力暴走気味になって意識を失ってたってことか」

「ええ。ですが、私が吸魔を施したのでなんとか落ち着いてくれました」

「そうか。またジルには迷惑をかけてしまったな、ごめん」

「謝らないでください! 悪いのは全部あのナーマとかいう悪魔なんですから」

「……そうだな」


 アルは樹洞から出て朝日を浴びていると、左手の甲に今までなかった刻印があるのを見つけた。

 後から出て来たジブリールに尋ねる。


「なぁ、この刻印みたいなのって何か分かるか?」

「実は────」


 ジブリールは昨夜アルの身に起こった事を話した。


「じゃあこの刻印は、そのナーマとかいう悪魔の仕業かもしれないってことか」

「恐らくですが」


 アルは腕を上げ下げしたり、手のひらを閉じたり開いたりして何か問題がないか確かめる。


「うーん、今のところは何の異常も無いな」

「ですが、ずっと放っておく訳にはいかないと思います」

「だな。今度ナーマが現れたら聞いてみよう」

「素直に答えてくれるとは主ませんが……」

「でも今のところ手掛かりはナーマしか無い訳だしな。どうしても話さないなら力ずくに聞くしかない。その時は頼りにしてるぞ」

「はい、お任せください」


 いさぎの良い返事をしたジブリールだったが、ナーマが自分の正体を見破っている事から、容易くいかないだろうと感じていた。


 キャラバンが崩壊してしまったので、徒歩でカルムの街に向かう事になったが、幸い街の近くまで来ていたので日が沈む前に街に到着できた。

 街の入り口で門番が入行証を確認していた。


「ようこそカルムへ。入行証を見せてくれ」

「これです」


 ここでも今までの旅で培った偽装が役に立つ。


「旅の商人なのか。うむ、入館証に間違いはないな。通っていいぞ」

「ありがとうございます」


 愛想よく振る舞って、無事に街に入る事ができた。


「今日は歩きっぱなしだったし、このまま宿屋に行こう」

「そうですね。さすがに私も疲れました」


 入口からまっすぐ伸びている路地は街の中心地まで伸びていて、中心地に近くなる程宿屋の質と料金が高くなっているようだ。

 疲れ切っていた二人は一刻も早く休息を取りたいと思っていた為、入り口から少し離れた安い宿屋へ飛び込んだ。

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