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遠雷  作者: 北野 いまに
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最後の街灯点灯

 隊長と護衛は、司祭の案内について行きながら、町の様子を用心深く観察した。最初に町に入ったときと変わりなく人々は穏やかで、日々の仕事に精を出しているようだ。郷軍兵士とおぼしき者も何人か見かけたが、やはり通常の警邏中らしく、周りに目を配ってはいるものの緊張感には欠ける。




 郷主邸の入り口脇にある兵士詰め所には、何人かの兵士が集合していた。何かの準備をしているようだが、まだ時間があるらしく適当に座り込んでのんびりと進めている。

 司祭が詰め所の中を覗くと、その中の一人がさっと立ち上がった。それを見た残りの兵士も立ち上がって姿勢を正した。礼儀正しく司祭に目を向けているが、何人かは隊長達の方を不審そうにちらちらと見ている。修道士が武装しているのだから、怪しく思うのも無理はない。

 最初に立ち上がった兵士が司祭に挨拶をした。ここにいる兵士達の指揮官らしい。あからさまな警戒の表情を浮かべてはいないが、やはり武装している隊長を怪しんでいるようだ。


「こんにちわ、司祭様」

「こんにちわ、バレッシュさん。いつになく集まっていらっしゃるようですが、何かあるのですか?」

「ああ、ほら、今日は魔術師を送り出す日ですからね、郷主から命令があり次第実行できるように準備してるんです。お連れになっているのは神殿に新しく入った修道士ですか?」


 バレッシュの目が、用心深そうに光った。


「いえ、ここの神殿の修道士ではなく、王都から魔術師が追放されることを確認しに来られた使いの方々です」

「それは、遠路はるばる、大変でしたね」


 バレッシュは隊長達に向かって愛想良く会釈した。司祭の紹介を受けて怪しむ様子は影を潜めたが、新たに迷惑そうな表情が浮かんだ。

 隊長は、ほんの少し、バレッシュと呼ばれた指揮官に同情した。魔術師追放という重要な仕事に備えているときに仕事ぶりを確認しに来られるなど、現場指揮官にとっては迷惑以外の何物でもないはずだ。しかし、こちらも、悪魔の技を使う者達を確実に排除するために来ているのだ。引っ込むわけにはいかない。

 とは言え、トラブルはごめんだ。仕事はしっかりさせてもらうが、少しは譲っておこう。そう考えて、隊長は、微笑んで会釈を返した。


「お邪魔はしませんので。よろしく」


 バレッシュは、薄く苦笑いを浮かべてうなずいた。どうやら邪魔が加わるのは仕方が無いと諦めたらしい。




 郷主は、司祭が武装した修道士を突然連れてきたことに驚いたが、教主の使いと紹介されたことで明日到着するはずだった修道軍だと察し、素知らぬ顔で彼らを客室に招き入れた。隊長達が勧められた席に座ると、郷主と先ほどの指揮官が対面する席に座り、護衛の兵士二名が郷主の後ろに立った。

 油断はしないが特別に隊長達を警戒しているわけではないという意思表示だろうと、隊長は思った。初対面の武装した者に向ける態度としては穏当だ。この郷主は魔術師追放を渋っていたと聞いているが、何かの対抗策を採る気配もないところを見ると、ついに諦めたのだろう。今日追放を実行するというのも間違いないようだし、それについては安心して良さそうだ。そう思うと、ロースベルに知らせに行って殉教した修道士が憐れで仕方が無い。

 郷主と話すうちに、隊長は、驚愕の事実を知った。あの殉教した修道士がロースベルに発った時、すでにマーリングでは魔術師追放令が出ていたのだ。


「では、何故あの修道士は無理をしてロースベルに知らせに行ったのでしょう?」


 隊長が思わず口にした言葉に、郷主が冷たく応じた。


「知らぬ。大方、挨拶に訪れた魔術師達を見て何かの妄想に取り憑かれたのだろう」

「郷主、殉教した者にそのような言いようは少し……」


 司祭が遠慮がちに指摘したが、郷主はうるさそうに顔をしかめた。


「あなたは、妄想に取り憑かれて勝手をした者に、その行いを称える言葉を使うのか?」


 郷主の声には、抑えきれない怒りが滲んでいた。

 司祭は、郷主の怒りを敏感に感じ取り、目を伏せた。

 隊長は、つまらない思い込みでマーリングを不利な立場に追い込んだ修道士に対して郷主が強い怒りを示すのも無理はないと思い、取りなすつもりで慌てて口を挟んだ。


「郷主、私どもはもう反乱のことなど信じておりません。どうか、間違った情報を伝えたとはいえ、誠実ではあった修道士にお許しをいただけないでしょうか」


 郷主は、一呼吸の間に怒りを抑えこんだ。


「隊長殿、あの修道士がどのような者であったかはもう良い。それより、マーリングが反乱など目論んでおらんことをはっきりと王都に報告していただきたい」

「はい。この町の状況を把握し次第王都に戻り、すぐに報告いたします」

「魔術師の追放を確認したいと言っておいでだったな。では、郷軍と共に行動してもらおうか」

「魔術師追放に立ち会えとおっしゃるのですか?」


 隊長は、思わずバレッシュに目をやった。

 バレッシュは、目玉を上に向けて、難しい顔で天井を睨んだ。


「よろしいのでしょうか?」


 そこまですると郷軍と修道軍の関係が悪くなるのではないかと危惧した隊長は、恐る恐る訪ねた。

 郷主は、バレッシュを一睨みして暗黙の抗議をやめさせ、司祭に声を掛けた。


「司祭殿、修道軍の兵はすでに到着しているのだな。ここに彼らを呼んで頂けまいか。郷軍と行動を共にするなら、あらかじめ顔を合わせておく方がよかろう」


 神殿の権威を尊重して依頼の形を取っているが、明らかに命令だった。隊長は、このような郷主と司祭の関係が殉教した修道士に妄想を抱かせた原因だろうと思った。ただ、殉教という言葉が適切かどうか、自信が持てなくなっていた。




 司祭は、急いで郷主邸を出て、道々思案しながら神殿に急いだ。

 郷主はいつになく気むずかしかったが、少々芝居がかっていたようだ。当初予定していた魔術師追放の期日に触れず、嘘にならない範囲で情報を伏せて隊長を誘導していた。それに、修道士の行いを非難した言葉は、妙な言い回しだった。郷主は、例え相手が平民であっても、安易に人を貶める方ではない。おそらく、「妄想に取り憑かれて勝手をした者」とは修道士のことではなく、教主や修道軍のことなのだろう。妄想に取り憑かれたのか、あるいは勢力を広げるための方便か、上手に使えば人々の幸福に貢献できる魔法を排除する愚かな人々の事だ。

 司祭を使いに出すなどという常識外れなことをなさるということは、使いが司祭自身でなければならないことがあると考えるべきだ。

 今の場合、それが何かは簡単に分かる。何かの問題が起きる前に魔術師達に退去してもらうことだ。それに、今日までは魔法職人が仕事をして良いことになっているのだから、修道軍に見つかる前に彼らを止めることも期待されているだろう。このようなことを修道軍の目の前で郷軍に命じられるわけがない。




 司祭は、神殿に戻ると修道兵達に郷主から呼ばれていることを伝えた。案内を頼まれたが、「私を使いに出したということは同席が望ましくないということだろうから」と言って断り、代わりに簡単な案内図を渡した。修道兵達は、郷主が司祭を部下のように使うのはおかしいと思っていたが、そういう理由もあり得るだろうと納得し、連絡係と称する一人を残して出て行った。

 残った一人は、すっかりくつろいで、正面アプローチの柱にもたれて郷主邸に向かう他の修道兵達を見送っている。司祭は、その修道兵に、用事があるので少し後で出かけると言い置いて神殿長室に戻った。あまりにすぐ出かけては何かあると勘ぐられそうだ。どの位時間をおけば良いだろうか?




 最初のうち子供達は、街灯を点けるティルダとハンナマリを取り囲むようにして二人の側を歩いていたのだが、そのうちおとなしく歩くのにも飽きてそれぞれに遊び始めた。遊びが盛り上がるにつれて二人との距離は広がったが、結局、いくつかのグループに分かれて遊びながら、なんとなく彼女たちとつかず離れず移動していた。

 ハンナマリとティルダが町中の街灯を点け終わり、子供達は神殿に向かって歩いていた。神殿前の街灯がマーリングで点ける最後の街灯だ。

 神殿前にさしかかったとき、数人の修道士とすれ違った。子供達は遊びに夢中で彼らに気付かなかった。ハンナマリ達も友人とのおしゃべりに気を取られて、無意識に少し道を譲っただけだ。しかし、修道士達は子供達に気付き、元気に遊ぶ様子に顔をほころばせながら道の反対側に寄って、彼らを邪魔しないようにした。




 修道士達が最初の角を曲がる頃、子供達は神殿前の街灯に到着した。


「さあ、これが最後よ。ティルダ、あたしにやらせてね」

「もちろん。ハンナマリがやらなくっちゃ」

「よおし、がんばるぞー」

「明日の夜まで光らせろっておじさんが言ってたぞ。がっちり行け!」


 ハンナマリが気合いを入れていると、ハンスが煽った。


「任せといて。いいアイデアがあるんだ。初公開よ」

「いいアイデアって何だ? 街灯が火でも噴くのか?」


 ハンナマリは、ハンスの突っ込みを鼻で笑い飛ばした。


「何言ってんのよ、呪文のいいアイデアよ。見て驚きなさい!」

「よし、行け」

「しっかり見ててやるぞ」

「任せてっ」


 友達の声援を受けたハンナマリは、街頭に真っ直ぐ向かって呪文を唱え始めた。初めて使ういいアイデアは、ハンナマリ自身にも意外だったことにしっかりと効果を上げ、アルヴォには及ばないものの、かなり短い時間で街灯が光り始めた。ハンナマリは、友達が挙げる感嘆の声を聞いて気を良くしながら、しかし、真剣に呪文を唱え続けた。


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