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遠雷  作者: 北野 いまに
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お昼

 朝食の片付けを終えると、ヌーティはサロモンとアルヴォに手伝わせて、食料庫の中身を洗いざらい橇の横に移動させた。大人二人に食べ盛りの子供二人の冬の保存食料は、想像以上の量があった。


「なんだか思ったより多いなあ。こんなに買い込んだっけ?」


 ヌーティは、自分で手配したはずの食料の量に驚いた。


「これ、全部積めるかな?」


 タルッティもそれに近い量を持ち出してきたが、二軒分の食料を見て満足そうにうなずいている。


「このくらいなら大丈夫だ。冷やしておきたい物を床下に入れて、もし入りきらなければ乾物の類いを袋に入れて天井から下げたっていいわけだし、箱に詰めて外にくくりつけてもいい。それに、配置を工夫して床下を二段にすることだってできるぞ。そのための板も用意してある」


 タルッティは、薄い幅広の板が立てかけてある家の外壁を指さした。


「ああ、余った板かと思ってた」

「そんな板は一枚もないさ」

「こりゃ随分と積めそうだな」


 ヌーティは、その説明に納得して、食料に向き直り、改めて量の多さに感心した。二家族が一冬で使う保存食料の量がこんな量だとは、今まで気付かなかった。これでも、厳冬期の間に随分と消費したはずなのに。


「さあ、積み込むぞ。前から四番目から七番目までの床下に入れてくれ。冷たくしておきたい物から先に積むんだ。その上に棚板を張って、室内の熱から守るから」


 食料を持ち出してきただけで落ち着いてしまった皆に、タルッティが気合いを入れた。

 全員がすぐに気持ちを切り替えて、タルッティの指示通りに食料を積み込み始めた。

 ヌーティが自分の出してきた食料を積み終えて、ふと気付くと、ホルンが持ってきた食料が随分と少ない。


「ホルン、あんたは食料を持ってきていないのかい? まさか家に残してきた?」


 尋ねるヌーティには、ホルンは笑った。


「家に残してくるわけがないだろ、二人乗りの橇じゃそんなに運べないから、旅の資金にしようと思って売ってきたよ。途中でお金が必要になることも多そうだもの」

「そうか、金なら融通が利くしな。ありがたい。でも、持ってきてるのが豆やら乾燥野菜ばかりだな。どうしてこんなに偏ってるんだ?」

「ペールがね、そういうものの方が好きなのさ」

「なるほどね、カニンだからかな。まあ、野菜が多いのはありがたいよ。肉は途中で鹿や兎を狩れば手に入るだろうし」


 食料を積み終えると、タルッティがパニラとアルヴォに手伝わせて、厩から飼料の袋を運び出してきた。重そうな袋がいくつもあるし、ばら積みの干し草もなかなかの量だ。


「これ、アルセスの飼料か?」


 ヌーティが自分では持ち上げられないサイズの袋を掴んで揺らしながら聞いた。


「そうだ。穀物やら豆やら、栄養たっぷりの飼料だ」

「アルセスなんざ、そこらで雪の中の草を掘り出したり木の皮でも剥いだりして食べれば十分だろう」


 ヌーティがアルセスの厚遇ぶりにびっくりすると、タルッティがえいやと袋を担いで橇に放り上げながら答えた。


「魔法で持ち上げてもらうにしても、この橇を引くのは結構な重労働だろ。栄養不十分で体調を崩されても困る。餌を探す時間を十分に取れるとも限らないしな」

「なるほどなあ、タルッティもよく考えてるなあ」

「アルセスを飼っていたわけでもないのによく気が回ったものだ。参謀に欲しいくらいだな」


 サロモンが呟いた。

 それを聞いたヌーティは、片眉を上げた。


「普段からこうなら欲しいかも知れないけど、俺は、追い込まれないとただの臆病者の参謀なんて嫌だぞ」

「だが、随分と頼りにしているようではないか」


 サロモンも片眉を挙げて応じると、ヌーティは笑って答えた。


「参謀じゃなくて仲間ならあれでいいんだよ」




 大物を積み終えた頃、昼になった。昼食にと残しておいた食料をテーブルに並べている時に、近所の住人達が煮込み料理や乾燥果実を持ってきた。一人一人は少しずつだったが、数人が持ってきたので随分と豪勢な昼食になった。お返しをすることもできないヌーティやタルッティは恐縮したが、持ってきた者達にはそんなことを気にしていなかった。

 昼食の準備ができた時にハンナマリとティルダが帰ってきた。


「わあ、乾燥果実だ。リンゴとベリー。わあ、何種類もある」

「うちのはもう切れてたの。うれしい」


 二人は、早速乾燥果実に手を伸ばした。

 大人達はその様子を眺めながら食事を進めたが、二人がそればかり食べるので、ついにパニラが叱った。


「乾燥果実ばかり食べたらだめよ。それは保存が利くんだから、後からでも食べられます。まず、煮込みを食べちゃってちょうだい」




 食後は、小物を積む。いろいろな道具などは午前中にまとめて積んでしまったので、午後は個人の持ち物が中心だ。

 ハンナマリが悩んでいた。


「もう学校には行けないのよね。学校の道具も要るのかなあ?」


 ハンナマリの独り言に、ヌーティが鼻を鳴らした。


「要るに決まってるだろう。持って行け。石版と石筆も忘れるなよ」

「じゃあ、しっかり荷造りしなくちゃ」

「すぐ出せるようにしておけ。しっかり荷造りしてしまったら、使いにくいだろう」

「えー、旅してる間も勉強するの?」

「当たり前だ」


 ヌーティがそう言うと、ハンナマリが何やらぶつぶつ言いながら渋っている。


「お前、魔術師を目指してるんだろう。勉強を続けるのは大事なことだぞ」

「でも、旅の間は難しいんじゃない?」

「魔術師になるのが遅れてもいいなら、勉強しなくていい」

「そんなの、やだ」


 ハンナマリは、慌てて勉強道具を橇の中でも手元に置けそうな鞄に詰め込んだ。その後ティルダに勉強道具が必要だと伝えにピリス家に行ったが、ティルダは、とっくに勉強道具を橇の居住部に積み込んでいた。




 昼食後二時間も経たないうちに荷物を積み終えた。大人達は、荷崩れしないように、食料の壺が割れないように、など、荷物の固定に余念が無い。

 頃合いを見て、ヌーティがハンナマリに街灯点灯を言いつけた。


「そろそろ街灯点灯に行ってくれ。いいか、明日の晩まで光るくらいしっかり魔法をかけてこい。明日来る修道軍とかいう奴らに、どれほど良いものを失ったのかを思い知らせてやるんだ」


 それを聞いたハンナマリは、奮い立った。


「うん、そうか。そうよね。よおし、やるぞお」

「頑張ろうね」


 ハンナマリとティルダは、張り切って出かけていった。

 その頃には、最後にひと遊びとばかりに近所の子供達が集まってきていた。その子達は、ハンナマリ達と一緒に出て行った。

 最近仲の良いアルヴォと過ごそうと思っていたハンスが、人が減って初めて肝心のアルヴォがいないことに気付き、サロモンに聞いた。


「おじさん、アルヴォは?」

「窯業組合の窯の面倒を見に行った。あの子の最後の仕事だよ」

「そうかあ。じゃあ、俺もハンナマリを応援しに行こう。神聖教の奴ら、夜でも明るいマーリングを見てびっくりすればいいんだ」

「そうだな。君達が応援してくれれば、ハンナマリとティルダも良い仕事ができるだろう。頼むよ」

「任せとけ」


 ハンスは、先に出ていった他の子を追いかけて走って行った。


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